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演出家・蜷川幸雄氏の”イケメン俳優論”について(2ページ目)

朝日新聞デジタルに掲載された蜷川幸雄氏のエッセイ『演出家の独り言・イケメン俳優人気への憂い』が各所で話題になっています。これまで自身の演出作品に藤原竜也、小栗旬、岡田将生、岡田准一、森田剛、成宮寛貴、綾野剛らの俳優をキャスティングしてきた蜷川氏の”イケメン俳優論”に迫ります!

上村 由紀子

執筆者:上村 由紀子

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それは蜷川幸雄氏の辛口エール

普段舞台を観ない人にはあまり知られていない事ですが、蜷川幸雄氏は最初から演出家だった訳ではありません。彼のルーツは実は俳優。34歳で演出家デビューを果たすまでは、自身もプレイヤーとして舞台に立ったりテレビドラマに出演する”イケメン俳優”だったのです。

自身が演技者として表に出ていた時代から、演出家として「世界のニナガワ」と称され活躍する現在まで、彼は俳優が潰れていく姿を数え切れないほど目の当たりにしたのでしょう。それこそ外見の美しさに胡坐をかいて、知識を吸収し内面を鍛え技術を磨く事をおろそかにした結果、その美しさが加齢と共に崩れ、いつの間にか居場所をなくし消えていった沢山の俳優の無残な姿を……。

俳優に対して大きな拘りと厳しい愛情を持っている蜷川氏が”イケメン俳優”とその人気に対して憂いを訴えたのは、ある種の叱咤激励ではないでしょうか。「お前ら今は女の子に騒がれてるかもしれないが、外見から華や輝きが消えたらどうするんだよ、その時に武器になるものを今から蓄えておかなきゃ終わるんだよ!」と言う辛口のエール。

路上から舞台の中央に立った藤原竜也

今回の蜷川さんの文章を読み、最初に浮かんだのが藤原竜也さんの事でした。池袋を友人と歩いている時にホリプロのスタッフから舞台『身毒丸』オーディションのチラシを渡され、見事その役を射止めた藤原さんはその後も蜷川作品をはじめ、数多くの舞台に立ち続けています。

もし、藤原さんが自分の外見だけを武器にし、俳優としての勉強をおろそかにしていたら、実力が一瞬で露わになる舞台の中心で生き残って来られるはずはなく、いつの間にか消えていく”イケメン俳優”の1人で終わっていたかもしれません。でも、彼はそうではなかった。キャラクター的に公の場で努力や苦労の話を自ら語る事は少ない藤原さんですが、百戦錬磨の蜷川組の俳優の中で舞台の芯に立ち続ける為、凄まじい努力をした事は間違いありません。俳優としてのスキルを磨く事は勿論、蜷川さんが稽古場で良く口にする外国の映画を観て、戯曲、小説など必死に読んだ事でしょう。

確かに三島由紀夫やチェーホフを読まなくても舞台には立てるし、キラキラした世界を女子に魅せる事も出来ます。外見が美しいというのはある種の正義。でも”イケメン俳優”というざっくりした枠から抜き出て、舞台の中央に1人で立てる俳優になるには自分だけの武器を身に着けなければいけない。その1つが「教養」ではないのか。

これが45年間、数え切れない人数の俳優と仕事をしてきた「演出家・蜷川幸雄」が伝えたかったことだと思うのです。

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