メンタルヘルス/死別・失恋・喪失感

余命宣告されたら……死を受け入れるまでの5段階

余命宣告をされたとき、平常心を保てる人は多くはないでしょう。人はいかにして人生の最終局面を迎えるのか? エリザベス・キューブラー=ロスの著名な説を紹介すると共に、死を受け入れるまでの心の5段階、人生の最終局面でも精神科的治療が時に重要になるケースについて、詳しく解説します。

中嶋 泰憲

執筆者:中嶋 泰憲

医師 / メンタルヘルスガイド

人生の最終局面でも大切な心の健康

人には寿命がある、それは今を充実させる原動力にもなるもの

人生に限りがある事は誰もが何かの折に意識する事ではないでしょうか? 限りある人生だからこそ、今を充実させる! これこそが、死を過剰に恐れずに済むポイントなのかも知れません

人も自然界の生き物である以上、生まれたからには、いつの日か命を終えるときが来るもの。

例えばある日、主治医からあなた自身の余命が限られていると知らされたとします。その時、いったいどのような心的反応が生じるものなのでしょうか? また、その際、精神医学的に問題となり得る心的反応とはいかなるものでしょうか?

今回は著名な精神科医であった米国人エリザベス・キューブラー=ロス(1926~2004)が提唱した「死の受容のプロセス」を紹介すると共に、人生の最終局面における心の健康について、皆さまに知って頂きたい事を詳しく解説します。

まさかの余命宣告…受け入れるまでに経る5段階

エリザベス・キューブラー=ロスは1969年、当時、ベストセラーとなった著作『On Death and Dying(邦訳タイトル:「死ぬ瞬間 死とその過程について」)』で、人は余命が限られていると知らされると、それを受け入れるまでに以下の5つの段階を経ると提唱しました。
  • 第1段階 ショックのあまり、事態を受け入れる事が困難な時期
  • 第2段階 「どうして自分がそんな目にあうのか?」と、心に強い怒りが込み上げる時期
  • 第3段階 事態を打開しようと必死になる時期
  • 第4段階 事態が改善しない事を悟り、気持ちがひどく落ち込む時期
  • 第5段階 事態をついに受け入れる時期
死を受け入れるまでの経過は、個人個人でかなり異なるものですが、上記の5段階を経ていく様子は、死に直面した癌患者さんのご家族などが、少なからず目にされるものだと思います。

しかし場合によっては、余命が限られている事を知らされた後も、どうしても順々に段階を経ることができず、心的反応が病的な状態になってしまう場合があります。例えば、第1段階から先に進めない場合もあり、そうした場合は事実を否定してくれる医師を求めて、病院を転々とし続けてしまったり、霊的なものや悪質なサービスに縋って、思いがけない被害にあってしまうケースもあります。

死への恐怖感には、それまでの発達課題の達成が影響する

余命宣告を受けることは大きなショックを伴うものですし、平常心を保つのはどんな人でも困難でしょう。場合によっては病的な心的反応が生じ、それが余命に影響を与えてしまうこともあります。

例えば、老年期になっても、余命宣告を受けてから死への恐怖感が過剰になりすぎてどうしても受け入れきれないような場合、それまでの発達段階との関連性も考えなければならないケースがあります。

人の心理社会的発達における8つの発達段階は、著名な発達心理学者であったエリク・エリクソンが提唱した理論ですが、60歳過ぎ以降の老年期は、人の心理社会的発達における最終ステージです。どの発達段階にも固有の発達課題があり、最終ステージである第8段階の発達課題は、「自分のそれまでの人生をしっかり受け入れる事」とされています。

実際、人は年輪を重ねるにつれ、過去に思いを巡らす事が多くなっていくもの。エリクソンによれば、もしも老年期にそれまでの自分の人生を振り返り、「あの時、ああしておけば、違う人生があったのではないか?」といったように、自分の人生を受け入れる事に苦しむ場合、それが死への恐怖を過剰にする原因になってしまう可能性があると言われています。

死に対する過度の絶望感はうつ病の可能性も……

自分の余命が限られていると知らされたら、一時的にせよかなりの絶望感を抱えるものでしょう。しかし、あまりに強すぎる絶望感が続く場合、うつ病に移行している可能性がある事は、余命宣告後という重たい場面であれ、余生をよりよいものにするためにも知っておきたいものです。人によっては絶望感に屈する事なく、何らかの希望、例えば、「孫が学校を卒業するまでは、何としても頑張りたい」といった事を闘病生活の心の支えにされる方もいらっしゃいます。

実際、希望を持つことは心の健康のためにもとても大切です。闘病生活の心の支えになるだけでなく、それ自体が余命にも影響することもあります。心の状態と体の生理機能は互いに影響しあうもので、良い精神状態は病気への抵抗力を高めると考えられています。先のような例でも、希望をもって闘病生活を頑張りぬき、お孫さんが学校を卒業するまで余命を伸ばされた方も、きっといらっしゃると思います。

反対に、生きる希望が全く見出せず、うつ病などの可能性が出てきてしまった場合は注意が必要です。余命宣告後であっても、病的な気持ちの落ち込みに対しては、抗うつ薬などによる精神科的治療が望ましいでしょう。病気治療と一緒にうつ病治療を受けることは闘病生活の質の向上につながるだけでなく、その方の余命自体も伸ばす可能性がある事は、患者さんにも、看病されているご家族の方にも、是非知っておいて頂きたい事です。

以上、今回は、余命が限られている事を知らされた後の、心的反応を主に解説しました。20代、30代の、まだまだ老年期まで時間が長い方には、自分には関係ない話に聞こえたかもしれませんね。でも、人生に限りがある事を認識する事は、今ある人生を充実させる原動力になるものです。また、その充実感こそが、歳月を経ていつか老年期に入った時、健康的な心で自分の人生を受け入れる事にもつながっていくでしょう。

最後に繰り返しますが、自分自身の死という人生の最終局面を迎えるような段階であっても、時に精神科的な治療を受けることが望ましいケースがある事を、どうか皆さま、頭の片隅に置いておいて下さい。
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