世界遺産/アジアの世界遺産

プレア・ヴィヒア寺院/カンボジア

登るほどに神聖さを増す「聖なる寺院」プレア・ヴィヒア。聖域とされる本堂隣接の断崖から眺める景観は息をのむほど美しく、古代から人々を魅了し続けてきた。神の視線を思わせるその絶景ゆえなのか、寺院や山は世界の中心にあるという須弥山と同一視され、聖地として崇められた。今回は「アンコール」と一緒に訪ねたいカンボジアの世界遺産「プレア・ヴィヒア寺院」を紹介する。

長谷川 大

執筆者:長谷川 大

世界遺産ガイド

天空の寺院、世界遺産「プレアヴィヒア(プレアヴィヘア)寺院」

第三塔門東の付属施設

第三塔門東に設置された付属施設。誰もが『天空の城ラピュタ』を思い起こす光景だ。この先の断崖からはコーラート台地が一望できる

カンボジア-タイ国境に連なるダンレック山脈の頂に築かれた「聖なる寺院」プレア・ヴィヒア。打ち捨てられたヒンドゥー寺院の美しさもさることながら、山頂から望む圧倒的な眺めはなぜこの場所が聖域として崇められてきたのかを雄弁に物語る。

旅の起点は世界遺産「アンコール」と同じシェムリアップ。今回は、アンコールに行く人にぜひ訪れることをオススメしたいカンボジアの世界遺産「プレア・ヴィヒア寺院」を紹介する。

プレア・ヴィヒア寺院で出会う奇跡的な景観:参道から塔門へ

第四塔門から続く参道から見上げた第三塔門

第四塔門から続く参道から見上げた第三塔門。ピラミッド状のプラットフォーム上に築かれているのがわかる。このように、塔門を抜けないとその先を見ることができない

カンボジアは広大な平野が広がる土地だ。カンボジア平原北部は海から400kmを経ても標高100mほどで、ジャングルや森林の緑が地平線の彼方まで続いている。

ナーガ

石段に据えられたナーガ。ここから参拝がはじまる

ダンレック山脈はカンボジア平原から不意に525mも突き出した断崖で、稜線は大地をカンボジア平原とコーラート台地に分け、それがカンボジアとタイの国境になっている。そしてそのダンレック山脈の頂に建つのがプレア・ヴィヒア寺院だ。

境内には参道、5つの塔門、4つの中庭が南から北へ一直線に延びている。参道から歩くほどに高くなり、もっとも高所にある第一塔門まで標高を120mほど上げている。

プレア・ヴィヒア寺院をお参りする際は寺の左右に回り込んだりせず、そのプランに従ってぜひ一直線に進んでいただきたい!

参道を歩き出すと、最初に見えてくるのはもっとも下、もっとも南に位置する第五塔門だ。そして第五塔門を潜り抜けると中庭が広がっており、その先に続く参道の向こうに第四塔門が見えてくる。塔門をくぐらないとその先の姿が見えない仕掛けで、ひとつ塔門をくぐるごとに標高が上がり、神聖さを増していく。

 

塔門の破風やまぐさ石に刻まれたレリーフにも注目だ。「乳海攪拌(にゅうかいかくはん)」をはじめヒンドゥー教のさまざまな神話が彫られており、この場所が聖域であることを強烈にアピールしている。

プレア・ヴィヒア寺院で出会う奇跡的な景観:神の景色

プレア・ヴィヒア寺院山頂からの絶景

プレア・ヴィヒア寺院山頂からの絶景。ポツリと浮かぶ雲とその影が旅情をそそる

プラットフォーム

ピラミッド状に石を組み上げてプラットフォームを形成している

最後の塔門である第一塔門は回廊で囲われており、その中の空間はサンクチュアリ(聖域)と呼ばれ、中心には中央祠堂が建っている。ここがプレア・ヴィヒア寺院の本堂だ。

中央祠堂の中にはもともとヒンドゥー教最高神シヴァの象徴であるシヴァ・リンガが供えられていたが、いまでは数多くの仏像が並べられている。仏像と並んでヒンドゥー教の神様であるガネーシャなども祀られており、神様の種類にこだわらずに祈りを捧げるカンボジア人のおおらかさが伝わってくる。

プレア・ヴィヒア寺院は世界の中心にあるという須弥山(しゅみせん。メール山)をかたどっているが、同時に山自体も須弥山を表しているのだろう。須弥山はヒンドゥー教のみならず仏教やジャイナ教、バラモン教、ボン教にも伝わる聖なる山。山頂は聖域中の聖域で、インドラ(帝釈天)をはじめとする神々が住んでいると伝えられている。

 

第一塔門、中央祠堂内部

第一塔門、中央祠堂内部。ガネーシャ像や、ナーガに守られたブッダの像などが祀られている

この山頂にヒンドゥー教の寺院が建てられたのは9世紀だが、それ以前からこの地は聖地として祀られていたという。なぜこの山が聖地となり、なぜ須弥山と見なされたのか? それは中央祠堂のさらに先へ進めば一目瞭然だ。

第一塔門の先に突如姿を現すのは、地の果てまで続く緑の大地。標高625mから見下ろす息をのむ絶景だ。それはまるで須弥山から見下ろすこの世の姿。太陽の暖かさ、雲の流れ、風のざわめきは天の恵みや時間の移ろいを感じさせ、一面に広がる緑は生老病死を繰り返す生命を思わせる。

古代から人はこの景色に魅了されてきたのだろう。この景色を眺める者は時間を超えて同じ彼らと思いを胸にし、彼らが感じてきたように神を感じるのである。

 
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