男の子育て/子どもの教育・受験

東大合格上位校にはなぜ男女別学校が多いのか

2015年の東大合格者数ランキング上位10校のうち、8校は男子校または女子校です。日本の高校の約9割は共学校なのに、です。なぜ名門進学校には男女別学校が多いのでしょうか。その理由を探ります。

執筆者:おおた としまさ

運動会のチーム編成に見る男女の集団性の違い

性別で個人を語ることはできません。しかし集団として考える場合、男子と女子はやはり違うようです。

それを如実に表す行事があります。運動会です。中高一貫の男子校の運動会では、中1から高3までの全クラスを縦割りにして、赤組・青組・黄組などと色分けのチーム編成にして、競技します。縦割りのチームの中で、高3をトップにした命令系統が綺麗にできあがり、高校生が中学生を指導する場面もよく見られます。毎年どこのチームが優勝するかわかりません。一方、女子校においては、少なくない数の女子校で、学年別のチーム編成で競技します。高3と中1がリレーで競ったりするのです。勝ち負けは見えています。だいたい毎年高3が優勝します。それでは面白くないのではないかと思う人も多いでしょう。特に男性。ではなぜ女子校では学年ごとのチーム編成にしているのでしょうか。いくつかの女子校の先生から似たような証言を聞きました。「女子は勝ち負けよりも、チームとしての集団力を高めることのほうにモチベーションを感じるもの。縦割りのチーム編成にした時期もありましたが、それではつまらないという声が上がり、学年別のチーム編成に戻した経緯もあります」。

男女の違いを表す象徴的な話ではないでしょうか。一般に男性はシステム化が得意といわれます。論理的、合理的、効率的に物事を体系化していくことが得意です。男性は明確な命令系統をもって縦型の組織を築くのが得意なのです。逆に女性は、共感が得意といわれます。まわりの雰囲気を察し合い、自然なコミュニケーションの中で組織を組み立てていきます。誰が上で誰が下という意識はありませんし、命令・服従というコミュニケーションも希薄です。気遣いや共感をベースにした横型の組織を築くのが得意なのです。

男子と女子では効果的な学習方法が違う

男子と女子では、特に思春期において、発達段階に大きな差が開くこともわかっています。中学においては男性の性的な成熟は女性のそれに比べて約2年遅れているといわれています。脳の厚さは平均で、女性が11歳で最大になるのに比べて、男性の場合はそれよりも18カ月遅れる傾向があることもわかっています。5歳から18歳の男女の情報処理能力テストをすると、幼稚園では男女の差がないのに、思春期には女性のほうが速くて正確であるという差が生じ、18歳には再び男女の差がなくなることも知られています。

一般に空間認知能力に優れている男子と、聴覚に優れている女子とでは、効果的な学習方法も違う

一般に空間認知能力に優れている男子と、聴覚に優れている女子とでは、効果的な学習方法も違う

また一般に男子は空間認知能力に優れているが、女子は聴覚に優れており、その違いゆえ、注意関心を引きつけるためのアプローチも違うという指摘もあります。そのため男子には図解して覚えるのが得意で、女子は耳から聞いて覚えるのが得意であるという傾向があると、ある脳科学者は指摘します。

教室の中でも違いは顕著です。男子校・女子校の先生たちが指導上気をつけていることを比較すると、さらに違いが明確になります。「男子には大きな夢を持たせることが大事、女子には現実的な具体的目標を持たせることが大事」。「男子の場合は挑戦意欲を刺激することが大事、女子には安心感を与えることが大事」。「男子はスイッチが入らないといくらおしりを叩いても伸びない。女子はやらせればやらせるだけ伸びる」などです。

OECD(経済開発協力機構)が行う国際的な学力調査PISAにおいても男女の違いは明確です。世界的に見ても、「読解力」においては女子のほうが圧倒的に成績がいいのです。逆に「数学的リテラシー」においては、男子のほうが有意に成績がいいのです。

海外では男女別学教育の効果に関する学術的な研究が行われ、共学よりも男女別学のほうが学力が伸びやすいという結果がいくつも発表されています。

実は男女別学校のほうが性的役割に縛られない

それだけではありません。男女別学校では、共学校に比べて、男女の性役割意識が固定化しにくい傾向があるという研究成果もあります。既存社会の中にある「男性らしさ」や「女性らしさ」に縛られることがないということです。たとえば男性が芸術系に進んだり、女性が理系の大学に進んだりということにも抵抗が少ないというのです。また、たとえば男子校のクラブ活動で誰かがおにぎりを握らなければならないとき、「女子、お願い!」なんてことはできません。全部自分たちでやることになります。たとえば女子校の文化祭で、ステージの大道具を用意するとき、工具を使って組み立てたり、重い物を運んだりということも、すべて女子だけでやらなければなりません。「男子、お願い!」なんてことはできません。男子校・女子校においては、「男だから」「女だから」という理由で役割が振り分けられるということがあり得ないのです。

ここに紹介した情報は、男女別学校に関する数ある知見の中のほんの一部ですが、これだけでも、男子校・女子校という環境で学ぶことの意義が感じられるのではないでしょうか。男女別学校は、男子の良さ、女子の良さをそれぞれ最大限に引き出すことのできる環境だといえるのです。いわゆる名門進学校に男子校・女子校が多い理由の一因ともいえるかもしれません。

しかし実は、男子校も女子校も減っています。現在、全国の高校の中で、男子のみが在籍する学校は約2.5%、女子のみが在籍する学校は約6.5%しかありません。さまざまな事情で共学化する学校が多いのは時代の流れなのかもしれませんが、今一度、男子校・女子校という選択の良さを見直してみてもいいのではないでしょうか。

男女別学校の教育についてさらに詳しく知りたい方は、拙著『男子校という選択』『女子校という選択』(いずれも日本経済新聞出版社)をぜひご覧ください。


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