糖尿病/糖尿病対策の生活・運動療法

運転中の重篤な低血糖を防ぐには就寝時の血糖管理から

2014年6月30日午後4時ごろ、糖尿病のインスリン治療による低血糖とみられる車の暴走事故が大阪・御堂筋で起こりました。自転車女性ら3人が重軽傷です。

執筆者:河合 勝幸

低血糖予防のスナックはタンパク質と糖質のコンビが理想的です。写真はチーズ&クラッカー

低血糖予防のスナックはタンパク質と糖質のコンビが理想的です。写真はチーズ&クラッカー

2014年6月30日午後4時ごろ、糖尿病のインスリン治療による低血糖とみられる車の暴走事故が大阪・御堂筋で起こりました。自転車女性ら3人が重軽傷です。5月施行の自動車運転処罰法では低血糖によって正常な運転に支障が生じるおそれがある場合も「危険運転致死傷罪」を適用する要件に含めていますから、被害者に対する賠償はもちろんのこと、加害者の責任も大きく問われます。この事故の真相はまだ報道されていませんが、他者の介護を必要とするような糖尿病の重篤な低血糖は、当コラムで再三指摘しているとおり防ぐことが出来るのですから残念でなりません。

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低血糖は糖尿病治療中によく起こる緊急事態です

糖尿病治療は食事と身体活動、インスリンのような薬とのバランスを取り、普通の社会人として生活できることで達成されます。この微妙なバランスが崩れると高血糖や低血糖になります。高血糖でも低血糖でも意識障害が起こりますが、高血糖性の昏睡は極端な値で起こるのに対し、低血糖は正常値の下限(70mg/dl)からわずか10~20mg/dl下回っただけでも交感神経刺激症状が表われ、さらに血糖値が50mg/dl程度以下に低下すると中枢神経症状が生じ、やがて意識レベルの低下、異常行動、けいれんなどが出現して昏睡に陥ります。つまり、低血糖による意識障害は血糖の正常値に隣り合わせのところで起こるのです。

経口薬のSU剤やインスリン治療の糖尿病患者には、自覚できる軽い低血糖症状は決してまれなことではありません。だから常にブドウ糖を身につけているのです。低血糖による重大事故の原因は、自覚できない「無自覚性低血糖」が主なものです。あるいは低血糖への備えを怠った自己責任です。これを避けるには低血糖を自覚できない患者を低血糖に気付く患者に変えることです。これは医療プロバイダーが低血糖に精通し、患者のモラルが高ければ実現できます。詳しいことは「糖尿病の病歴と比例? エスカレートする低血糖」をご覧ください。

繰り返す低血糖が更なる無自覚性低血糖へ

日常的にリカバリーできる低血糖を起こしていると、次回の発作時には低血糖防御ホルモンの分泌が低下して低血糖の自覚が次第に困難になります。低血糖事故を起こした患者の主治医は、患者が食事や運転時の指図を守らなかったことで医師の責任はないと言いますが、私は素直には同意できません。

いろいろな理由が考えられます。2011年8月に水戸市で起きた3人事故死、禁錮6年の低血糖交通事故では、検察側は「インスリン注射をしたのに食事をしなかったため、運転中に低血糖による意識障害になった」としましたが、弁護側は運転前にはインスリン注射をしていないと無罪主張していました。私は弁護側の意見を再確認する義務が医療プロバイダーにあると考えています。つまり、日本の医師が一日2回打ちで済むとして安易に最も多く処方しているインスリン製剤の混合型インスリン(超速効型あるいは速効型インスリンと中間型の混合)はとてもトリッキーな作用をするのです。朝、注射した混合型インスリンの中間型が昼食のボーラスと半日分のベーサルを兼ねているからです。その説明を受けていない、あるいは理解していないと、食欲が無かったり仕事が忙しくて昼食を先延してしまい、低血糖が起きるのです。

私も初めてインスリンを処方されたのがこの混合型だったのですが、夕食時に注射したインスリンが就寝時にも効いてきて困った経験があり、早急にマルチショットに切り換えてトラブルを回避しました。私は医師からこの特性の説明を受けていないので、医原性の低血糖があることを承知しているのです。

就寝中の低血糖を避けることがとても大切です

米国で31年前にスタートして、21年前の1993年に結果が発表されたDCCT(1型糖尿病患者1,441人を対象とした血糖コントロールと合併症に関する前向き臨床試験)ではいろいろなことが科学的に証明されました。約7年間の試験期間中にHbA1C 7%(NGSP値)を維持したインスリン強化療法群では糖尿病合併症の発症・進展が有意に抑制されたのです。同時に7%を達成するためには炭水化物管理食がとても有用な食事療法であることが見直されました。そして、血糖値を正常値に近づけようとすると介護が必要な低血糖が対照群と比べて約3倍も多くなることも分かりました。この重篤な低血糖の半数以上が寝ている間に起っているのです。そして寝る前の血糖値が低血糖発現を予知する大切な因子なのです。

最近は食後高血糖に医師達の関心が移っていますが、DCCTで分かったことの一つは、A1Cに関連が強い血糖測定値は食後2時間値ではなく、この就寝時の血糖値だったのです。就寝時の血糖測定でスナックを補食すれば夜間の危険な低血糖を防げますし、高過ぎれば適切な追加インスリンで早朝の血糖値が安定します。

インスリン治療の糖尿病患者は、1型でも2型でも就寝中に自覚できない低血糖をよく起こしているのです。この日常の低血糖が交感神経や中枢神経の低血糖アラームの感度を下げ、無自覚性低血糖の素因になっていることは十分に考えられます。
私は就寝時血糖値が100ml/dl以下の時はチーズとクラッカーのようなタンパク質と糖質を適量食べるようにしています。スキムミルクもお薦めです。タンパク質は消化吸収も穏やかで、なによりもアミノ酸は私達が障害されているグルカゴン(血糖を上げるホルモン)の分泌を高めてくれるのです。低血糖予防のスナックがタンパク質と糖質の組み合わせなのは1920年代のエリオット・ジョスリンの指示ですが、今日では科学的にも証明されているのです。ぜひ、ご参考に。

A1C 7~7.5%が無自覚性低血糖を防ぐベストの血糖管理目標

1型糖尿病で合併症予防のため、血糖管理を正常値に近づける程重篤な低血糖が起こりやすくなることは上記のようにDCCTで証明されました。ところがその試験中にも非常にコントロールが悪い患者でも、高血糖から低血糖へ大きく動揺して低血糖発作が逆にかなりの頻度で起こることが分かっていました。最新の研究ではA1C 6.5%以下でも8.5%以上でも1型では重篤な低血糖が起こりやすくなるのです。A1C 7~7.5%が最小のリスクでした。
最新の研究では2型糖尿病でもA1C 6%未満、8.9%を超えると重篤な低血糖のリスクが高くなるという発表がありました。この2型の試験は今後の追試での確認が待たれますが、危険な無自覚低血糖と10~20年後の糖尿病合併症のリスクをはかりに掛けても、低血糖が起きやすい人がA1C 7~7.5%を目標にするのは理に適っていると思われます。担当医と相談してみましょう。

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