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顔面神経麻痺の症状・原因・治療・リハビリ

【形成外科医が解説】【症例画像も】顔面神経麻痺は知覚麻痺や運動神経麻痺で顔面の変形が主体となる病態です。原因は、ウイルス感染、脳腫瘍、脳梗塞、側頭骨骨折など様々ですが、時に原因不明のこともあります。治療は安静、内服薬、手術、リハビリがあり、長期間の治療が必要です。

井上 義治

執筆者:井上 義治

形成外科医 / 皮膚・爪・髪の病気ガイド

顔面神経麻痺とは・実際の症例画像

「顔面神経麻痺(がんめんしんけいまひ)」とは難しい病名ですが、顔面神経に麻痺が生じる病態です。様々な病気、外傷、原因不明などで発生するので鑑別が難しい場合があります。受診する科も、脳外科、耳鼻科、形成外科などいろいろな分野の診断、治療が必要となります。
 
顔面神経麻痺

顔面神経麻痺。眉毛、眼瞼、頬、口に変形が生じます。


顔面神経が完全に麻痺すると顔面の表情筋と呼ばれる様々な筋肉が完全に麻痺します。眼瞼、頬、口など顔面が全体的に麻痺して下がった状態となり、眼瞼、頬、口を動かすことができません。

<目次>  

顔面神経とは

脳中央にある脳幹の一部で橋(きょう)とよばれる周りからすこし膨らんでいる場所から始まり、側頭骨の中を通り、頭蓋骨の小さな穴で茎乳突穴(けいにゅうとつこう)とよばれるところから外にでます。
顔面神経

顔面神経は脳幹から発生し側頭骨の中を通り茎乳突孔から頭蓋骨を離れ耳下腺を通り分岐します。




その後耳下腺の手前で二つに分かれて耳下腺の中を通ります。耳下腺の中で枝分かれしながら、前方に進み、側頭枝、頬骨枝、頬筋枝、下顎縁枝、頚枝に分枝しながら顔面の表情筋に到達します。
 
顔面神経

顔面神経は耳下腺の中を通り分枝しながら顔面の表情筋に到達します。

 

顔面神経の枝と各機能

上記の図の中に示しましたが、それぞれの枝が支配する筋肉によってその機能が異なります。
  • 側頭枝…眉毛挙上
  • 頬骨枝…眼瞼を閉じる
  • 頬筋枝…頬を挙上
  • 下顎縁枝…口を挙上
  • 頚枝…頚を挙上
 

顔面神経麻痺の分類……ベル麻痺・ライム病など

神経が障害される部位、原因により症状が異なります。

■中枢性顔面神経麻痺
大脳、脳幹に原因のある顔面神経麻痺で、脳梗塞、脳外科手術後などで発生します。

■末梢性顔面神経麻痺
大脳、脳幹以外の部位が原因となる顔面神経麻痺で、後述するベル麻痺、ラムゼイハント症候群、外傷などで発生します。

この二つの分類で大きく分かれますが、さらに病気の原因がはっきりしている具体的な病名がいくつかあります。

■ベル麻痺
原因不明の末梢性顔面神経麻痺で、側頭骨の中で顔面神経が障害される病気です。単純疱疹ウイルス(ヘルペス)感染との関連が疑われていますが、いまのところはっきりした原因は不明です。顔面神経麻痺の大部分を占める病気です。

■ラムゼイハント症候群
帯状疱疹の感染により、耳の近くの皮膚の水疱、顔面神経麻痺、耳痛、難聴、めまいなどの症状が生じる病気。皮膚の水疱が見つかればこの診断がつきますが、初期には水疱は生じません。ですので耳痛があればこの診断を常に疑います。

■中耳炎
中耳炎の炎症が側頭骨の中の顔面神経に波及すると顔面神経麻痺が発生します。

■ライム病
マダニに寄生するボレリアという細菌感染が、ダニに刺された後に生じる顔面神経麻痺の原因となることがあります。頻度として珍しい病態ですが、高熱、皮膚の遊走性紅斑が特徴です。

■脳梗塞
中枢性顔面神経麻痺の一番多い原因です。脳梗塞で顔面神経麻痺が発生したらすぐに救急車で、tPA治療(血栓を溶かす薬の治療)可能な病院に搬送する必要があります。

■脳腫瘍
神経鞘腫、血管腫、聴神経腫瘍、耳下腺腫瘍、転移性脳腫瘍などが顔面神経麻痺を起こす頻度の高い腫瘍です。

■脳外科手術後
手術に伴い顔面神経を切断する場合があります。可能であれば顔面神経再建を同時に行いますが、それば難しい場合術後に顔面神経を治療する手術の適応を考慮します。形成外科が担当します。

■側頭骨骨折
側頭骨骨折は高率に顔面神経麻痺を合併します。後述する神経伝達速度で大幅な異常があれば手術を考慮します。担当は脳外科、耳鼻科です。

■顔面外傷
骨折のない外傷でも顔面神経を切断したり、間接的に障害することがあります。特に直接神経を切断する可能性の高い刺創などでは顔面神経の評価を必ず行います。耳鼻科、形成外科で治療を行います。
 

顔面神経麻痺の症状……表情の麻痺の他、味覚障害、聴覚過敏も

一つは顔面の表情筋の麻痺です。
眉毛が下がり、挙上ができなくなります。眼瞼を閉じることができません。頬が下がり、鼻唇溝が浅くなります。口角がさがり、食べたり飲んだりした物がこぼれます。
眼瞼が閉じれなくなるため、結膜炎、角膜潰瘍、視力障害などの合併症が発生します。
筋肉の麻痺以外では、味覚障害、唾液の分泌障害、聴覚過敏、耳介の後ろの知覚麻痺があります。
 

顔面神経麻痺の検査法・診断法

■CT
CTはX線を使用して人体の断面写真を作成する医療用機器です。CTは費用は数千円程度と安いですが、少量の放射線被爆があります。骨折の診断には有用ですので重傷の外傷では必ず施行します。

■MRI
MRIは磁気を使用して人体の断面写真を作成する医療用機器です。被爆がないのが最大の特徴です。欠点は費用が約1万円程度と高額な点、狭い部屋に15分間ほど閉じ込められて、騒音が強いことです。脳外科の術後で体内に金属が残っている人、心臓ペースメーカー装着の人、閉所恐怖症の人などではMRI検査が無理なため、CTで検査を行います。
脳腫瘍、脳梗塞では必須の検査です。

■採血
ライム病ではボレリア菌に体する血中の抗体値を調べることにより確定診断がつくことがあります。帯状疱疹、単純疱疹でも抗体値の上昇により確定診断がつくことがあります。

■筋電図
まず知覚神経伝達速度を測定します。顔面神経が切断されている部位より中枢の顔面神経の速度とその部位より末梢の顔面神経の速度を比較して、末梢の速度が 低下していた場合、顔面神経麻痺と診断します。中枢の伝達速度が測定できない場合、反対側の顔面神経と比較します。また、筋力低下がある場合、障害のある筋肉の筋電 図に異常が出現します。
 

顔面神経麻痺の治療法・薬・手術・リハビリ

■まずは原因疾患がわかっている場合その治療を行います。
ライム病ではミノマイシンの内服をします。1錠51円で1日2回服用します。後発薬では1錠28.9円です。
帯状疱疹に対してはバルトレックスを内服をします。1錠436円で1日3回2錠ずつ使用します。後発薬は1錠242.2円です。
脳梗塞ではtPA治療を考慮します。

■ステロイド
神経や周辺の組織の炎症を抑えることにより神経の再生を促します。

■神経再生薬
メチコバール ビタミンB12…障害された神経の修復を促進させる作用を持ちます。1錠21.1円で1日3回服用します。後発薬では5.6円のものが複数あります。4週間の服用で64%の改善率があります。副作用ですが、食欲不振、悪心、嘔吐、下痢、発疹などがあります。

■神経縫合術
完全に切断された顔面神経の場合、神経を縫合する手術が必要なことがあります。3日以内に手術を完了することが理想ですが、いろいろな理由で後日に行われることもあります。

■顔面神経麻痺つり上げ手術
治療を数年行って改善のみられない顔面神経に対しては手術が必要な時があります。つり上げ手術と筋肉移植の2種類の手術があります。つり上げ手術は眼瞼、口角、眉毛などを手術で挙上する手術ですが、運動機能の獲得はありません。顔面以外の場所を手術しないこと、時間がかからないこと、年齢による差が少ないことがこの手術の利点です。担当は形成外科です。

■顔面神経麻痺筋肉移植術
顔面以外の部位の筋肉を顔面の表情筋の部位に移植して、健康側ないし患側の顔面神経とつなぐことにより完全に麻痺した顔面神経の機能の獲得を目標とします。筋肉としては広背筋、腹直筋などの筋肉が使用されます。手術時間が長いこと、入院が必要であることなどからあまり普及していませんが、今後この手術の増加が期待できます。

■顔面神経麻痺のリハビリ
進行した顔面神経麻痺では顔面の表情筋が萎縮してきます。衰える筋肉に対するリハビリが重要となります。通常はマイルドに筋肉を動かして、筋肉の萎縮を防ぎます。自宅でリハビリを続けることが可能です。初期のリハビリ訓練を専門家から受けることが薦められます。

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