糖尿病/糖尿病の経口薬・インスリン

経口薬では不十分!追加はインスリンかインクレチン?

経口血糖降下薬の増量や増剤では血糖コントロールの目標が達成できない2型糖尿病患者に、持効型の基礎インスリンを経口薬と併用する、いわゆるBOT(Basal supported Oral Therapy)が2007年頃から日本でも行われています。

執筆者:河合 勝幸

代表的な基礎インスリンの「トレシーバ」

代表的な基礎インスリンの「トレシーバ」

経口血糖降下薬の増量や増剤では血糖コントロールの目標が達成できない2型糖尿病患者に対し、持効型の基礎インスリンを経口薬と併用する、いわゆるBOT(Basal supported Oral Therapy)は、2007年頃から日本でも話題になりました。ただ、欧米の2型糖尿病のインスリンプログラムは、それより以前から早朝空腹時血糖値を管理目標として基礎インスリンを経口薬と併用するものでしたから、ことさら改めてBOTなどと言うこともなかったように記憶しています。

今日でも「BOT」を検索しても日本語の似たり寄ったりの記事はたくさんあるのに、外国語ではめぼしい論文にヒットしないのは、そのせいかも知れません(日本では「BOT療法」などと奇妙な言葉までありますが、TはTherapy(療法)ですから言葉の重複です)。

2型糖尿病の重症度の判定は?

通常は、2型糖尿病は治療開始の初診では、食事療法、運動療法、生活習慣改善に取り組み、段階的に薬物療法へと進みますが、インスリン治療の観点から判定すると2型糖尿病を4グループに分けることができます。

■マイルドな2型糖尿病
早朝空腹時血糖値が126mg./dl未満で、インスリン治療の対象にはなりません。

モデラート(中ぐらい)な2型糖尿病
早朝空腹時血糖値が126~200mg/dlの人です。もし、インスリン治療に入るのならBOT、つまり基礎インスリンだけで、まずは、うまく行きます。

■シビアな2型糖尿病
早朝空腹時血糖値が>200mg/dlの人で、多くの人は基礎インスリンと食事の時のボーラスインスリンが必要となります。

■特にシビアな2型糖尿病
糖毒状態のため食事に対してインスリン反応が殆んどない進行した2型糖尿病で、早朝空腹時血糖値は>250~300mg/dlと非常に高くなっています。インスリン治療は1型糖尿病に準じますが、通常はケトーシス(酸血症)の症状はありません。

以上のように、経口血糖降下薬と基礎インスリンの併用(BOT)は一般的にモデラートな2型糖尿病になります。

さらにBOTで早朝空腹時血糖値が120mg/dl以下とコントロールできているのに目標のA1Cがクリアできない2型糖尿病患者に、一日のメインの食事(食後血糖値が最も高くなる食事)に、超速効型インスリンを1回だけ追加することでA1Cが改善されたという発表もありました。これをBOT+(プラス)、あるいはBasal plus(ベーサル プラス)と言います。

ところで、インスリンの導入方法としては、このBOTBOT+以外にも、混合型(2相性)インスリンをメインの食事時に1日1回投与、あるいは1日2回投与、そして最終的には基礎(ベーサル)+ボーラスインスリンのマルチショットの選択肢がありますが、JDDM(糖尿病データマネージメント研究会)の報告によると、わが国では2型糖尿病者に対するインスリン療法は混合型インスリンの1日2回注射法が43%と、最も多く行われています。

ところがGLP-1受容体作動薬(商品名、ビクトーザ、バイエッタ、ビデュリオン、リキスミア、2014年3月現在)の登場で、経口血糖降下薬に併用する薬の選択肢が基礎インスリンだけでなく、もう一つ増えることになりました。

経口血糖降下薬と併用するのはインスリンか、インクレチンか?

代表的なGLP-1 RAの「ビクトーザ」

代表的なGLP-1 RAの「ビクトーザ」

結論を先に述べますと、経口薬とインスリンの併用は早朝空腹時血糖値を改善します。そしてインクレチン、特にGLP-1受容体作動薬との併用は食後の高血糖の上昇を抑えます。そうならば、素人考えでも経口血糖降下薬で目標A1Cが達成できなくなれば、基礎インスリンとGLP-1受容体作動薬を同時に併用すれば理想的ですね!

もちろん、研究者も製薬会社もそんなことは先刻ご承知で、いろいろな治験が行われています。更に基礎インスリンとGLP-1受容体作動薬を一つに混合した注射薬も開発中ですから2型糖尿病の治療は本当に容易になることでしょう。日本ではGLP-1受容体作動薬とインスリンとの併用はまだ認可されていませんが、すでにノボ ノルディスクのビクトーザが日本で全ての2型糖尿病薬(インスリンも含む)との併用を申請していますから、あまり待たなくでもこの夢の組み合わせは実現すると思います。経口血糖降下薬で血糖コントロールが不十分になったら、併用するのはインスリンかインクレチンか? ではなく、インスリンとインクレチンの時代が間もなく到来します。

インスリンとGLP-1受容体作動薬の特徴

インスリン(基礎インスリン)と、GLP-1受容体作動薬(以下GLP-1 RA)の特徴について、以下でまとめます。

■ 血中インスリン濃度の比較
  • 基礎インスリン:血糖値に応じない血糖降下作用で、空腹時血糖値低下により有効
  • GLP-1 RA:血糖値に応じたインスリン分泌促進作用で、食後血糖値低下により有効
  • 患者適性:食後高血糖が顕著な人はGLP-1 RA、早朝空腹時血糖値が高い人にはインスリン
■ HbA1cを下げる効果
  • インスリン:理論的には、いかなる目標も達成しうる
  • GLP-1 RA:いろいろな治験の結果では、HbA1c低下は1.0~1.9%
  • 患者適性:HbA1c 9.5%以上のようなコントロール不良の人には、おそらくインスリンの方が向く
■ 体重に与える影響
  • インスリン:太る(投与量、タイプによる)
  • GLP-1 RA:減量
  • 患者適性:肥満があり、減量が治療目的の一つならGLP-1 RA
■ 低血糖
  • インスリン:リスクあり。(インスリンのタイプ、投与量、血糖管理目標による)
  • GLP-1 RA:単独投与では発現リスクは極めて低い
  • 患者適性:低血糖を避けたい人にはGLP-1 RA
■ 副作用(低血糖を除く)
  • インスリン:なし
  • GLP-1 RA:吐き気、胃腸障害(下痢、便秘などが投与初期に認められる)
  • 患者適性:胃腸障害によってGLP-1 RAが適さない人もいる
■ 治療の容易さ
  • インスリン:投与量の調整と血糖自己測定が必要
  • GLP-1 RA:決められた投与量。血糖自己測定は不必要
  • 患者適性:インスリン投与の調整と血糖自己測定の認可を与えるのが難しい患者にはGLP-1 RA
■ コスト
  • 基礎インスリン:日本では高価だが、それでも相対的に安価
  • GLP-1 RA:高価
  • 患者適性:日本の医療制度の下では選択の余地がない
※ GLP-1 RAはGLP-1受容体(recepter)作動薬(agonists)のことです。

まとめ

インスリンとGLP-1 RAの併用は2型糖尿病の空腹時と食後の血糖値を安定させます。特にインスリン投与量を減らせることで高齢者の低血糖リスクを軽減し、更に減量を容易にするのですから、インスリン治療中の2型糖尿病者には願ってもないことです。早く実現しますように!
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