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ジャンルの意義を高めた「毒入りチョコレート事件」

本書『毒入りチョコレート事件』は、ミステリという小説のジャンルを考えるときに、大変大きな意義を持つ作品です。

投稿記事

■作品名 毒入りチョコレート事件
■作家名 アントニイ・バークリー
■おすすめポイント・読みどころ
本書『毒入りチョコレート事件』は、ミステリという小説のジャンルを考えるときに、大変大きな意義を持つ作品です。

ある日、プレイボーイ、趣味人として名を馳せたユーステス卿に宛てて、新製品の試食をしてほしい、とチョコレートが送られてきます。卿はそのような下品なことはしないと、実業家のベンディックス氏にあげてしまうのですが、そのチョコには実はニトロベンゼンが混入しており、一緒にチョコを食べたベンディックス夫人は死亡、ベンディックス氏も重体となってしまいます。そしてこの事件が、捜査担当の刑事と面識のあった、犯罪研究会を主催するシェリンガム氏の元へと持ち込まれたところ、その犯罪研究会のメンバーで事件を検討し、その成果を一日に一人ずつ、六日間かけて発表しよう、ということになったのです。

一日に一人ずつだと、明らかに最後に発表する人が有利じゃないか、という突っ込みもあるのですが、まあその辺は置いておくとして、約300ページあるこの作品のおおよそ八割方が、この推理合戦に費やされています。この分量もすごいのですが、なによりも、六つの回答それぞれが、(特に最後に近づけば近づくほど)説得力を持っていることに驚かされます。

もちろんそうでなくては探偵小説としての体をなさないのですが、ひとつひとつが独立した作品になりうるほどのものを、これだけ詰め込んでくるのには本当に驚かされますし、しかもそれぞれが、直前の人の推理をきちんと踏襲し、論破した上で推理されている、というのもまた素晴らしいです。

そして最後の最後に、おお、なるほど、ときちんと落ち着けさせてくれるこの気持ちよさ。これぞ「パズラー=本格推理小説」の快感です。

推理の精緻さを極めることで、王道の名探偵小説へ挑戦し、そのジャンルの意義を一段階高めた、記念碑的な作品でしょう。ミステリを読む上で絶対に避けては通れない、大傑作です。
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