ミュージカル/注目のミュージカルレビュー・開幕レポート

2014年9~10月の注目!ミュージカル(2ページ目)

まだまだ残暑の候ですが、しっとりとした良質のミュージカルで、秋の気配を楽しみませんか?今回は『シェルブールの雨傘』『マンマ・ミーア!』『死神』『Studio 323ミュージカル・アサ・コンサート』『アルジャーノンに花束を』『ファントム』『太陽と月とスッポン』『道化の瞳』『フレンチミュージカルコンサート2014』『ワルツ』をご紹介します。開幕後は随時観劇レポートも追記掲載していきますので、お楽しみに!

松島 まり乃

執筆者:松島 まり乃

ミュージカルガイド



シェルブールの雨傘

9月2~21日=シアタークリエ、9月25日=福岡市民会館、9月27~29日=サンケイホールブリーゼ、10月3~5日=中日劇場

『シェルブールの雨傘』

『シェルブールの雨傘』

【見どころ】
例え作品は観たことがなくとも、そのテーマ曲は誰しも、どこかで耳にしていることでしょう。63年に公開された『シェルブールの雨傘』は、全編に台詞が無く、ミシェル・ルグラン作曲の歌だけで進行するミュージカル映画として、世界的なヒットとなりました。

時はアルジェリア戦争のさなか。終生の愛を誓い合った恋人が戦争に引き裂かれ、便りは無い。自分が身ごもったことを知った娘に、別の男からプロポーズがあり、彼女は苦悩するが……。哀切なメロディに彩られた本作が、5年ぶりに日本で上演。主役の恋人たちを井上芳雄さん、野々すみ花さん、二人を見守る周囲の人々を鈴木綜馬さん、大和田美帆さん、香寿たつきさんらが演じます。“自分ならどうするだろう”と、誰もが身を置き換えて観ることのできる人間ドラマ。人恋しさに満ちた、しっとりとした作品世界を堪能できそうです。
『シェルブールの雨傘』写真提供:東宝演劇部

『シェルブールの雨傘』写真提供:東宝演劇部

【観劇ミニ・レポート】
「この主題歌のメロディ、“次はここに来るだろう”という音からことごとく、半音ずれているんだよね」。ある作曲家が本作について、こう語ったことがあります。「でもそれゆえに、主人公たちの恋の切なさが際立つんですよ」。ミシェル・ルグランが作曲したこの甘美にして複雑な音楽は、シンプルな物語を味わい深いミュージカルに昇華。今回は歌巧者のキャストがこの難曲を流麗に歌いあげ、ドラマの余韻をぐっと深いものにしています。

ギイ役・井上芳雄さんは初々しい恋に溺れる20歳の日々を起点に、戦場では壮絶な体験をし、帰郷するも残酷な現実をつきつけられ自暴自棄になる。しかし新たな心の支えを得て再起してゆく……という起伏に富んだ過程を、丁寧に体現。決して英雄などではない等身大の「普通の男」を、どんなにオーケストラが大音量になっても明瞭に言葉を聞かせる卓越した歌唱で、愛おしく見せてくれます。ジュヌヴィエーヴ役・野々すみ花さんもギイへの一途な思いに溢れ、二人が抱き合う姿は清潔な美しさ。その後、彼と離れ離れになって苦しみ、一つの決断を下すまでを誠実に演じています。この二人の偶然の再会を描くラストシーンは、遠い日の悲しみと現在の幸福、そして自尊心が交錯する大きな見どころ。家族との何気ない日常や、ふつうの人間のつつましい生活がかけがえのないものに感じられる終幕です。

『シェルブールの雨傘』写真提供:東宝演劇部

『シェルブールの雨傘』写真提供:東宝演劇部

ジュヌヴィエーヴを見守ろうとする宝石商カサール役・鈴木綜馬さんはベテランの安定感がこの役の包容力とペーソスにぴったり。香寿たつきさん演じるジュヌヴィエーヴの母、エムリー夫人は普通のミュージカルなら年代的にもっと低音域であろうところですが、本作では高音域のナンバー揃い。それゆえ女性としての色香が立ち上り、香寿さんのエレガントなたたづまいともあいまって、実は彼女の中にはカサールに対してほのかな感情もあったかもしれない、と感じさせます。各場面をつなぐ転換の間には男女3人ずつのアンサンブルによるダンスが差し挟まれますが、前後のシーンに登場する要素を取り入れるなど小粋な趣向で、振付と演出を謝珠栄さんが兼ねていることが存分に生かされています。

つつましくも懸命に、誇りをもって生きる人間賛歌を雨の余韻の中で描き出す舞台。客席には64年の映画版のファンでしょうか、白髪のカップルもそこかしこに見受けられました。お母様、お父様を誘っての久々の親子観劇にもうってつけの本作、この後福岡、大阪、名古屋を巡演の予定です。

マンマ・ミーア!

9月2日開幕=四季劇場・秋

『マンマ・ミーア!』撮影・下坂敦俊

『マンマ・ミーア!』撮影・下坂敦俊

【見どころ】
“観ればきっと元気になれるミュージカル”として、とりわけ女性に大人気の本作が東京に帰ってきます。ギリシャの小島で宿を営む母娘それぞれの愛が、周囲の人々をも巻き込んで思いがけない方向へ。既存の曲を使ったとは思えないほど、ストーリーの中にスウェーデンのポップグループ、アバのヒット曲が巧みに織り込まれています。最後のどんでん返しもとびきりハッピーで、昂揚感のなか、観客総立ちのカーテンコールへ。キャストがアバ風衣裳で「Waterloo」や「ダンシング・クイーン」を歌い、後者のサビの部分では観客も一緒にダンス。コンサート気分も味わえます。4月には劇団四季版のキャストアルバムも発売されているので、観劇前後にアバの原曲と聴き比べてみるのも楽しいでしょう。

【観劇ミニ・レポート】
筆者の観た日はドナ、サムの樋口麻美さん、阿久津陽一郎さんはじめ、安定感抜群のキャスティング。ますます妖艶さを増してきたターニャ役の八重沢真美さん、初演時からハリーを演じ続け、最近は柔和な「癒しキャラ」に深みが加わってきた明戸信吾さんら、カラフルなベテランを得て見ごたえある舞台となっています。そのいっぽうでは若手組を代表するソフィー役・岡本瑞枝さんが、出色の演技。

『マンマ・ミ-ア!』樋口麻美、岡本瑞枝undefined撮影:阿部章仁

『マンマ・ミ-ア!』樋口麻美、岡本瑞枝 撮影:阿部章仁

勇気を出して呼び寄せた3人の「父親候補たち」を前にして動揺しつつも、それとさとられないよう努めながら話しかける様子。自分が本当に求めていることが分らなくなり、母親についあたってしまうが後に和解。「ママを誇りに思う」と言えるようになるまでの過程等、ソフィーの心の中の「折れ」(変化)を細やかに、克明に表現しています。これによって、ドナのみならず観客の中にも「親心」が芽生え、ソフィーの「旅立ち」を祝福。幸せなカーテンコールへと劇場が一体化してゆくのです。

『マンマ・ミーア!』八重沢真美undefined撮影:下坂敦俊

『マンマ・ミーア!』八重沢真美 撮影:下坂敦俊

そのカーテンコールではこの日、ペンライトを振る観客、多数。最前列には「ダンシング・クイーン」の振りを、全部覚えていると思しき方も。リピーターからの「愛され度」も半端でない作品です。




*次ページで『Studio 323 ミュージカル・アサ・コンサート』以降の作品をご紹介します!*

  • 前のページへ
  • 1
  • 2
  • 3
  • 5
  • 次のページへ

あわせて読みたい

あなたにオススメ

    表示について

    カテゴリー一覧

    All Aboutサービス・メディア

    All About公式SNS
    日々の生活や仕事を楽しむための情報を毎日お届けします。
    公式SNS一覧
    © All About, Inc. All rights reserved. 掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます