マンション相場・トレンド/マンショントレンド情報

震災から4年 仙台のマンション市場と復興の歩み

甚大な被害をもたらした東日本大震災から4年が経過しました。3月14日より国連防災世界会議が仙台市を中心に開催されるなど復興が徐々に形になり始めています。東北エリアの不動産マーケットに詳しい佐々木篤氏に震災以降の仙台市の住宅市場をヒアリング。復興に向かう今をレポートします。

岡本 郁雄

執筆者:岡本 郁雄

マンショントレンド情報ガイド

国連防災世界会議が東北地方で開催
パブリックフォーラムや展示で情報を発信

仙台駅

仙台では、国連防災世界会議が開催された

東日本大震災から4年が経過した2015年3月、 国連防災世界会議が仙台で開かれました。自然災害による人的損失、物的損害、社会的・経済的混乱について、国際協調行動を通じて軽減することを目的に国際防災の動きがスタート。1994年に第1回が横浜で、2005年に第2回が神戸で開かれ今回が3回目となります。国連に加盟する世界193カ国から、各国首脳・閣僚を含む政府代表団、国際機関、認定NGOなどが仙台に集まり、防災・減災に関する国際的な枠組を議論がなされました。
「せんだいメディアテーク」内の展示

「せんだいメディアテーク」内の展示

国際会議にあわせて、「せんだいメディアテーク」や「エル・パーク仙台」などの施設でパブリック・フォーラムやテーマ展示、各機関のブースなどで情報の発信・交流が行われました。テーマの多くは、防災や減災、復興に関わるもので、開催初日に訪ねた情報発信の中心の一つ「せんだいメディアテーク」内には、多くの人が集まっており、防災への関心の高さが伺えました。シンポジウムのテーマには、東日本大震災の記憶を朗読するものや、防災教育に関するものなど記憶が薄れつつある災害体験を次世代に受け継ぐものも多く見られました。

東日本大震災は、住宅に関する意識も「安全面」「防災面」で人々の住まいに関する意識に大きな変化をもたらしました。また、被災地ではさらに多くの人が住宅を失ったことで不動産マーケットにも大きな影響を与えました。今回会議が開かれている仙台市の不動産マーケット動向を、東北エリアの不動産事情に詳しい佐々木篤氏に伺いました。元リクルートの東北支社長(東日本大震災発生時)であり、幅広い人脈を持ち現在は、「東北を元気にする」ことを掲げ様々な経営サポートを行っています。また、定期的に「みやぎの住宅・不動産」レポートを出すなど仙台の不動産市場に精通されています。

2015年は、仙台の復興に向けて勢いづくプロジェクトが相次ぎ完成
供給戸数が著しく低下も着工戸数は回復 工事費アップで分譲価格は上昇

■プロフィール:佐々木 篤(ささき あつし)氏
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シーカーズプランニング代表 佐々木 篤(ささきあつし)氏

東北大学法学部卒業後、1984年リクルートに入社。住宅情報事業部に27年間所属し、首都圏営業部長、東北版編集長、東北支社長等を歴任。2012年3月株式会社シーカーズプランニングを設立し、営業力強化や組織活性を主とした経営コンサルティング及び不動産有効活用において、顧客企業並びにオーナーの収益力強化のサポートをおこなってる。


―――よろしくお願いします。仙台を久々に訪ねたのですが、マンションの相場観が変わっていて驚きました。
佐々木氏:
仙台でも工事費の上昇が大きく影響しています。もともと地方都市なので、マンション価格に占める工事費の割合は大きい。その中で、復興需要のある被災地であることで人手不足が深刻です。首都圏も工事費が上がっているようですが、市場規模の小さい仙台の方が深刻です。昨年の宮城県の新築分譲マンションの供給戸数は、574戸でこの10年のピークだった2005年の4分の1以下です。

―――価格も上昇していると聞いています。
佐々木氏:
2014年の新築分譲マンションの平均価格は、3913.2万円。平均平米単価は170.1万円。ともに2013年に比べ10%程度の上昇。マンション用地の価格もまだ上昇傾向なので当面はこのトレンドは続きそうです。

―――2015年はどんな年になりそうですか?
佐々木氏:
仙台駅東口

仙台駅東口 現在自由通路の整備など再開発が進行中

宮城では、2015年は明るい話題も多い。5月30日には、あおば通(仙台市青葉区)と石巻(宮城県石巻市)を結ぶ仙石線が全線再開される予定です。12月には、仙台を東西に横断する東西線も開業予定。交通ネットワークが強化されます。また、仙台駅東口の東西自由通路の拡幅を含めた再開発や災害公営住宅の整備も仙台圏では多くが完成する予定です。被災地の中でも仙台は、復興に向けて人が集まっています。マンション価格が上昇しても需要が底堅いのはそうした背景もあります。

―――マンション市場の動向は、どう考えますか?
佐々木氏:
仙台市でのマンション着工現場

仙台市でのマンション着工現場

新築分譲マンションの価格上昇を受けて、中古マンション市場は活性化しています。中古マンション価格もここ数年で新築同様大きく上昇しています。中でも、築年数の古いマンションの内装をリノベーションした物件が値頃感から売れています。一次取得者層のボリュームゾーンを考えると、2,000万円台でマンションを買いたいニーズがやはり強いのです。

―――供給戸数は今後どうなりますか?
佐々木氏:
あすと長町のマンション開発地

あすと長町のマンション開発地

国土交通省発表の新設住宅着工統計を見ると宮城県の2014年の分譲マンション着工戸数は、1,550戸で対前年比で178.3%と大きく伸びています。すべてが供給されるわけではないでしょうが、供給戸数は徐々に回復するのではないかと思います。マンションに関しては、売れ行きも堅調なので、先送りする理由はあまり見当たりません。一方、戸建ては立地次第ではないでしょうか。供給ボリュームが戸建ては一定数あるので、不便な立地では在庫も多いです。

―――今後の需要見通しは、どうお考えですか?

佐々木氏:
震災以降、仙台市中心に賃貸住宅は約98%と非常に高い入居率が続いています。今後、復興住宅の完成にともない、みなし仮設住宅(民間借り上げのもの)から退出する人が徐々に増えてくるので入居率は下がることが予想されます。人口減少の影響も東北地方は大きいでしょう。その中で、仙台圏は人口問題研究所のデータなどを見ても2035年にかけて人口の減少幅が小さい。独自に調査した震災後の仙台圏人口動向で増加が顕著だった中心部エリアやあすと長町エリアなどは、比較的堅調な需要が続くと考えます。

―――ありがとうございました。


震災の教訓を忘れずに
復興に向けて東北へ

造成が進む南三陸町

住宅地の高台移転の為の造成が進む南三陸町

仙台を訪ねた翌日に、南三陸町に向かいました。バスで、かつての市街地を眺めると高台の宅地を造成中の工事風景があちこちで見られました。南三陸町では、地震後の津波によって多くの住宅が浸水、尊い命が失われ避難者数は、住民全体の約55%にも及びました。現在、復興住宅も徐々に完成し、住居の高台移転を含む安全な街づくりが始まっています。

3年前、夜初めてバスで訪ねた南三陸町は、真っ黒で静かな景色で、かつてそこに街があったことに気がつきませんでした。被災した当初少人数でスタートした街のボランティア活動は、平成27年2月末現在で延べ14万3,273人もの人が全国から集まったそうです。そうした活動も含め少しづつ復興の歩みが始まったのです。安心な街づくりが進み、被災した街に賑わいが早く戻ることを願っています。

東京都神社庁が配布している平成27年3月の言葉は、物理学者の寺田寅彦氏の「天災ばかりは科学の力でもその襲来を中止させるわけにはいかない。」です。東日本大震災の経験を少しでも記憶にとどめ未来に活かすと同時に、被災された地域のことを忘れないことが仙台と南三陸町を訪ねて大切だと感じました。


※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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