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睡眠薬を飲んだ翌日は自動車の運転禁止って本当?

【医師が解説】多くの睡眠薬は、飲んだ翌日も自動車の運転を控えるよう表示することが厚生労働省によって義務づけられています。しかし交通の便が悪い地方では、自動車なしでの生活が難しいこともあるようです。睡眠薬と自動車運転の危険性について解説します。

坪田 聡

執筆者:坪田 聡

医師 / 睡眠ガイド

睡眠薬使用後の自動車運転は国が禁止している

睡眠薬と自動車

原則的には、睡眠薬を飲んだ翌日に、自動車を運転してはいけません


日本人は眠れないときに、睡眠薬よりもアルコールにたよる傾向があります。とはいえ実は、睡眠薬もたくさん飲んでいます。

医療機関を受診した約30万人を調べた研究では、そのうち5%の人に、睡眠薬が処方されていました。特に高齢者では睡眠薬を飲んでいる人が多く、65才以上では13%の人に睡眠薬が処方されていました。

睡眠薬を飲むと、よく眠れるようになります。しかし、その効果が必要以上に長く続くと、翌朝あるいは翌日の午後まで眠気が続くことがあります。家にいれば眠ってしまえばよいのですが、自動車を運転しているときに眠気に襲われたら、居眠り運転による交通事故を起こしかねません。

そのため、厚生労働省はほとんどすべての睡眠薬に、薬を飲んだすぐ後だけでなく、翌日も自動車の運転を控えるように、表示することを義務づけています。さらに最近、いろいろな薬を飲んで自動車を運転し、大きな事故を起こすことが目立つため、睡眠薬を処方するときに自動車運転の危険性を患者さんにしっかり理解してもらうよう、医療機関や薬局に指導しています。

しかし、睡眠薬を飲んだ翌日に自動車を運転できないと、とても困る人たちがいます。電車やバスなどの交通機関が発達した都会では、あまり影響はないかもしれません。一方、電車やバスの便が悪く、移動を自動車に頼らざるを得ない地方では、自動車に乗れないことは死活問題です。

では、本当に睡眠薬を飲んだ翌日は、自動車を運転しないほうが良いのでしょうか?
 

睡眠薬で交通事故の確率は数倍に 

日本で最も使われているベンゾジアゼピン系睡眠薬

日本で最も使われているベンゾジアゼピン系睡眠薬


日本でもっともよく使われる睡眠薬が、ベンゾジアゼピン系睡眠薬です。

1995年に行われたカナダでの研究では、ベンゾジアゼピン系睡眠薬を2週間飲んだ人は飲まなかった人に比べて、交通事故を起こす確率が6.5倍もありました。ただし、時間とともに睡眠薬に慣れてくるので、4週間後には3.9倍に下がっていました。

一方、1998年にイギリスで行われた交通事故記録の調査では、ベンゾジアゼピン系睡眠薬を飲んだ人も飲まない人も、交通事故を起こす確率は同じ程度でした。

1997年のカナダの高齢者を対象とした調査でも、作用時間が短いベンゾジアゼピン系睡眠薬は、自動車運転への影響がありませんでした。ただし、作用時間が長いベンゾジアゼピン系睡眠薬は投与1週間後も1年後も、交通事故を起こしやすいことが分かりました。

多くの研究からわかることは、ベンゾジアゼピン系睡眠薬の作用時間の長さや服薬量の多さ、内服してからの時間の短さが、自動車運転に悪影響をあたえることは間違いないようです。
 

新しい睡眠薬でも、使用翌日の運転には注意が必要

新しい睡眠薬でも運転には注意が必要

新しい睡眠薬でも運転には注意が必要


最近、処方されることが多くなった非ベンゾジアゼピン系睡眠薬(Zドラッグ)は、ベンゾジアゼピン系睡眠薬よりも副作用が少ないといわれています。

しかし、Zドラッグを飲んだ後の交通事故を起こす確率は、1.4~4.0倍と報告されています。比較的安全と思われているZドラッグですが、翌日の自動車運転は控えたほうがよさそうです。

私たちは、朝に目覚めてから14~16時間たつと、脳の松果体(しょうかたい)というところから睡眠ホルモンのメラトニンが分泌されて、眠たくなってきます。このメラトニンの数倍の作用がある薬「ロゼレム(ラメルテオン)」も、睡眠薬として使われています。

ロゼレムも、翌朝まで催眠効果が続くことは少ないと考えられてきました。しかし、ロゼレムを飲んだ翌朝に自動車を運転すると、運転の技能が落ちて、車線をはみ出す回数が増えてしまいます。

覚醒系の神経をブロックする「ベルソムラ(スボレキサント)」は、2014年から不眠症の治療に使われています。このベルソムラも副作用が少ないと思われていますが、内服した翌日に自動車を運転すると、車線をはみ出しやすいことが報告されています。しかも、飲酒運転の指標であるアルコール血中濃度0.05%でのフラツキよりもひどい運転をする人が、2~3割もいます。

これらのことから、医師に処方された睡眠薬を飲んだ翌日は、運転技能が落ちて事故を起こしやすい状態であることを自覚する必要があります。そのうえで、どうしても自動車を運転しなければならないときは、事故を起こさないよう十分に気をつけてください。

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