前編では、ビリギャルことさやかさんのお話から、子どものやる気の引き出し方を中心に教えていただきました。
・前編はこちら…『ビリギャル』坪田先生が語る「やる気を引き出す親」
後編は、坪田の考える学校と家族と塾の役割から、子どもへのほめ方、親が受験生の子どもにできることまでをひも解きます。
母親も父親も、教育についてはみんな素人でいい
伊藤:ここで少し話題を変えて、坪田が塾の先生になるまでをおうかがいしたいと思います。もともと何かになりたかった、というものがあったのでしょうか?坪田:小さい頃は、戦隊物のヒーローになりたかったですね。赤レンジャー的な(笑)。もう少し大人になって、その流れで警察官でしたね。そこから何が正義なんだろうって考えていろいろ(哲学書を)みていくうちに哲学に興味を持って。哲学って世界史上の天才たちが生涯にわたって考え続けてきたことを、こんなに短時間で一番いいところだけピックアップできるものなんだなって、そのときはそう思ったんです。
哲学書って、そんな天才たちと対話できるんだなと思って、いろいろわかったような気になって。でも大人になっていくうちに、「感動」という言葉はあるけど「理動」という言葉はないなって。人間は理屈では動かずに感情で動くんだなということに気づいてきたんです。それで感情で動く人間を知る必要があると思って、心理学を大学や独学で学び、今も勉強し続けています。
伊藤:今もですか?
坪田:もちろんです。教育っておもしろくて、みんな素人なんですよね。お母さんも教育学を勉強しないままお母さんになって、ほめたほうが良い、叱ったほうが良いって教育を語るんです。だから僕のテーマのひとつに「学習を科学する」というのがあって、科学的にどう捉えるかを重視しています。僕の人生のテーマは「科学(理屈)と情熱(感情)の融合」なんです。
学校や塾は勉強するところ?
伊藤:坪田先生から見た、学校と家庭と塾の役割って何だと思いますか?坪田:共通する役割というか教育の目的が僕の中で3つあって、社会に出るまでに子どもが、自信をつけること、居場所をつくること、他者への敬意を持つことだと思っています。
「何も自信がありません」っていう社会人や部下って嫌じゃないですか。がんばったらできるという自信を持った状態で社会に入ってきてほしいと思いません?あと、居場所がないですってのもつらいですよね。社会ってつながりが大事だから「私は人を信じていません」で社会人になるのってつらいですよね。そして他者への敬意がないっていうのもつらすぎると思います。「自信も居場所もめちゃくちゃあります。でも僕は天才であなたたちはバカです」みたいな状態の人がいたとしたら(笑)、きついですよね。
だからこの3つを育てるのが教育なんじゃないかな。少なくとも社会人になるために。それを育てるための役割が、学校と家庭と塾にあると。
伊藤:学校と家庭と塾、それぞれの役割についてはどうですか?
坪田:学校の中でやる勉強って、学校教育の中の一部のはずなのに、「勉強好き?」って聞くと8割の子が嫌いって言うんです。「得意?苦手?」って聞くと、8割の子が苦手って言うんです。小中高と12年間も勉強してきて、8割の子が勉強が嫌いになっている。「それって誰のせいだと思う?」って聞くと、自分のせいだって答えるんですよ。「自分がちゃんとやってないから」って。
僕は学校の先生達ってがんばっていると思うんですけど、学校っていうシステムが時代遅れになっていて、最終的に8割の子を勉強嫌いにして苦手にするっていう(笑)。学校で子どもは自信を無くしてるわけでしょ。
伊藤:そうすると、塾は勉強するところというよりは自信をつけるところと考えているんですね。
坪田:そう。そこで塾の役割が重要になってくるんですよ。5教科の勉強って答えがある。自信をつけやすいはずなんです。「自信を無くしている子に自信をつけさせてあげるのが塾。その手段が5教科の勉強」だと思っています。
伊藤:私も塾講師として、大変共感できます。
家庭を子どもの居場所にするための親の接し方
伊藤:ただ正直、指導していて「しんどい」と思う子は、家族との関係がうまくいっていない場合が多い印象があります。坪田:たぶん家で居場所がないんですよね。だから家は、ぜひ子どもの居場所になってほしいんです。人の評価の仕方って3つあって、doing(~すること)、having(持っているもの、地位)、being(存在)。
doingは「~すること」に対する評価。例えば、「お風呂掃除を毎日してくれてありがとう」とか。逆に言うと、お風呂掃除をしないと、あなたは偉くないってことになってしまいます(笑)。
havingは、持っているものとか地位のことなんですけど、「3年連続で学級委員なんて、お母さんあなたのことを誇りの思うわ」とかこういうのでほめたりしますけど、逆に言えば4年目で学級委員じゃなかったら誇りがなくなるってことなんですね。
このdoingやhavingで、みんな結構ほめてしまうんです。「100点なんてすごいじゃん!」、でも100点じゃなかったらすごくない。「勉強がんばったな、偉いなぁ」、これも「勉強がんばらなかったら偉くないからな」って言ってるわけですよ。全部、実はそうじゃなくなったらダメなんだからねって表現しているようなものなんですね。
これに対して、あなたが何をしていようが、どんな状態だろうが、私はあなたを愛していますってのがbeingで評価しているってことなんです。親御さんって、本質的にbeingで愛しているんですよ。でも言葉で言ってるのは全部、doingやhavingばかりなんですよ。子どもに対して伝わっているのがdoingやhavingのメッセージのみだから、子どもは不安になるんですね。挙げ句の果てには「言うこと聞けないなら出ていきなさい!」って。本当に出て行かれたら困るくせに(笑)。
社会に出て、失敗することもあるじゃないですか。社長からボロクソに言われたり、クビになるとか、あらゆることがあり得る。そうなったときに、親がdoingやhavingだけで評価していると思っている子どもだとしたら、それを親に言えるかっていうと言えないですよね。だって家で失敗したらダメとなっていたら、外で失敗なんかできないから。
beingで評価し続けてくれる親がいるとしたら、社会で失敗しても、たぶん言えるんですよ。だからせめて親だけでもbeingで評価してほしいなって、「居場所があるってだけで、子どもはもっとチャレンジするよ」って思って伝えているんですけど、それはなかなか難しいから、僕は塾としてそういう存在であろうかなって思ってやってます。
居場所になる塾選びのポイント
伊藤:そうですね。塾が居場所になる子もいますが、本質的には家に居場所をつくってほしいですね。では、塾の話の流れでずばり聞きますが、塾を選ぶときのポイントって何でしょうか。坪田:塾選びのポイントは、まず必ず子どもと一緒にその塾へ見に行くべきですよね。人から話を聞いて決めるのではなく、必ず塾に行って話をするじゃないですか。話してみて、テンションが上がるところですね。
伊藤:「感情」ですね。
坪田:そう。一番初めが新鮮だし、一番テンションが上がるわけですよ。そこで、テンションが上がらないようなら、塾を続けていってだんだんテンションが下がっていったときに、上げられる技量がないはずなんですよ。技量がある人かない人かで変わってくるので、一番テンションが上ったところにするべきかなと考えます。
続いては、学校の先生に対する考えをおうかがいします。そして最後は、親が子どもにできることと、親子で進路の意見が分かれたときの子どもへの接し方について。非常にシンプルで本質的な答えでした。