運動と健康/柔軟性・姿勢・コンディショニング・身体の動き

身近なジェスチャーに隠された“体への効果”とは

ジェスチャーはただのコミュニケーション法ではありません。体を用いて表現する動きには、表現を超えた体の使い方のヒントが隠されていたのです。ジェスチャーが体に及ぼすその効果に迫ります。

中村 尚人

執筆者:中村 尚人

理学療法士 / 運動療法ガイド

私たちは身振り手振りで相手に意思を伝える手段として、日ごろ多くの「ジェスチャー」を用いてコミュニケーションをとっています。今回は、日本で良く使われているジェスチャーが体の機能にどう影響しているのか、運動学的に推測しご説明します。

体の感覚と表現

「Why?」というポーズは、あえて違和感のある姿勢をとっている?

「Why?」というポーズは、あえて違和感のある姿勢をとっている?

「Why?」「なぜ?」というときには肩をすくめて首を少し曲げたり、肘を曲げて、掌を上に向けたりしますね。肩をすくめる時に使うのは、僧帽筋という筋肉。この筋肉を使うと、肩が上がると同時に後頭部を下に引き下げます。この動きは“首を詰める動作”で、体にとって気持ちよくないものです。

実は、あえて違和感のある姿勢をとることで「変」=「なぜ?」という表現になっているのではないかと推測しています。姿勢や仕草が引き起こす体への様々な感覚を使って、自分の意思を表現しているのです。

そこには、ある種の「共感」というものが生まれるので、コミュニケーションとしてのジェスチャーの意味が見て取れます。

体に良いジェスチャーと悪いジェスチャー

サムアップ

「グー」は体にも良いジェスチャー

気持ちの良くない動作があるように、体に良い・悪いジェスチャーというのも存在します。例えば、「すごくいいね」という意味の時に「グー」として、親指を上げて他の指を握るジェスチャーがあります。また、逆に親指を下にするブーイングの「ブー」のジェスチャーもあります。実は、前者の動作は肩に良く、後者は肩に悪い姿勢になるのです。

親指を上にするときには、無意識ですが同時に脇をしめる感覚になります。また、親指が上というのは、手の動きで考えると外に回す動きになります。これらの動きは医学的には、肩関節の外旋と前腕の回外と言います。

これは肩関節が安定する姿勢なので、お相撲さんの「鉄砲」や、武道の「形」でも脇を締めることを強調されるほど、一番力が入りやすいところなのです。

また、腕をバンザイのように挙げるときには、肩関節の外旋が自動的に起こります。これは、肩の筋肉を骨同士で挟まないようにする機構です。

逆にブーイングのジェスチャーですと、脇は開いて手は内に回ります。医学的には肩関節の内旋と前腕の回内です。

肩関節の障害である四十肩は、このブーイングの動作が関わっているかもしれません。四十肩は肩の筋肉が部分的に切れたり(腱板損傷)、炎症を起こしたり(肩関節周囲炎)、または石灰が沈着したり(石灰沈着性腱板炎)して起こります。これらの様々な疾患の多くは、外旋がうまく起こらないこと、つまりは内旋が強くなっていることに起因しているのです。

「Good」と「Bad」の表現としての「グー」と「ブー」は、始めは「上」と「下」という上下の価値判断を表していたと思いますが、今まで見てきたように、体としても「いい」と「わるい」の対比ができるのです。

腕組みもからだにいい?

また、「腕組み」はプロレスラーやスポーツ選手のお決まりのジェスチャーとして定着していますが、これも運動学的に見ると体に良い姿勢と言えます。

肋骨と腕は背骨よりも前についており、重力がはたらいた結果として体幹には前に潰れる力が生じています。これに勝つためには背筋が重要です。そこで腕組みをすることによって、肋骨をより持ち上げる刺激になり、背筋を促すことができます。起きた姿勢は交感神経を高め、闘争心を引き出すのです。スポーツや戦いのときに、相手を威圧し、自分の能力を高めるもってこいの姿勢と言えます。

ただし、腕を組む位置には注意が必要です。肋骨より下で組んでしまうと、肋骨の引き上がりよりもお腹を押す感じになってしまい、逆に姿勢が潰れてしまいます。体をいい姿勢に持っていく位置は、「鳩尾(みぞおち)」がちょうど良いです。

最近は女性にも腕組みをする方が多いように思いますが、男女平等の社会で、女性も戦っているのかもしれません。


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