不動産売買の法律・制度/不動産売買の手続き

離婚するときには住まいを売るべき?

残念ながら離婚せざるを得なくなったとき、子どものことと同時に大きな問題は住まいのことです。住宅ローンを抱えたままのとき、これをどうするのかは簡単に判断できません。離婚をするときには売るべきなのか、その考え方のポイントを確認しておきましょう。

執筆者:平野 雅之


厚生労働省がまとめた「人口動態統計」によれば、2013年(平成25年)の離婚件数は231,383組にのぼり、2分16秒に1組の割合で離婚が成立しているのだそうです。これまでで件数が最も多かった2002年の289,836組からは減少傾向にありますが、依然として高い水準であることに変わりはないでしょう。

離婚のとき、子どもの親権や養育費のことなど決めなければならない大きな問題もありますが、それとともに難しいのが住まいのことです。すでに住宅ローンを完済していればよいのですが、その返済途中で離婚するケースも少なくありません。

住まいの名義をどうするのか、住宅ローンの支払いをどうするのか、売るのか、どちらかが住み続けるのか、あるいは第三者に貸すのかなど、いくつかの選択肢が考えられます。

ところが、離婚にあたっての住まいの取り扱いには、自分たちの思いどおりにならないことも少なくありません。そこで、離婚の場合における主な注意点を挙げてみることにしましょう。

離婚届の用紙

離婚届を提出する前に、住まいをどうするのかしっかり決めておきたい



住宅ローンの残債務が少ないなら、売却を検討するべき

住まいが元夫の単独名義で、住宅ローンの借入名義も元夫のみ、さらに元妻が連帯保証人になっていない条件のもとで元夫がそのまま住み続けるなら、とくに難しい問題はありません。元妻の新たな住まいをどうするのかという問題は残りますが、財産分与や、場合によっては慰謝料を求めればよいでしょう。

ところが、元妻が連帯保証人になっているとき、離婚したからという理由で連帯保証人を外れることは金融機関がなかなか認めてくれません。元夫が住宅ローンを滞納すれば、別れた元妻のところへ請求がいくのです。

住まいの査定をしてもらい、住宅ローンの残高よりも高く売れるようであれば、離婚のタイミングに合わせて売却することで、後々のリスクを避けられるでしょう。このとき、住宅ローンの残債務や売却費用を差し引いて残った金額の半分を、財産分与として受け取ることができます。

すでに住宅ローンを返済し終えている、または初めから借り入れがないような場合も、住まいを売却して財産分与に回したほうが、お互いにすっきりと新しい暮らしを始められるでしょう。


共有名義のときも売却を検討するべき

元夫と元妻の共有名義となっている住まいのときは、さらに面倒な事態へ陥ることもあります。離婚した後も名義がそのままだと、将来これを売ろうとするときに相手と連絡が取れなくなっていて、売るに売れないケースが生じるのです。

また、将来の売却前に元夫か元妻のどちらかが亡くなって、その親族あるいは再婚相手などに共有持分が相続されれば、より一層やっかいなことになりかねません。

したがって、共有名義の場合も離婚の際には売却を第一優先に検討することが大切です。

また、共有名義の場合はたいてい元妻が連帯債務者となっています。住宅ローンを借りる際に元妻が収入合算をし、同様に連帯債務者となっているケースもあるでしょう。住宅ローンが残ったままで連帯債務を外すことはできないため、このときも売却を優先しなければなりません。


住宅ローンの残債務が多いときはどうする?

ところが、住宅ローンの残高よりも高く売ることができない場合が多いのが実情でしょう。その差額を現金で穴埋めして金融機関に返済できればよいのですが、それができなければそもそも売却を認めてくれません。

住宅ローンの残高を下回る金額での売却は、原則として任意売却または不動産競売のときに成立するものであり、その前提として一定期間の滞納を続ける必要があるなど、これはこれでやっかいなものです。

そのため、現実問題として元夫または元妻のどちらかがそのままそこに住み続けるという選択をするケースも多いでしょう。離婚前の一定期間に元妻の収入があれば、債務名義を元妻に変更して住み続けることができる場合もあります。

ただし、それに応じてもらえるかどうかは金融機関次第であり、住宅ローンの債務名義あるいは所有名義の変更は認めてもらえないケースが多いと考えておくべきです。

その一方で、元妻が新たに住宅ローンを借りることのできる状態であれば、離婚後に元夫の単独名義の住まいを買い取ることも検討対象となります。親族間の売買に対しては融資をしない金融機関が大半ですが、離婚後であれば他人になるためそれが可能な金融機関も増えます。


元夫名義の住まいに元妻が住み続けることは慎重に!

元夫の単独名義となっている住まいに、元妻が子どもと一緒に住み続けるケースも多いでしょうが、このようなときはさまざまなリスクを伴うため、慎重に考えることが欠かせません。

まず、慰謝料や養育費代わりに、家を出て行った元夫が住宅ローンの支払いをするとき、滞納があれば強制的に処分されることになりかねません。とくに元夫が再婚するなどして新しい家族を持てば、自分が住んでいない家のローンの支払いが滞ることは往々にしてあるのです。

また、元夫の住宅ローン返済の一部を、元妻が家賃として支払うケースも考えられます。子どもを転校させたくない場合などには有効でしょう。このとき、賃貸人と賃借人の関係として割り切れればよいのですが、そこで家賃の滞納が生じたり、元夫の再婚相手などが割り込んできて関係がこじれたりするとやっかいです。

いずれの場合でも、居住者と住宅ローンの名義人が異なる状態になることから、金融機関との関係のうえでも好ましいものではありません。


離婚の条件は第三者を交えてしっかりと検討すること

離婚にあたっての住まいの取り扱いをいくつか挙げましたが、それ以外にもさまざまな問題があります。財産分与をどうするのか、財産分与に贈与税はかからないか、名義変更に対して譲渡所得税がかからないかなども確認しなければなりません。

婚姻期間が20年以上であれば離婚前に2,000万円の配偶者控除を検討したほうがよいケースもあるほか、財産分与請求権の時効(離婚成立日から2年以内)などについても知っておくべきです。住まいを購入するときに自己資金で充当したぶんをどう扱うのかなど、それぞれの事情に応じて難しい部分もあるでしょう。

また、上でも説明したとおり、住宅ローンが残っている時点では所有者名義の変更、債務者名義の変更、連帯債務者や連帯保証人の変更などを、金融機関がなかなか認めてくれません。

いずれにしても、自分たちの思い込みだけで話を決めず、離婚問題に詳しい弁護士、不動産税務に詳しい税理士、金融機関の対応に詳しい不動産の専門家などに相談しながら、しっかりと対応を話し合うことが大切です。


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※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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