心臓・血管・血液の病気

前田健さん急死…死因と言われる虚血性心不全とは

タレントの前田健さんが虚血性心不全のため急死されました。虚血性心不全は予後の悪い病気ですが、予防と早期発見によって見通しはかなり改善できるものです。心臓外科医としての視点から、その方法を探ってみましょう。

米田 正始

執筆者:米田 正始

心臓血管外科専門医 / 心臓病ガイド

44歳という若さで……前田健さんの死因となった虚血性心不全

救急車

直前まで元気だった人の突然の死に、多くの人が驚きと悲しみを隠せずにいます

松浦あやさんのものまねで大ブレークしたタレントの前田健さんが44歳という若さで急死されました。以下はNHK News Webからの引用です。
お笑いタレントの前田健さん死去
4月26日 18時08分

お笑いタレントの前田健さんが、24日に東京都内の路上で倒れ、虚血性心不全のため26日未明に搬送先の病院で亡くなりました。44歳でした。

前田さんは、東京生まれで、20歳のときにアメリカに渡り、ダンスや歌などを学び、帰国後はコメディアンを目指してタレント活動をはじめ、一人芝居やものまねなどで人気が出ました。
なかでも歌手の松浦亜弥さんのものまねがブレークし、多くのバラエティー番組で活躍したほか、近年はテレビドラマにも出演し俳優や振り付け師など活動の幅を広げていました。
前田さんは、24日の夜、夕食をとったあとに東京・新宿区の路上で突然倒れ、心肺停止の状態で病院に搬送されましたが、虚血性心不全のため26日午前1時すぎ、44歳で亡くなりました。

虚血性心不全とは

多くのファンに愛され、かつ
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赤い細い血管が冠動脈で、これが詰まると心筋梗塞になり虚血性心不全へとつながります

芸能仲間からプロ根性を尊敬され将来を期待されていた前田健さんを襲った虚血性心不全とはどういう病気なのかを解説します。

まず「虚血性」とは狭心症や心筋梗塞などに代表される冠動脈の狭窄(狭くなること)や閉塞のために起こる病気という意味です。冠動脈は心臓に血液を送る大切な血管ですので、これに異常が生じれば心臓は力を落としたり、ひどい時には止まってしまいます。

つぎに「心不全」とは心臓が力を発揮できない、十分に仕事ができないと状態で、具体的には血圧が落ちたり、手足がむくんだり冷たくなったり、運動すると息切れが起こったりします。

つまり虚血性心不全とは狭心症または心筋梗塞のため心臓の調子が悪くなり、さまざまな支障が出ている、そういう状態です。

前田健さんの場合は? 前兆となった不整脈などの症状

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不整脈は心電図で診断できます。危険なタイプの不整脈は突然死の原因にもなるためすぐ治しましょう

前田健さんの場合は不整脈を以前からお持ちで、近々、治療を受ける予定であったと報道されています。虚血性心不全で不整脈、そして突然死となれば、心筋梗塞後の心室性不整脈とくに心室細動を疑ってしまいます。あるいは心不全が続いた結果、左心房が拡張し構造が壊れて起こる心房細動という不整脈をお持ちであった可能性もあります。

心室細動の心配があったのであれば、心室のアブレーションつまりカテーテル治療やICDつまり体内に植え込む除細動器(小型の自動AEDとお考えください)が予定されていたのかも知れませんし、心房細動があったのであればその安定化のためのカテーテル治療が考えられていたのかも知れません。

同時に、心不全があったとのことから、虚血性心筋症と呼ばれる、左室全体の動きが低下し心不全や不整脈がよく起こっていた、そういう可能性もあります。

虚血性心不全の治療法

虚血性心不全の治療法は、次のようにまとめられます。

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PCIでは狭くなった冠動脈を内側から広げます

  1. 虚血そのものへの治療……適切な食事や運動、冠血管拡張剤や心臓の負担を減らすお薬、さらにカテーテルによる冠動脈への治療(PCI)や天皇陛下も受けられた冠動脈バイパス手術などがあります
  2. 心不全への治療……減塩食などの食事や運動、利尿剤や心臓の負担を減らすお薬、心室同期療法(CRT)、さらに外科手術、補助循環(人工心臓)、心臓移植まで、重症度に応じたラインナップがあります
  3. 不整脈への治療……虚血や心不全を治すことが不整脈治療の基本になりますが、そのうえでさまざまな抗不整脈剤、カテーテル治療、植込み型除細動器ICD、外科手術などがあります

心臓外科医の立場から見るとそれぞれの状態に応じて打つ手はあったわけで、そう考えると、突然死される前に前田健さんを救命できる可能性があったことになり、大変残念なことだと思います。

虚血性心不全の原因と予防法

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虚血を予防することが何より早道です

まず虚血を予防することが第一です。つまり心筋梗塞はもちろん、狭心症を起こさないこと、それには冠動脈の動脈硬化を起こさないことです。

そのために冠動脈狭窄のリスクファクターを入念に治すことが必要です。

5大リスクファクターとして知られているのは喫煙、心筋梗塞の家族歴、糖尿病、脂質異常症、高血圧です。喫煙についてはもちろん禁煙を、家族歴はいかんともしがたいことですが糖尿病や脂質異常症、高血圧は適切な食事運動療法やお薬などでかなり調整できます。

それ以外のリスクファクターとして、慢性腎不全血液透析、肥満、ストレス、競争的で過剰に活動的なタイプを指す「A型性格」(心理用語であり血液型とは関連がありません)、その他が挙げられます。それぞれ平素の健康管理や定期検診あるいはきちんと治療を受けることで大事に至らずにすむ確率がうんと上がります。

動脈硬化を予防することは、脳や腎臓の動脈も守りやすくなり、脳卒中や腎臓病を予防することにもつながり、一石二鳥、いや三鳥とも言えましょう。

それでもさまざま
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何でも話せるかかりつけ医や必要時に専門医をもっておくと安心です

な悪条件が重なり心筋梗塞などの虚血性心疾患になってしまったら、上記の心不全や不整脈への対策を主治医と相談しながらきちんと受けることです。主治医には平素の健康管理全般をしてくれるかかりつけ医と、心臓病が判明した場合は心臓の専門医の2本立てが結局安全かつ便利です。

忙しくストレスの多い中で食生活も乱れがち、運動も不足しがち、しかし甘いものなどが豊富にあり肥満になりやすい現代人は虚血性心不全の予備軍と言えるのです。

平素の健康管理と定期検診、そして良きかかりつけ医と必要に応じて専門医を持っていただく、これらを実行しておけば虚血性心不全に至るまでにかなり守られることでしょう。

ともあれ将来を嘱望されながら治療が一歩間に合わず急逝された前田健さんのご冥福をお祈りいたします。

参考サイト: 心臓外科手術情報WEBの虚血性心疾患のページ
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