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団地に高齢者も若者も!多世代交流&地域連携で活性化

「団地」と聞くと、建物が老朽化し、居住者も高齢化し、さびれている印象があるかもしれません。でも、若者や子どものいる家族が高齢者と一緒になって、餅をついたり野菜を育てたりといった活動も行われています。こうした団地内の多世代交流の事例を紹介します。

山本 久美子

執筆者:山本 久美子

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昭和40年代~50年代に、住宅不足から都市部の勤労者のために大量に供給された大規模団地。そこに住み続ける人たちは高齢化していきますが、なんといっても人数が多いのが団地の特徴。地域に与える影響も大きなものとなります。そのため、高齢者が住みやすい住まいや街づくりを進めることは重要な課題です。

でも、単に高齢者のための福祉や医療を充実させるだけでは、街の活性化につながりません。団地の中に若者や子育て世代なども暮らしていて、こうした多様な世代がゆるやかにつながってイキイキと暮らせる「ミクストコミュニティ」を目指す必要があります。

賃貸の一部をサービス付き高齢者向け住宅にする試みも

都営三田線高島平駅の目の前にある、日本で最大規模の団地で総戸数8000戸を超える「高島平団地」(東京都板橋区)を例に見ていきましょう。
高島平団地

高島平団地

高島平団地も筆者の記事「無印良品やイケアなどとの連携で、団地に個性を!」で紹介したように、無印良品と連携したリノベーション住戸、自分たちでDIYが可能な住戸など、若い世代向けの部屋も提供されるようになっています。
MUJI×URundefined(高島平団地)

「MUJI×UR (高島平団地)」 の例

一方で、高齢者の比率が高まっているため、高齢者が住みやすいように廊下、居室、浴室などの段差をなくすバリアフリー改修などを進めることはもちろんですが、高齢者のために介護や医療の施設を誘致するなどして、住み慣れた自宅や地域で暮らし続けることができる環境整備も必要です。

高島平団地では、既存の住戸を活用した「分散型」の「サービス付き高齢者向け住宅」を、(株)コミュニティネットと共同して展開しています。サービス付き高齢者向け住宅については、筆者の記事「増加中の『サービス付き高齢者向け住宅』とは?」 で詳しく解説していますが、介護施設ではなくあくまで賃貸住宅です。ただし、高齢者が住みやすいような住居形態になっていて、介護施設などと連携した最低限のサービス(安否確認と生活相談サービス)を提供するものです。

1棟全体がサービス付き高齢者向け住宅になるのが一般的ですが、通常の賃貸住宅の住戸と混在する形で、サービス付き高齢者向け住宅が分散しているのが、高島平団地の大きな特徴です。サービス付き高齢者住宅の居住者は、必要に応じて連携している介護事業者からの訪問介護を受けることができます。高齢者が普通の団地暮らしの中で、生活できることがポイントです。
ゆいまーる高島平

サービス付き高齢者向け住宅の「ゆいま~る高島平」

高齢者が安心して住み続けられる対策と並行して、「ママ割」や「近居割ワイド」といった家賃を減額する制度を設けるなど、若い世代を呼び込む対策も用意しています。

団地には、団地ならではの自治会の「祭り」や「餅つき」などの活動もあります。また、高島平団地の自治会の運営する、子どもが水遊びができる「子どもの池」(通称=かばさんプール)でのイベントなどを通じて、若い世代と高齢者がともに交流することで、ミクストコミュニティを形成することができるようになっているのも、高島平団地の特徴です。

地域の大学と連携したミクストコミュニティも

団地によっては、地域の大学と連携した取り組みをしている事例があります。

金山団地(福岡市城南区)では、中村学園大学とUR都市機構が連携した取り組みをしています。栄養科学部の准教授とゼミ生が、団地内の集会所を利用して年3回程度の「健康栄養教室」を開催しています。これは、特に高齢者にとって深刻な高血圧を予防する減塩についての講演や、学生による減塩料理の実演などを通じて、居住者の健康増進と学生のアクティブラーニング、ミクストコミュニティの醸成を目指すものだそうです。中村学園大学では、このほかにも、高齢者を対象としたタブレットパソコン講座、学生たちが企画・運営をする健康体操教室なども開催したり、今後も団地秋祭りなどを利用して、高齢者はもちろん、若者や子育て家族なも多くの居住者が交流できる取り組みも検討しているのだとか。
健康栄養教室

金山団地で開催された「健康栄養教室」での学生による調理実演(平成27年10月1日)

健康体操プロジェクト

金山団地で開催された「健康体操プロジェクト」。学生インストラクターが指導(平成27年9月23日)

また、イケアと連携した住戸を提供している豊明団地では、愛知県豊明市と藤田保健衛生大学、UR都市機構が連携して、団地内に「ふじたまちかど保健室」が設けられています。藤田保健衛生大学の看護師や薬剤師、ケアマネージャーが交代で常駐し、無料で健康相談に応じたり、体力測定や健康教室を開いたりしています。ここは、学生が在宅医療を学ぶ際の拠点にもなるのだそうです。

「自治会のイベントに参加すること」を条件として、大学の学生や職員に家賃を割り引いて貸すことで、イベントの活性化や低層階に住む高齢者の見守りにつながるなど、団地や地域でのミクストコミュニティ形成を促進しています。
ふじたまちかど保健室

(左)豊明団地内の「ふじたまちかど保健室」で七夕飾りをつくりながら健康相談 (右)育児や介護相談も


団地から始まる「ミクストコミュニティ」づくり

政府は、医療や看護、介護、生活支援サービスなどが連携して、介護が必要になった高齢者も在宅で生活できるような「地域包括ケアシステム」を推し進めています。UR都市機構も自治体とも連携しながら、地域の拠点でもある団地を活用し、地域で不足する医療福祉施設などを誘致したり近隣の施設と連携したりして、地域包括ケアシステムの核となるよう積極的に取り組んでいます。

また、在宅ケアの専門家である川上由里子さんをUR都市機構のウェルフェア研究室の室長に招聘し、団地やUR営業センターの高齢者相談等窓口支援などにも取り組んでいます。「住み慣れた団地に住み続けたいけれど、それが難しいという方も増えています。最期まで住み続けることが出来る環境(Aging in Place)を整え、体の状態に応じた住まい方ができる工夫をしていきたいと思います」(川上さん)。

大学との連携についても、「日ごろ高齢者と接する機会の少ない学生にとってもよい機会になりますし、団地に住む高齢者にとっても外に出るよい機会になります」と川上さん。Win-Winの関係なので、交流がさらに進むことが期待できます。

ウェルフェア研究室の岡本章吾さんは、ミクストコミュニティづくりが「団地から」始まることを強調します。「団地の潜在的な力が、地域に果たす役割は大きいと思います。団地が地域の中心となることで、ミクストコミュニティづくりを進めていきたいと思います。」

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昭和40年代~50年代に、住宅不足から都市部の勤労者のために大量に供給された大規模団地。建物が老朽化し、居住者も高齢化している点などが注目されがちですが、団地ならではのメリットもたくさんあります。

ゆったりとした敷地配置、緑の多さ、味わいのある建物などもそうですが、団地の最大のメリットは「コミュニィティ」かもしれません。「コミュニティがあるから、団地に移り住みたい」という人もいるそうで、今後団地が、若い世代も高齢者もイキイキ暮らせる「ミクストコミュニティ」の核になることを期待しています。

取材協力・写真提供/UR都市機構

■シリーズ記事
○団地再生の取り組み(1)
「団地からDANCHIへ」イメージ一新の団地も登場
○団地再生の取り組み(2)
無印良品やイケアなどとの連携で、団地に個性を!


※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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