宅地建物取引士(宅建)試験/宅建試験に合格するための勉強法

宅建に合格できない理由・暗記と理解の履き違い

法律学習の特徴は、暗記だけでなくその制度趣旨を理解することがとても重要です。制度趣旨を理解することで、暗記しなければならないものは半分以下に減ります。勉強のやりかたを間違えると、丸暗記が強いられることになり、合格できない要因となります。

田中 嵩二

執筆者:田中 嵩二

宅建試験ガイド

趣旨を理解せずに暗記している

間違えた学習風景

宅建に合格できない理由“暗記”と“理解”の履き違い

試験勉強=暗記

と思い込んでいる方もいると思います。たしかに、そういった側面もありますが、宅建試験のような法律に関する国家試験の場合は少し異なります。暗記だけで宅建試験に合格しようと思ったら膨大な量の正確な暗記が強いられることになり、超天才でない限り不可能となります。


膨大な量の出題範囲を暗記できますか?

まず、宅建試験に出題される法令の数をご存じでしょうか?

1.権利の変動に関する科目
この科目からは、民法、借地借家法、不動産登記法、建物の区分所有等に関する法律から出題されています。

2.法令上の制限に関する科目
この科目からは、都市計画法、建築基準法、土地区画整理法、国土利用計画法、農地法、宅地造成等規制法、その他数10個の法令法令(年々増え続けています)から出題されています。

3.価格の評定に関する科目
この科目からは、地価公示法、不動産鑑定評価基準から出題されています。

4.税に関する科目
この科目からは、租税特別措置法、所得税法、相続税法、登録免許税法、印紙税法、地方税法から出題されています。

5.宅地建物取引業法及び同法の関係法に関する科目
この科目からは、宅地建物取引業法、同法施行規則、同法施行令、その他関連する10個程度の法令から出題されています。

6.免除科目
この科目からは、不当景品類及び不当表示防止法とその関連規約等、独立行政法人住宅金融支援機構法とその関連法令などから出題されています。

7.判例
判例から出題されるのですが、これは数えきれません。毎年数百件の最高裁判例(最高裁判所が理由を示して判断した判決などのことをいいます)が生まれています。民法に関する判例は戦前のものも含み重要なものもあります。

ざっと、これだけの法令及び判例から出題されている宅建試験で、暗記だけで対応しようとするのは無謀でしょう。


【解決方法】
法律には必ず制度趣旨がある

法律は神様が作ったものでも、数万年前の人が作ったものでもありません。そのすべては人間が作り、古くても数百年前に作られたものです。

そもそもなぜ法律なんてものを作ったのでしょうか。

それは必要だからです。人がそれぞれの人生において幸福を追求できる世の中にするためには、他人の幸福追求を邪魔しないようにある程度我慢しなければなりません。その我慢の程度を文字にしたのが法律です。ですから、どんなに細かい法令でも、必ずそれを定めた目的があります。

たとえば、借地借家法という法律の31条には「建物の賃貸借は、その登記がなくても、建物の引渡しがあったときは、その後その建物について物権を取得した者に対し、その効力を生ずる。」と定められています。この条文を「なぜ?」という視点がなければ、たんに建物の賃貸借には登記がいらないというだけの意味になります。

この条文は、民法605条「不動産の賃貸借は、これを登記したときは、その後その不動産について物権を取得した者に対しても、その効力を生ずる。」という例外規定に対するさらなる例外を定めたものです。つまり、通常の債権(特定の人に対して一定の要求をする権利のこと)は誰にでも主張できるものではありません。たとえば、駅前のピザ屋に出前をお願いしておきながら、その隣の中華料理店に遅延についての苦情を言っても仕方ないですよね。このような契約から生まれる債権は、契約した者の間でしか主張できないのが原則です。

しかし、土地や建物の貸し借りの契約では、地主さんや大家さんが貸している土地や建物を他人に売ってしまった場合に、その新しい土地や建物の持ち主(所有者)に対して、契約した間柄ではないから、「貸せ」という債権を主張できませんということになったら、安心してその土地や建物で暮らすことができなくなります。だから、民法ではあえて不動産の賃借権についてだけ、債権だけれども登記(名義のこと)をしておけば、契約した相手以外にも自分が借りる権利があるということを
主張できるようにしています。

しかし、これも実社会では絵に描いた餅です。それは、200年以上前にできた民法は近代革命における自由主義と万民平等という思想が色濃く残っているからです。つまり、貸す側も借りる側も対等な立場で平等な権利をもつという思想が民法にはあります。不動産賃借権の登記も、この思想から、貸す側と借りる側の両方が納得の上、共同して登記しなければならないことになっています。これは、貸す側からすれば半永久的に立ち退かせることができない賃借権を作り出すことにもなるので、これに応ずる地主や大家さんはいないのが現実です。

そこで、経済的に不利な立場に立たされることが多い土地や建物の借り手側を特に保護するために借地借家法が作られ、賃借権の登記ではなく、たんに建物の「引渡」を受けているだけで、大家さん以外にも借りているという権利を主張できるようにしたわけです。

以上のようなことを制度趣旨と呼び、法律に魂を与えるとても重要な概念だったりします。こういった制度趣旨がわかれば、特に暗記しなければいけないと思わなくても自然とそれ以上のことが頭の中に残ります。また、判断が微妙な事例においても、「これは借り手側を保護するという趣旨だから」という発想で解答を導くことができるようになります。

※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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