介護

ゴールなき障害受容プロセスを支える3つのアプローチ

障害受容は、自立生活や社会参加を促すリハビリの成果を左右する重要な要素と言われていますが、支援者の思い込みや安易な解釈により無理強いすると相手の自由な意思や価値観を阻害してしまう恐れがあります。お互いが納得・満足の行く暮らしに落ち着くために、ゴールなき障害受容のプロセスに寄り添う家族や支援者に求められるポイントやアプローチ方法について紹介します。

執筆者:中山 奈保子

障害受容の3要素

心身の障害や生活上の困難または変化を受け止め、劣等感やわだかまりなくポジティブに社会生活を営むまでのプロセスを「障害の受容(障害受容)」と呼んでいます。障害受容は、以下の3つの要素に分けて考えることができます。

  1. 身体的受容:自分の心身状態、障害を負った原因、能力、予後について可能な限り理解している。
  2. 心理的受容:自分の障害について日常生活に支障を来たすほど思い悩んだり情緒的になることなく冷静に受け止めることができる。
  3. 社会的受容:自分の職業・家族・住宅などにおいて、心身状態に適した考え方ができる。無理のない範囲で何らかの役割を持つことができる。

※参考:(前記事)リハビリの成果を左右する「障害の受容」とは?

前記事でも紹介したように、障害の受容にはいくつかの典型的なプロセスがある考えるのが一般的になっていますが、実際にケアする立場になった場合は、十人十色のプロセスを辿ると考える方が、思いこみや先入観なく相手の気持ちに近付くことができます。

また、「ショック→否認→混乱→解決への努力→受容」のうち、どの段階に当てはまるかを探るよりも、日ごろから発せられる言葉や仕草を元に、上に挙げた3要素に分けて気持ちを察することが大切です。

障害受容のプロセスを支える3つのアプローチ

(1)「できない」部分だけではなく「できる・できそう」な部分への関心を広げよう
障害受容

直接気持ちを聞き出せない時は、一人で抱え込まず専門職や介護サービス担当者にアドバイスを貰うようにしましょう。

障害を受け入れることと障害を理解することは別問題です。障害を単に「できない」「不自由」なものとして捉えるのではなく、「できる・できそう」な部分にまで関心を広げ、お互いに障害に対する理解を深めていくことで、現実から目を背けがちな相手の気持ちを一歩前へ前進させる手掛かりを掴むことができます。

「できる・できそう」な部分を探る際、障害を負う前の仕事や趣味を参考にするのは大変分かりやすい方法ですが、「こんな身体になってしまったら出来るわけがない」「上手にできなかったらどうしよう…」などと、逆にネガティブな気持ちにさせてしまう場合があるため注意が必要です。

「今、できることは何なのか?」については、専門職によるアドバイスの元、心身の状態に配慮しながら考えるようにしましょう。

(2)目標を共有しよう
「もう少しでできそうなこと」や「歩けるようになったら○○をしたい」などと目標や夢を共有することは、受容や否定、不安、落胆など相反する気持ちを行き来しやすい状況において大きな心の支えとなっていきます。

目標は、言葉にするだけではなく紙に書いて壁に張るなどして「可視化」すると効果的です。

ただし、目標を見いだせない時期が長く続くこともあるため、あくまでも本人の言葉で意思表示できる時期のみとします。

(3)一緒に挑戦しよう
掲げた目標は、一人で黙々と取り組むよりも、他者の眼差しがあるなか取り組んだ方が良いでしょう。「一人で挑戦したい」と言って、他者の目を遮断しながらリハビリを進める人も少なくありませんが、その成果を他の誰かの証言のもと認めてもらった時に得られる達成感や自信は、次のステップへと繋がっていきます。

目標を達成するための計画や方法を一緒に考えていく方法もお勧めです。成功や失敗を共有し、解決策を一緒になって考えるプロセスが、ダメージを受けた心と身体を癒すかもしれません。小さくても「できる・できそう」なことからコツコツと積み上げていきましょう。


介護保険制度が施行されて以降、「利用者主体」「利用者による自由な選択」を原則とした様々な介護サービスが展開されていますが、障害受容のプロセスに何らかの問題があると家族や支援者との間にトラブルが発生しがちです。家族や支援者だけで本人の気持ちを溶きほぐせない場合は、似たような障害を負った者同士が自由に語り合う「ピア・サポート(ピア・カウンセリング)」の場を利用するのも選択肢の一つです。

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