アート・美術展/アートの楽しみ方入門

メディアアートって、何?

毎年2月に行われる「文化庁メディア芸術祭」のように、いまメディアアートというジャンルが注目されています。でもメディアアートって、どういうアート作品なのでしょうか?

藤田 千彩

執筆者:藤田 千彩

アートガイド

読者のみなさんも「メディアアート」という言葉を、一度は耳にしたことがあるでしょう。「文化庁メディア芸術祭」という展覧会が全国各地で開催されるなど、昨今その注目度は大きく増しています。しかし、そもそも「メディアアート」とはどういうものなのでしょうか? それを今回は考えてみます。


メディアアートとは?

岐阜県大垣市に情報科学芸術大学院大学(IAMAS・いあます)という、メディアアートを学ぶことができる学校があります。このIAMASで教鞭を取りながら、映像作家としても活躍する前田真二郎さんに、まずは「メディアアートとは何か?」を教えていただきましょう。

――「メディア」という言葉は普及しすぎのせいか広義で、新聞・雑誌という情報元という意味もあれば、コンピュータをつかったものを指すようなイメージもあります。「メディアアート」とは、どういう作品を指すのでしょうか?

前田 まず「メディア芸術」と「メディアアート」は違うというのがポイントです。

――どういう意味ですか?

前田
 2001年に文化庁が「映画、漫画、アニメーション及びコンピュータその他の電子機器等を利用した芸術」を「メディア芸術」と定義しました。これは「メディアアート」とは異なり、それらの言葉の意味や指している作品が分かりにくくなったかもしれません。

――では「メディアアート」とは何でしょうか?

前田
SOL CHORD(前田真二郎 + 岡澤 理奈)によるWEBムービー・プロジ ェクト 《BETWEEN YESTERDAY &  TOMORROW》 (2011-)

SOL CHORD(前田真二郎 + 岡澤 理奈)によるWEBムービー・プロジ ェクト 《BETWEEN YESTERDAY & TOMORROW》 (2011-)


 
先に挙げた文化庁の定義のなかにある「コンピュータその他の電子機器等を利用した芸術」が、「メディアアート」です。空間全体にインスタレーションとして展示するもの、特別な機器を装着して体験するもの、インターネットで発表されるものなど形式はさまざまです。また、複数人で身体を使って楽しめる作品や、シリアスなテーマを読み解かせる作品など、鑑賞方法や印象もそれぞれ多様です。

――「メディアアート」は文化庁が「メディア芸術」として規定した「映画、漫画、アニメーション」ではないんですね。また、「キャンバス+絵具=絵画」「木-削る=彫刻」というような簡単な方程式では答えられないものなのですね。

前田 メディアアートは、従来の美術とは違った新しい媒体(=メディア)による表現という意味も含まれています。ひとつの特徴として「装置を使った表現」と言えます。この考え方からいうと、ビデオや映像、そして写真までもが「メディアアート」としてとらえることができます。

――装置、とは?

前田 ここでいう「装置」は「道具」ではありません。絵画を描くときに使う筆や、音楽を演奏するピアノは、身体の延長としての「道具」と言えます。では、写真家が使用するカメラは「道具」でしょうか? 「道具」と答えても間違いではないのですが「装置」と言った方がしっくりきます。「装置」は機構が組み合わさった構造物ですが、人間にはできないことを実現する機械という意味で、「道具」と区別できます。それらの境界は曖昧であるかもしれませんが、カメラやコンピュータは明らかに装置です。

――聞いていると難しく感じます。右画像はその例ですか?

前田
James Bridle《Dronestagram》(2012-)

James Bridle《Dronestagram》(2012-)


 
右画像は、近年、メディアアートの領域で高く評価されたJames Bridleの《Dronestagram》という作品です。先ほどの言葉を使うと、インターネットで発表された「シリアスなテーマを読み解かせる作品」です。作者はまず、アメリカの無人爆撃機ドローンが攻撃した場所を新聞などの情報から特定します。そして、その場所の衛星写真をGoogleMapsから切り出し、そこでの被害状況のテキストとともにSNSにアップします。アップされた画像には、コメントがついたりシェアされたりします。このようなことを継続するプロジェクト全体を作品としています。

――SNSが「装置」ということでしょうか?

前田  そうですね。この作品に使われているGoogleMapsは、ご存知のように衛星写真や高度なデジタル技術によるものですが、現在、無料WEBサービスとして一般に普及しています。InstagramやTwitterなどのSNSも同様ですね。作者のJames Bridleは、そのような現代の「装置」を組み合わせることで作品化したと言えるでしょう。そして、そのことによって、今日における複雑なメディア・テクノロジーの状況と、私たちの過剰ともいえる「見る欲望」を批判的に提示していると解釈できます。メディアアートは、人と装置の関係を探求する芸術、とも言えます。

――前田さんが制作している映像作品は、装置がどうとかいうものではないと思うのですが。

前田
 そう見えるかもしれませんね。私はメディアアーティストというよりも映像作家として映像メディアを専門に扱ってきました。発表については、ライブ上映やマルチスクリーン上映といった、少し変わった形式を選ぶこともあります。けれど、3Dメガネを付けるといったような、特別な装置を使うことはなく、スクリーンやディスプレイで鑑賞するスタンダードな映像作品を制作の中心に据えてます。そうではあるのですが、先ほどの「装置を使った表現」は意識していますよ。

――前田さんの映像作品は、どういったものでしょうか?

前田
前田真二郎 《日々“hibi”AUG 》(2008-)

前田真二郎 《日々“hibi”AUG 》(2008-)


 
「装置を使った表現」を意識した作品に『日々“hibi”AUG』というシリーズがあります。これは毎年8月の1ヶ月間、毎日撮影したショットから15秒を選び、その15秒のカットを31日間、順番につなげていくことで生成される映像作品です。これを12年続ける計画なのですが、今年で8年目となります。この作品はワンカットの長さ以外に、毎日の撮影する時間帯にも規則を設けています。自らが設定したルールを守りながら即興的に撮影していく、という作りで、偶然の出来事をとらえることができた日もあれば、話しながら撮影する日もあります。過去に撮影した映像を見直して構成を考え、未来からの視点でその日を撮影することを目指しています。実のところ「自分の生活を記録したい」といった欲求はほとんどなく、作品制作の目的や関心は「撮影者の意図を越えて、多様な情報が記録される映像メディアの特性」にありました。

――それって、どういう意味ですか?

前田 この作品は、コンセプチュアルな構造を持つドキュメンタリー映画と言えます。しかし私は、カメラという装置と撮影者の関係を強く意識しながら、それを作品の主題にしています。そういった意味では、先に説明した「メディアアート」に限りなく近い表現だと考えてます。

――映画とどう違うんですか?

前田
前田真二郎 《日々“hibi”13 full moons 》(2005)

前田真二郎 《日々“hibi”13 full moons 》(2005)

一般的な劇映画は、撮影や音響などの機材を駆使して制作されますが、ほとんどの場合はそれらを「道具」として使用します。つまり、撮影、音響、照明などの専門家がそれぞれの「道具」を用いて、何かしらのビジョンやドラマを共同作業によって具体化していきます。このような「道具」を活用してつくりだす作品と、「装置」との関係から生成される作品(=メディアアート)を比べてみると、どちらが優れているということではなくて、目指すべき目標がそもそも違うことに気が付きます。そして同様に、作品の鑑賞方法や楽しみ方もそれぞれ異なります。メディアアートの鑑賞では、従来の映画やアートと比べて、より能動的に作品と対峙することが求められることが多いのではないでしょうか。私の目指す映像作品もそのようなタイプのものなのです。

右写真/前田真二郎 《日々“hibi”13 full moons 》(2005)
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