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人はなぜ高橋大輔に魅了されるのか

先シーズン限りで引退すると見られていたフィギュアスケートの高橋大輔選手が一年間の休養を宣言。競技会でまた彼の演技を見られる可能性が残り、喜ぶファンの声が絶えない。あまたいる選手の中でも、高橋選手はとりわけファン層が厚く国籍も問わない。なぜ彼の演技は見る人の心をつかみ、魅了するのか。それは比類なき彼の芸術性にある。

松井 政就

執筆者:松井 政就

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人はなぜ高橋大輔に魅了されるのか

人はなぜ高橋大輔に魅了されるのか

フィギュアスケートの高橋大輔選手が一年間の休養を宣言し、競技会からしばし離れることを発表した。

当初、ソチ五輪シーズンをもって引退すると見られていたが、シーズン終了後に彼が出した結論は引退ではなく休養だった。

怪我により、自身が納得する演技が出来なかったことが理由かもしれない。

人気選手の中でも、とりわけ高橋選手はファンの層が厚く国籍も問わない。
そんなファンにとって、競技会でまた彼の演技を見るチャンスが残されたのは朗報であるし、そのためなら1年待つことなど苦にならないだろう。


なぜ高橋選手は見る人を惹きつけるのか

そのわけが彼の豊かな表現力にあることは知られている。ジャンプなど、わかりやすい技術面ばかりがクローズアップされる時代に、彼の表現力は際だっている。

フィギュアスケートはスポーツであり、他の競技と同様にルールに従って判定される。しかし一つだけ他の競技と本質的に異なる特徴がある。それは「芸術性を競うスポーツ」という点だ。


氷上のオペラ

フィギュアにおいては、単に回転の速さやジャンプの高さを競うだけでなく、演技によっていかに音楽を表現するかという「芸術性」も競われる。それが欧州で今もなお「氷上のオペラ」と呼ばれるゆえんだ。

芸術性という概念は絵画に置き換えるとわかりやすい。たとえば何十色も何百色もの絵の具を使えば、たしかに色の数は多いが、だからといってその作品に人が感動するとは限らない。

その一方、黒と赤だけで描かれた作品が人々を魅了することもある。色の数の多さや難解なテクニックではなく、一本の筋が描く形(=フィギュア)に人は感銘を受ける。それが「芸術性」であり、数や量とは異なる次元の問題だ。


芸術性を十分反映できない採点システム

しかし残念なことに、今の採点方法ではその表現力が得点に十分反映される仕組みになっていない。

競技として勝敗を決める都合上、演技は点数評価しなければならない。フィギュアの場合、スポーツ的技術を測る「技術点」と芸術性を測る「演技構成点」で得点化されるが、そのバランスが今、崩れかけている。ジャンプのように数値化しやすい面ばかりが偏重され、本来フィギュア最大の良さであるはずの芸術面が軽視されはじめているのだ。

あくまで極論だが、フィギュアの採点システムを徹底的に研究し、美しくても得点になりにくいという理由から芸術性を削り、高難度のジャンプなど得点となりやすい要素ばかりを詰め込んだ演技をしたとすれば、高得点を出すのは不可能ではない。

しかしそれをした瞬間、流れる音楽はただのBGMと化し、演技は芸術性を失い、氷上のオペラとはかけ離れたものとなる。


高橋にしかできない芸術表現
それは「楽曲の世界観の視覚化」

そんな風潮と戦っているのが高橋大輔選手だ。彼が他の選手と本質的に異なるのはその点にある。

多くの選手が音楽をバックに要素を消化していくように見える中、高橋選手の場合は、演奏者が彼と呼吸を合わせながらまるで生で演奏していると錯覚させられるほど一体化している

それは単にリズムの一致や音楽とのシンクロというレベルではない。彼に表現されることで、その楽曲が持つ「世界観」が人の目に見えるかたちでリンク上に姿を現すのだ。

つまり高橋選手の演技により
「楽曲の世界観の視覚化」
が起きているのだ。

これは音楽単独ではとうてい実現不可能な、非常に高度な芸術的行為である。それは「跳んだ」「回った」「高得点が出た」という話とは全く次元が異なるもので、見た人にかつて味わったことのないほどの芸術的衝撃を与える。

そんな芸当が出来る選手はなかなか見あたらない。だから世界中のファンは高橋選手に熱狂する。

上手なスケーターはたくさんいる。
美しいスケーターもたくさんいる。

しかし、見た人の価値観を変えるほど、その心に深い感動を刻みつけるスケーターはわずかしかいない。

それが高橋大輔だ。

一年後、彼がどのような結論を出すかは誰にもわからないが、不世出の表現者がまた新たな魅力を携え、ぼくらの前に帰ってきてくれることを楽しみにしたい。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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