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トランス脂肪酸の危険性・リスク…日本で過剰な心配は不要?

【管理栄養士が解説】2018年より食品添加物としての「トランス脂肪酸」の使用がFDAにより禁止されました。トランス脂肪酸に、心臓疾患などのリスクを高める危険性があり、体に有害だと考えられたためです。日本国内の食品・外食産業もこの流れを受けて対策を進めています。一方で、通常の日本での食生活では、トランス脂肪酸はそこまで過剰摂取になる恐れは低そうです。私たち消費者が注意すべきことは何でしょうか?

平井 千里

執筆者:平井 千里

管理栄養士 / 実践栄養ガイド

トランス脂肪酸が危険と規制され始めた背景……WHOやFDAの発表から

洋菓子

米国でトランス脂肪酸の使用禁止が発表されました。日本ではどうなるのか、 消費者はどうしたらいいのか、私たちも判断が必要です。


心臓疾患のリスクを高めるとして、米国FDAは2018年6月から「トランス脂肪酸」の食品添加物の使用を全面的に禁止することを発表しました。これに反応して、日本国内でもトランス脂肪酸の危険性や健康への影響について、関心が高まっています。

この話の始まりは、2004年にさかのぼります。世界保健機構(WHO)の世界保健会議にて承認された「食事、運動及び健康に関する世界戦略」において、トランス脂肪酸は削減すべきとされました。さらに、FAO/WHOは2009年に「総摂取エネルギー量の1%未満」という目標を掲げました。これを受けて、世界中がトランス脂肪酸の削減を目指してさまざまな努力を始めることとなったのです。
 

アメリカでのトランス脂肪酸の表示義務

アメリカでは1994年に栄養成分表示が定められ、2006年には総脂肪・飽和脂肪酸・コレステロールに加えて、トランス脂肪酸の表示も義務化されています。

各州での対応を見ると、ニューヨーク市では2007年、カリフォルニア州では2010年に、それぞれ市・州として初めて食品販売施設での1食あたりのトランス脂肪酸の使用を0.5g以下に制限しています。

そして、今回FDAからの発表を受けて、2018年6月以降は食品添加物として使用することが禁止されることになりました。
 

トランス脂肪酸とは……食品加工でできる脂肪酸・心臓疾患リスクを増す危険性!?

そもそも、トランス脂肪酸って何なの? 何がいけないの?と思っている人もいるかもしれません。そこで簡単にトランス脂肪酸についておさらいをしておきたいと思います。
シス脂肪酸、トランス脂肪酸

 水素同士が並んでいる場合を「シス脂肪酸」、水素-鎖-水素-鎖の順に並んでいる場合を「トランス脂肪酸」と言います


トランス脂肪酸は「トランス」と「脂肪酸」の2つの言葉が組み合わさっています。脂肪酸は油脂類の化学構造の一部分で、骨格の一部に炭素と水素があります。炭素は4本の手を持っています。これらの2本は水素を握り、残りの2本で鎖状につながっています。このつながり方において、水素同士が並んでいる場合を「シス脂肪酸」といいます。自然界に存在する脂肪酸のほとんどがこの脂肪酸です。

一方、水素-鎖-水素-鎖の順に並んでいる場合を「トランス脂肪酸」と言います。シス型をひねったような形とでも言えばいいのでしょうか。トランス型は乳・乳製品にわずかに含まれているほかは、食品を加工する際に出来てしまいます。

このトランス脂肪酸は心臓疾患のリスクを上げることが知られており、そのためFDAでは今回の措置に踏み切ったのです。

次に、私たち日本の消費者がどのように対応をすべきかを見ていきましょう。
 

トランス脂肪酸を多く含む食品

マーガリン

人の手が加わり、加工を重ねたものに多く含まれがちです


後述しますが、日本人はあまり多くのトランス脂肪酸を摂取していません。しかし、気になる人もいると思いますので、特に多く含む食品を上げてみます。

FDAの発表によると、ショートニング、マーガリン、クラッカー、クッキー、スナック食品(菓子パンやスナック菓子、ファストフードの商品、カップ麺などを含むと思われます)、水素添加した油で揚げたり調理したものとあります。

また、日本では内閣府の食品安全委員会のファクトシート(PDF)に国内で流通している食品のトランス脂肪酸の含有量が記載されており、上記FDAの発表以外に、食用調合油、ラード・牛脂、米菓子、チョコレート、ケーキ・ペストリー類、マヨネーズ、食パン、油揚げ・がんもどき、牛肉(肉、内臓)、牛乳等、バター、プレーンヨーグルト・乳酸菌飲料、チーズ、練乳、クリーム類、アイスクリーム類、脱脂粉乳について含有量の記載があります。

ただし、同じ食材でもまちまちですので、上記の食材の全てがトランス脂肪酸を多く含んでいるとは言えません。
 

日本企業のトランス脂肪酸対策

日本の企業では、トランス脂肪酸を減らすために各社がさまざまな対応を行っています。精油業者では精製方法を変えることによって減らしている企業もありますし、原因となる油とは別の油を使うようにしている製菓業者もあります。ファストフード店などでも揚げ油を変更したチェーン店も多くあります。

ここに挙げたものはほんの一例です。大手企業ではほとんどの企業でトランス脂肪酸を限りなく減らすための努力がなされています。しかし一方で、中小企業ではこのような対応がとられている企業は少ないと思います。これから原材料を変える等の対応をとるのではないでしょうか。
 

日本人が考えるべきトランス脂肪酸の危険性と健康的な食の工夫

WHOによって、トランス脂肪酸はエネルギー摂取量の1%以下にするよう勧告されています。1998年の古い統計では、日本人のトランス脂肪酸の摂取量は1日あたり約1.4g。エネルギー摂取量の約0.7%でした。トランス脂肪酸が身体に悪いと言われる前でこの状態です。さらにこれ以降、各社の企業努力によって原材料中のトランス脂肪酸は減少しています。

おそらく、日本国内で一般的な日本人らしい食生活を送っている限り、何も意識しなくてもほぼ問題は起こらないと考えていいと思います。ただし、揚げ物をよく食べる、スナック菓子がやめられない、などの場合は少し注意が必要かもしれません。

いずれにしても、あまりガチガチに「トランス脂肪酸が入っているものは食べない!」と避けすぎてしまうと、食べられるものが限定されて栄養のバランスが摂りにくくなってしまいます。むしろ、トランス脂肪酸を過剰に気にしすぎることなく、日本人らしい食事を摂るようにする方がよいでしょう。
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