糖尿病/糖尿病の合併症(痛み・冷え・足の異常等)

糖尿病の末梢動脈疾患…危険な足の冷え・痛み・しびれ

2月10日は『フットケアの日』です。「足が冷めたいのは寒いから? 足が痛いのは年だから?」というドキッとするタイトルで、今年2014年も足を守るプレスセミナーが開かれました。末梢動脈疾患(PAD)の症状、危険因子、糖尿病患者における特徴について、押さえておきましょう。

執筆者:河合 勝幸

足指とかかとが残れば普通の生活ができます。医師の選択が死命を制します

足指とかかとが残れば普通の生活ができます。医師の選択が死命を制します

2月10日は『フットケアの日』。今年2014年は、「足が冷めたいのは寒いから? 足が痛いのは年だから?」というドキッとするタイトルで、足を守るプレスセミナーが開かれました。

日本フットケア学会、日本下肢救済・足病学会、日本メドトロニック株式会社の共同主催で、講演者は横井宏佳・国際医療福祉大学教授と寺師浩人・神戸大学形成外科教授でした。横井先生は循環器内科、寺師先生は皮膚の形成外科の専門医ですから、話は自ずと下肢を大切断から救うための「血行再建」になりました。

糖尿病の足病変の原因は「治せる!足のきず 2月10日はフットケアの日」で紹介したように、足潰瘍患者の約50%が末梢神経障害によるもの、約20%が血流障害、残りの約30%が末梢神経障害と血流障害を併せ持つ患者と考えられています。動脈硬化は糖尿病がなくても起こりますから、私達の関心はとかく神経障害に向きがちですが、実は糖尿病患者は特に膝下のアテローム性動脈硬化が多くなるという傾向があるのです。血流がとだえると足の組織が死に、感染症で足の切断につながりかねません。改めて糖尿病性血管障害に注目しましょう。当セミナーは糖尿病の足に的を絞ったものではありませんから、ここでは糖尿病の末梢動脈疾患の話として説明します。よって文責は当ガイドにあることをご了承ください。

末梢動脈疾患(PAD)の症状

糖尿病患者の足の小さな傷が治らなくなる糖尿病足潰瘍の原因は3つあります。

  1. 末梢神経障害(自律神経、運動神経、知覚神経)
  2. 末梢血管障害(PVD)
  3. 感染症に弱い

これらは相互に因果関係があり、1の末梢神経障害があると2の末梢血管障害の訴えが後述のようにあいまいになることがあります。これによって担当医の判断が遅れる可能性がありますから注意しましょう。

■ 末梢動脈疾患の症状の進行

フォンテイン(Fontaine)分類

  • 1度……足が冷めたい、しびれる、蒼白(色調)
  • 2度……間欠性跛行(かんけつせいはこう)。少し歩くと痛みのため歩けなくなりますが、休むと痛みが消える
  • 3度……安静時、就寝時にも痛い
  • 4度……足の傷が治らない(潰瘍)、組織欠損、炎症が骨にも感染すると足の切断へ
  •  
足の動脈が狭くなったり、詰ったりすると支障が出る間欠性跛行が大きな特徴で、200m以上の歩行で跛行が起こると2a、200m未満の歩行で跛行が起こると2bとなり、これは中等度から重度の跛行ですから精密な血管検査が必要となります。痛みは上り坂や階段、速いペースで歩くと早まります。糖尿病神経障害のある人は通常の強い筋肉痛の訴えではなく、しびれや無感覚、足が重くて歩けない、などという表現をすることがあります。高齢で日頃あまり歩かなくなったりすれば年のせいだと誰でも思いますし、糖尿病による視力低下や神経障害がありますとますます歩かなくなって早期発見が困難になり、治らない傷ができて初めて分かり、切断リスクに突然直面することになります。

歩行の痛みは脊柱管狭窄症や椎間板症、関節炎、糖尿病神経障害そのもの等、いろいろな他疾患と区別しなくてはなりませんが、専門医は自分の専門以外のアドバイスをなかなかしてくれないので患者が大変苦労することになります。みなさんも日本では足治療の中心になってくれる医師が不在なことに気付く日があるかも知れません。わが国は足病の後進国なのです。

さて、間欠性跛行は直ちに下肢を失うことを意味していませんから勇気を持ってください。早期発見して治療に取り組めば、米国のデータでは診断治療の進歩で10~15%の患者のみが切断のような重症化に進むとされています。糖尿病なのにタバコを止められない人は特に進行が速いようですからご注意! また、安静時や就寝時の足の痛みは糖尿病神経障害でも末梢動脈疾患でも起りますが、ベッドから足を下ろしたり、激痛を我慢して立ち上がる、少し歩くと痛みが軽くなるような時はこの末梢動脈疾患の可能性が高くなります。医師に詳しく説明しましょう。

何が糖尿病患者を末梢動脈疾患の高リスクにするのか

糖尿病は全身の血管がダメージを受ける病気ですから当然動脈疾患のリスクが高くなります。米国のデータでは糖尿病患者は一般の人と比べると末梢動脈疾患のリスクが20倍も高くなります。

■末梢動脈疾患の危険因子
  • 男性(糖尿病の女性は同等のリスク)
  • 高齢(必ずしも高齢とは限りませんが)
  • 糖尿病(特に血糖コントロール)
  • 喫煙
  • 高血圧
  • 脂質異常症
  • 高ホモシステイン血症
  • 高CRP(アテローム性動脈硬化症の炎症マーカー)
  • 腎不全(糖尿病の有無にかかわらず)
  • 運動不足
  • 悪い栄養状態

糖尿病患者における末梢動脈疾患の特長

糖尿病患者はアテローム性(粥状)動脈硬化が膝から足までの動脈(前脛骨・後脛骨・腓骨)にできやすい傾向があります。ですから医師の膝窩動脈の脈拍検知だけでは不十分です。患者自身もそのことを知っておきましょう。

第2の特徴は血管石灰化(カルシウム沈着)が多いことです。これは血流をブロックすることはありませんが、血管が硬く柔軟さがなく、ABI検査(足関節・上腕血圧比)で血管を十分に圧迫できないことがあるので誤って計測値が高く(正常値に)表示される可能性があります。足背動脈の拍動触診をして脈が触れても安心はできません。血液の流れが落ちていることがあります。同様に透析患者も血管石灰化が多いので、透析患者のABIの正常値は通常よりもやや高い1.02-1.42が妥当とされていますから、疑問があれば糖尿病担当医に相談することです。

循環器内科や血管外科の専門医は、血管石灰化の影響を受けない足趾血圧や皮膚還流圧(皮膚の下1mm位のところにも血液が流れているのでその血液の圧力を測る)、経皮酸素分圧などで足の血流の精密な検査をすることができます。

動脈が詰っても痛みに耐えて運動を続けることで、努力すればブロックをう回するバイパス血管ができて歩けるものですが、糖尿病患者はこれが難しく、足の動脈が狭くなったり詰まったりすることが劇的に起こる傾向があるようです。また、足の動静脈シャント(短絡)が起きて末梢血流減少が起きます。急に足の背が温かくなって赤くなったらとても危険な状態です。

さて、次回「糖尿病の末梢動脈疾患の治療法」では、末梢動脈疾患の診断や治療について、患者が心得ておきたいことを解説します。
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