ストレス/家庭・育児・嫁姑・義理づきあいのストレス

「思春期」VS「思秋期」の親子の葛藤をどうする?

思春期の子を持つ親が、子どもの態度に無性に苛立ち、対立してしまうのは、自分自身の「思秋期」の心身の変化を受容できていないからなのかもしれません。子どもとの衝突を繰り返すより、思秋期の人生課題に目を向けてみませんか?

大美賀 直子

執筆者:大美賀 直子

公認心理師・産業カウンセラー /ストレス ガイド

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子どもの「思春期」に、親が迎えるのが「思秋期」

「思秋期」の親に似ているのは誰?

子どもが思春期に入ると、親に何かと反発し、批判的な言葉を口にするようになります。すると、親は苛立ちを抑えきれず、つい「生意気言うな!」「誰のおかげで生活できると思ってるの?」といった感情的な言葉をかけてしまい、険悪ムードになることがしばしば・・・・・・。「思春期の生意気さも成長の一プロセス」と頭では分かっているのに、どうして感情を抑えられなくなってしまうのでしょう? その謎を解く言葉に、「思秋期」というキーワードがあります。

思春期の子を育てる親の年齢は、大方が40代。この年代は、「人生の秋」を思う時期という意味で「思秋期」と呼ばれる時期にあたります。失った若さにちょっぴり未練を覚えながらも、老年期への準備を考えるにはまだ早いと感じるのが、思秋期の大人たち。そんな宙ぶらりんな自分に、モヤモヤ感を抱えやすい年代なのです。

ところで、このどっちつかずで定まらない感じ、誰かに似ていると感じませんか? そうです。「子ども」とは認めたくないけど、「大人」にもなりきれない思春期の子どもたちと、そっくりではありませんか! 思春期の子と思秋期の親は、お互いに中途半端な自分にモヤモヤしやすい時期だからこそ、感情的にぶつかりあってしまうのです。
 

せつない思秋期 VS 無理解な思春期

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若さへの喪失感にせつなさが募る思秋期

さらに、思秋期の親が思春期の子に感じる苛立ちの背景には、大きく2つの原因があります。一つは、この時期特有の「体調の変化」です。「夏」を思わせるようにがむしゃらに走り続けた30代と違い、少し頑張りすぎると疲れを感じ、けだるさを覚えるのが思秋期の大人たち。本人はまだまだ若いつもりでも、筋力が落ち、代謝が落ち、免疫力も落ち、確実に体の衰えは進んでいます。

「このくらいのことがなぜしんどいのか」とわが身のふがいなさにため息をつく一方で、同じことを難なくこなせる若さへのジェラシーをふと感じてしまう。頭では大人げないことと分かっていながらも、エネルギッシュな若さしか知らないわが子から、「休日に寝てばかりいる人に、あれこれ言われたくないんですけど!」などと無理解な一言を掛けられてしまうと、無性に腹が立ち、つい衝突してしまうのでしょう。
 

分別臭い思秋期 VS 青臭い思春期

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思春期ゆえの理想論は、思秋期の大人には「世間知らずの浅知恵」にしか思えない

二つ目の原因に、思春期と思秋期のまったく噛み合わない「世代間ギャップ」があります。「窮屈なしがらみを抜け出し、自由に向けて突っ走るだけ」――こうしたまっさらな夢を抱けるのも思春期という若さゆえですが、そんな子どもを心配そうに見つめながら、堅実に家庭を守り、着実に人生を生きているのが、分別のある思秋期の親たちです。

ところが、思春期の子にとって、そんな思秋期の親が言う説教など、「古くさい繰り言」にしか聞こえないものです。堅実さは大人にこそ共感を呼ぶ価値観ですが、人生の難局を知らない思春期の子にとっては、何の魅力もない「妥協」にしか感じられないからです。

こうして親の教えや生き方を批判し、青臭い理想論を語る思春期の子の言葉に、思秋期の大人は苛立ちが募る一方・・・・・・。そして、「おまえに何ができる」「理想だけじゃ食っていけないぞ」などと、嫌味まじりの一言を加えてしまうのではないかと思います。
 

正反対なベクトルを生きる思春期と思秋期

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親子はもう、別のベクトルに向けて歩き始めている

「第二の誕生」とも言われる思春期の子たちは、若い翼を思い切り広げながら、勢いよく上り坂を駆け上がっています。一方、思秋期の大人は、後半生に向かって人生を見つめ直しながら、ゆっくりと下り坂を歩み始めているのです。

つまり、思春期の子と思秋期の親は、宙ぶらりんで不安定な状態こそ共通しているものの、「心のベクトル」は正反対なのです。だからこそ、お互いに感情的になりやすく、思春期の子は親を否定したくなり、思秋期の親は子どもに小言を言いたくなってしまう。この理解のずれと噛み合わなさは、如何ともしがたいものです。

しかし、むしろそれを受け入れてお互いに少し距離を置き、それぞれの人生を尊重することが必要なのではないかと思います。
 

「青春」と「人生の秋」―それぞれの人生を歩む親子

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そろそろ、思秋期の人生課題に向き合う時期ではありませんか?

そもそも、子どもが思春期を迎えたら、親役割は変化するものです。親が積極的に子どもを導く必要性は、もはやありません。思春期からは、対等な友だち関係の中で、あるいは部活の先輩やコーチ、学校や塾の先生など、親以外の年長者との関わりの中で「自分らしい自分」を見つけようとするものです。その途中では、多少の「やけど」を負うこともあるかもしれません。それでも、子どもには自力で軌道を修正する力があることを信じて、親は見守っていくことです。

思春期の子どもが自分の人生課題に向き合い始めたように、思秋期の親にも向き合うべき人生課題があります。子離れと共に重要度が増す「夫婦関係」の再構築、年老いていく親との関係、後半生へ向けてのライフプランや資金計画など、取り組むべき問題は山ほどです。子離れによって手に入れた時間こそ、こうしたテーマへの取り組みに適した時間です。

もちろん、子離れをしたといっても、親の役割が必要なくなる訳ではありません。未成年を保護する親としての養育責任は続きますし、「やけど」では済まされない危険を感じたときには、すぐに手を差し伸べる必要もあります。とはいえ、思春期の子が「青春」に向けて歩き始めたときは、思秋期の親も「人生の秋」への歩みを進めていくタイミングです。別々のベクトルに向かうお互いを尊重しながら、一つ屋根の下で共に生きていく――こうしたゆるやかな親子関係の再構築ができるのも、信頼関係でつながった親子だからこそではないかと思います。
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