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診察中に家族と電話?現場医師が語るアメリカ医療事情

アメリカの医療というと美男美女の医者が颯爽と働くドラマのような世界がまず思いうかぶかもしれません。実際そんな現場も多いのですが、医療現場の中にいるとアメリカと日本、その違いに驚くことの連続です。医療システム、ワークライフバランス、診察のスタイル、どれをとってもとにかく「違い」ます。挙げればきりがないのですが、今回はそのうち気づいた5つのポイントを紹介します。

野田 真史

執筆者:野田 真史

皮膚科医 / 皮膚の健康ガイド

アメリカの医療現場というとどのようなことをお考えになりますか?ドラマのような救急医療の現場を想像する方が多いかもしれません。医師にかかり、薬を処方してもらうという基本的な流れは日本と同じですが、システムは相当異なっています。

筆者の勤務するニューヨークのロックフェラー大学病院

筆者の勤務するニューヨークのロックフェラー大学病院


1. 保険が一人ひとり違う

まず、アメリカは国に統一された保険のシステムがありません。日本では通常3割負担で国が一律で保険を提供していますが、アメリカでは民間の保険がメインなので、人それぞれ違う名前の保険に入っています。

たとえば通常の診療、救急医療、入院など項目ごとにいくらまでは個人の支払いになり、どこまで保険がカバーする、というような詳細が保険ごとに決まっています。

私も雇用主から提示された2つの保険のうち、この項目を見比べて、1つを選びました。アメリカの保険は高いとよく言われていますが、私の場合は雇用側のサポートが手厚かったため、日本にいた時よりも安い保険料ですんでいます。これは雇用主によりますので、一概には言えません。オバマケアも現在保険に加入していない人が主なターゲットですので、日本のような国民全部をカバーする保険制度ではありません。

一般的な医療であれば保険がカバーしてくれるので個人レベルではあまり意識することはありませんが、医療費の請求額自体はアメリカが圧倒的に高いです。飲み過ぎて倒れたら救急車で運ばれて気づいたら病院だったという友人がいましたが、救急車代と診察代で1000ドル弱とられたとのことでした……。幸い保険がほとんどカバーしてくれたようですが。

アメリカの保険と比べると日本の医療は平等でわかりやすく、優れている点が多いです。料金は一律で保険料も決まっているので、安心して医療を受けられます。また、高額な薬を使った治療を行う場合でも、高額療養費制度によって大部分は政府が肩代わりしてくれます。働くならアメリカ、医療を受けるなら日本がいい、というのがアメリカで働く日本人医師の定説になっていますが、まさにその通りだと思います。

筆者が連携しているニューヨークのMount Sinai Hospital

筆者が連携しているニューヨークのMount Sinai Hospital

Mount Sinaiからの眺め

Mount Sinaiからの眺め


2. とにかく効率重視

アメリカは短時間で効率よく仕事をまわすことを常に考えています。分業がはっきりしているので、自分の専門分野に集中して仕事をします。私が皮膚科の外来にいて一番驚いたのは、脚に潰瘍(かいよう)という皮膚に10cmほどの傷がある患者さんが受診したときのことでした。すでに診断はついていたので担当の皮膚科医が飲み薬の変更を指示しました。そこまでは通常通りなのですが、そのまま患者さんを返してしまい、傷自体の手当はまったく行わず、それに対するぬり薬を使った治療法の指導もありませんでした。

不思議に思い「傷の処置はしないのか?」と聞いたところ、「それは傷を治療する専門のナースの仕事だから、皮膚科では診ないよ」とのことでした。日本では傷にぬり薬の治療をするだけのために皮膚科を受診することもあるくらいですから、この差には驚きました。

ただ、皮膚科医が皮膚科医でなければできない仕事、つまり特殊な皮膚病の飲み薬の管理などに集中して効率よく多くの患者さんを診ることが重要、と考えているアメリカの医療からすると、これはもっともなことです。傷の処置をして長い時間を1人の患者さんにとられるよりは、その間に3人の患者さんを診察したほうが皮膚科医は限られた時間を有効に使えて患者さんの治療にも貢献できるというわけです。

3. 診察時間が長い

アメリカでは医師が一人あたりの診察にかける診察の時間が長いです。日本のように3分診療ということはまずなく、特に最初の診察時には場合によっては30分など長い時間をとって、すみからすみまで情報をとります。これはカルテをしっかりと記載し、訴訟を避けるという意味もあります。一方で、日本のようにいぼやにきびといった病気で2週間ごとに皮膚科医にかかる、ということはなく、受診の間隔は長めです。

ニューヨーク、Presbyterian Hospital。筆者の病院で急病人がでたときにはこちらに運ばれます。

ニューヨーク、Presbyterian Hospital。筆者の病院で急病人がでたときにはこちらに運ばれます。


4. 診察時の説明が専門的

診察時間が長いためなのか、医師がかなり専門的な内容を話していることには驚きました。例えば乾癬(かんせん)の患者さんに新しい注射薬を始めるときに、その薬がなぜ効くのか、といった医学的な専門知識も話し、そして患者さんもそれにたいして質問し、よりよく理解しようと務めていました。アメリカではテレビで処方薬のCMが流れることも多く、その効果もあって病気のことを患者さんがよく知っているようです。

5. プライベート重視

日本では、診察中にはよほど重要な案件でない限り医師は電話に出ません。ところが、アメリカでは家族からの電話がかかってくると、「ちょっと待ってて」といい患者さんの目の前で電話に出ます。患者さんにとってもそれが自然で、電話の後にはその内容について2人で盛り上がっているくらいです。アメリカというと医療訴訟大国として有名で、医師と患者の関係が悪いのではないか、と予想してしまいますが、 むしろお互いかしこまった感じがなく、気を使わない間柄のことが多いです。


医師の側から見るとアメリカの医療は効率がいい、残業が少ない、プライベート重視、と働く環境がいいです。ところが患者さんから見ると、主治医制でなくシフト制のため入院中に担当医がすぐ変わってしまう、医療費が高い、医療費の請求額が一定ではなく保険会社との交渉が必要、とマイナス面が目立ちます。医療の質、としてはアメリカのレベルは世界的に高いので、中国から来た友人はアメリカの医療のほうが中国よりも間違いなくいい、と言います。しかし、日本の医療レベルは(移植や新薬など特殊な分野を除けば)アメリカと遜色が無いので、その医療を低価格で受けられるというのは非常に恵まれていた、とこちらに来て実感しています。


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