糖尿病/糖尿病の原因・基礎知識

町医者で糖尿病治療を受ける時の心構え

健康保険証があれば、どこでも治療を受けられた「フリーアクセス」の時代が終わりつつあります。これからはすべての病気の窓口となる地域のプライマリケア医と専門医の2極化が進むでしょう。難病・糖尿病は今でも一般の開業医が担当していますが、実は管理栄養士などの適切なアシストがなければ糖尿病治療は出来ないのです。制度だけが先行して、町医者が専門医に紹介する基準があやふやでは困ります。

執筆者:河合 勝幸

大病院で診察を受けている人は次回の予約があれば継続できます。これからは糖尿病医が開いているクリニックを選ぶか、心得のない町医者をうまくリードするか、糖尿病患者も思案のしどころです。

大病院で診察を受けている人は次回の予約があれば継続できます。これからは糖尿病医が開いているクリニックを選ぶか、心得のない町医者をうまくリードするか、糖尿病患者も思案のしどころです。

日本では医師国家試験に合格すれば、医師として自由に標榜科目を選ぶことが出来ます。開業医がやたらと多くの診療科目を掲げているのは、心得があるというよりは一人でも多くの患者を集めるための営業方針なのでしょう。かつて、眼科の研修をまともに受けてない医師が高給に惹かれて眼科医として雇われて、多くのコンタクトレンズ使用者に傷害を与えた事件や、不必要な子宮全摘出手術を行っていた産婦人科病院の悲惨な事件もありました。

そのため、内科や外科などの「専門医」を統一的な基準で認定しようとする日本専門医機構が組織を改めて2014年5月7日に発足しました。専門医の乱立状態や質や技量のばらつきを改善するのが目的です。日本にはいろいろな学会が独自に認定し、厚生労働省が医療法に基づいて広告を認めている「専門医」だけでも既に56種類もあるのです。

糖尿病関連でも日本糖尿病学会が認定している糖尿病専門医が約5000人いますし、別に日本糖尿病協会が認定している療養指導医が約1,500人、登録医が400人位います。ところがこれらの糖尿病に精通した医師の多くは大学病院や大病院に居ますから、病院から閉め出されつつある私たちにとって、ますます手が届かない遠い存在になっているようです。

大病院から地域の診療所へ逆紹介の時代に

今年(2014年)4月の診療報酬改定で、大病院が患者を地域の診療所(いわゆる町医者)に逆紹介して、在宅復帰を促すことが義務づけられました。大病院は本来の使命である専門的な高度医療に特化し、風邪や高血圧、糖尿病などの日常のありふれた病気や生活習慣病は開業医(診療所)が担う制度の確立です。総合医療の入口や術後ケアなども診療所が担います。

何気なく一口に「病院」といいますが、厳密には入院ベッド数が0~19床の「診療所」と、20床以上の「病院」に分けられます。更に入院ベッド数400床以上を大病院と呼んでいます。欧米では地域のプライマリケア医(Primary care provider, かかりつけ医/町医者/一般医)の紹介が無いと専門医の診断が受けられません。日本では紹介状が無い場合は過渡的にペナルティを払えば大病院でも診察が受けられますが、この先どうなるかなかなか見えてきません。私が知る限りでは欧州のプライマリケア医は地域で指定されていますが、米国では保険次第では患者が選ぶことが出来るようです。デンマークではペナルティを支払うことで自分に合ったプライマリケア医を指名することが可能でした。

はっきり言えることは、従来のように健康保険証を提示すればどの病院でも診察が受けられたフリーアクセスの時代は終りつつあるということです。欧米では地域のプライマリケア医の診断を受けた上で、はじめて専門医の紹介がもらえます。日本でも同様のシステムを目標としているようですが、現在の町の診療所が欧米並みのプライマリケア医の役割を果すのは、はっきり言って無理です。なぜなら、米国のプライマリケア医である家庭医(Family Practitioner)は、医学部卒業後3年間のレジデンシー(卒後研修)を内科や外科を始め、整形外科や産婦人科など全科の研修を受けてから家庭医専門試験に合格した専門医なのです。日本の開業医のように自由に診療科目を掲げているのとは大違いです。米国の家庭医はどのタイミングで各分野の専門医に紹介すべきか判断するのも自分の大切な職務なのです。

わが国でも上記の日本専門医機構が米国式家庭医を「総合医」と称して「専門医」と認定する方向ですから、いずれは町の専門医としての総合医が糖尿病治療も担当してくれるでしょう。糖尿病は頭のてっぺんから足先までの病気ですから、視野の広いトレーニングを受けた医師でないと、どのタイミングで専門医に紹介すべきか分からないのです。現在のように合併症が出てから専門医に紹介するのでは手遅れです。

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糖尿病で診察を受ける時の心得

予約してあるのに検査室で20分待たされて、更に待合室で古雑誌を読みながら30~40分待って医師の診察は10分足らず…これが日本でも欧米でも、プライマリケア医でも専門医でも寸分たがわず……。糖尿病は忍耐力もお金も時間も必要な病気です。その上、血糖コントロールが悪いと、まるで患者が悪いように叱かられて、終ってから院外薬局でまた1時間も待たされたのでは糖尿病は実に腹の立つ病気でもあるのです。私たちに与えられているのは医師と話す10分足らずの時間です。これを無駄にしてはなりません。

準備が必要です

診察を受ける前に質問あるいは話し合いたいポイントを箇条書きにしておきましょう。合併症に思い当たることだけでなく、健康に関する全てのことでもいいのです。例えばひざの痛みや不眠症、足先のしびれや胸の痛み、薬の副作用や費用(自己負担)のつらさでも報告すべきです。その中に潜んでいる他のリスクが医師なら判別できます。ただし、質問は3~4に絞るように。私は糖尿病以外はトラブルがなく、日常的なかかりつけ医もいませんから、2回に1回は糖尿病以外の話題を選ぶようにしています。

日常の血糖記録を用意します

もし、血糖自己測定をしているのなら、必ず持参しましょう。トラブルがあっても記録がなければ調整方法が見付かりません。パターンを見ることで薬の効き具合や食事、運動が糖尿病コントロールに与えている影響が推測できます。特にインスリン治療の人はその毎日の記録を忘れないように。

お薬手帳を忘れずに

これも必要なことです。多くの患者が服用している薬の種類も分量も知りません。薬局から支給されるお薬手帳、あるいは服用している全ての薬を担当医に提示できるように準備をしておきましょう。

歯科、眼科などの他領域の健康記録も用意しよう

健康関連の記録、例えば眼科、歯科、外科、産婦人科、泌尿器科などの受診記録も必要になることがあります。担当医はそれらの疾患が血糖コントロールに与える影響を見たいと思うかも知れません。

さて、医師の前に座りました。どんなアクションを取りますか?

私は何も言われる前に、自分で靴と靴下を取ります。担当医が"ずる"をして足の検査をパスしないように、まずプレッシャーを掛けるのです。これで初めての医師でも心構えが変わります。医師のひと通りの説明が終ったら、用意してきた質問表を取り出します。特に問題がなくても、糖尿病マネージメントの全ては医療プロバイダーと患者のアジェンダ(協議事項)だからです。

糖尿病治療がプライマリケア医によって行われ、自由に内分泌科医(糖尿病もその一つ)にアクセスできない欧米では、非常時の心得などがもっと多くありますが、日本の医療システムの変化によってはこのような欧米並みの「患者学」が必要になるかも知れません。毎年1兆円もの高額な医療費が増え続けている日本では、高齢者医療の締め付を覚悟しなくてはならないでしょう。これまで以上に患者自身の糖尿病管理がポイントになります。毎日の血糖コントロールを大切に!
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