ミュージカル/ミュージカル・スペシャルインタビュー

Star Talk Vol.33 森公美子、愛される理由(5ページ目)

14年に日本初演、連日満員の大ヒットとなったミュージカル『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』。初演に引き続き、今年の再演でヒロイン・デロリスを演じるのが森公美子さんです。笑いと涙の傑作にぴったりの配役ですが、30年がかりで初の主役に辿り着いたご本人にとってはとても感慨深いお役だそう。感動ポイントをうかがいました!*観劇レポートを掲載しました*

松島 まり乃

執筆者:松島 まり乃

ミュージカルガイド

『天使にラブ・ソングを』観劇レポート
“心の通う相手”がいる喜びを歌に乗せ、
全ての人に“明日への活力”を与えるミュージカル

『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト』写真提供:東宝演劇部

『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト』写真提供:東宝演劇部

ノリノリのサウンドとともにオーケストラピットから顔を覗かせた指揮者・塩田明弘さんに乗せられ、冒頭から手拍子が響く場内。コーラスを従えたデロリスが華やかに登場し、マフィアのボスでナイトクラブのオーナー、さらに彼女の愛人でもあるカーティスの前で熱唱するもクラブ出演を否定され、おまけにクリスマス・プレゼントと称して妻の毛皮のコートを渡される様が、テンポよく描かれてゆきます。カーティスの間抜けな子分3人組も絡むことで場面のトーンはいたってコミカルですが、カーティスのデロリスに対する態度はあまりに冷たく、さすがの彼女も我慢の限界。今回の再演ではこの冒頭15分程度の間に、デロリスがカーティスの圧倒的支配下にあり、愛人とはいってもまるで愛されていないという図式が、威勢がいいように見えてもカーティスの一言に怯えるこの日のデロリス役・森公美子さん、余裕綽々な中に冷酷さをちらつかせるこの日のカーティス役・石川禅さんによって明確に示され、その後のデロリスの変化をさらに説得力あるものに見せています。
『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』写真提供:東宝演劇部

『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』写真提供:東宝演劇部

カーティスのあまりの仕打ちに「自分の力でスターになる!」と決意し、コートを返しに行くデロリス。しかし間の悪いことに彼が人を殺す現場を目撃、命を狙われ、最も見つかりにくい場所=クイーン・オブ・エンジェルス教会に身を潜めることに。厳格な修道女たちとの生活に始めこそ愚痴の連続ですが、“ど下手”な聖歌隊の指揮を任されると天賦の才を発揮。みるみるうちに彼女たちの"歌心“を引き出すデロリスに修道女たちも心を開き、デロリス指揮の初のミサでは、彼女たちが身を乗り出すようにデロリスに向かい、懸命に声を合わせる姿が感動的です。陽気なシスター・メアリー・パトリック(浦嶋りんこさん)、乗ってくると教会一ファンキーになるシスター・メアリー・ラザールス(春風ひとみさん)、自分に自信がない見習い修道女のシスター・ロバート(宮澤エマさん)……。それぞれに個性豊かな修道女たちに慕われ、デロリス自身もそれまで感じたことのなかった生きがいを感じ、知らず知らず、自分一人の夢を追ってきた生き方が変わり始めるのです。
『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』写真提供:東宝演劇部

『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』写真提供:東宝演劇部

修道院行きを提案した幼馴染の警官エディ―(石井一孝さん、“いい人オーラ”がみなぎり好演)の「なるべく目立たないように」との心配をよそに、デロリスは聖歌隊を町の名物に育て上げTVにも露出、さすがにカーティスに居場所が知られてしまいます。容赦のない襲撃に遭い、絶体絶命のデロリスの運命やいかに……?
『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』写真提供:東宝演劇部

『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』写真提供:東宝演劇部

一瞬にして人の心を開放する“音楽”の素晴らしさを、修道女たちのナンバーで存分に体感させる一方で、”心の通う相手がいることの喜び”をデロリスと修道女たちとの会話に滲ませ、そこから生まれるパワーをクライマックスで気持ちよく爆発させる本作。森さんをはじめ、教会の存続のため奔走するオハラ神父を茶目っ気たっぷりに演じる今井清隆さんら出演者一人一人が魅力的ですが、特に出色なのが修道院長役の鳳蘭さん。ユーモラスな台詞の間合いの巧さは勿論ですが、型破りなデロリスに一刻も早く出て行ってほしい厳格な修道院長として、他の修道女たちがデロリスに心を寄せ、音楽の迫力も手伝って舞台全体がデロリス応援色に染まりそうな中、たった一人、その流れに棹を差し、物語の面白さを何倍にも膨らませています。そんな彼女だからこそ、終盤でのまさかのその行動が他の登場人物たちにとって、勇気を奮い立たせるきっかけとなる。本作のもう一つの、大きな感動ポイントと言えましょう。
『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』写真提供:東宝演劇部

『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』写真提供:東宝演劇部

東京公演のアンコールでは今回、入場時に配布される「光るブレスレット」をつけて観客も踊ろう、という趣向が。この日、筆者の周囲には大御所の記者の方々が着席していましたが、パブロ役・上口耕平さんの懇切丁寧な解説(本編では危ないジャンキーのように見えた彼も実は“いい奴”?)の後、イントロが響き、観客はうきうきと起立。筆者もたまらず立ち上がり、気付けば周囲の銀髪の紳士たち(大御所記者たちと思われます)も起立、控えめに拳を振り上げていました。
帝国劇場公演で入場時に配布される「光るブレスレット」。数色あり、どの色になるかは当日のお楽しみ。(C)Marino Matsushima

帝国劇場公演で入場時に配布される「光るブレスレット」。数色あり、どの色になるかは当日のお楽しみ。(C)Marino Matsushima

「皆さんも素敵よ~」と舞台上から声をかける森公美子さん。終了後、荷物をまとめる人々の表情は一様に晴れやかで、まさに「元気をもらった!」と言わんばかり。このポジティブな“気”はきっと最寄り駅、いえそれぞれの自宅に帰り着くまで放たれ続けたことでしょう。「明日への活力」がきっともらえる、そんな舞台が今回の『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト』です。



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