不動産売買の法律・制度/宅地建物取引業法詳説

宅地建物取引業法詳説 〔売買編〕 -21-

宅地建物取引業法のなかから「一般消費者も知っておいたほうがよいこと」などをピックアップして、順に詳しく解説するシリーズ。第21回は「損害賠償額の予定等の制限」について。

執筆者:平野 雅之


宅地建物取引業法詳説〔売買編〕の第21回は、第38条(損害賠償額の予定等の制限)についてみていくことにしましょう。

 (損害賠償額の予定等の制限)
第38条  宅地建物取引業者がみずから売主となる宅地又は建物の売買契約において、当事者の債務の不履行を理由とする契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定めるときは、これらを合算した額が代金の額の十分の二をこえることとなる定めをしてはならない。
 前項の規定に反する特約は、代金の額の十分の二をこえる部分について、無効とする。

損害賠償額の予定とは?

第38条では「損害賠償額」と「違約金」に関する制限を定めていますが、損害賠償額とは契約の相手方に債務不履行があったときに、それによって生じた損害の補償を受けるためのものであり、違約金とは債務不履行をした者に対する経済的制裁として没収する「違約罰」の性格をもつものです。

法的な意味合いは少し異なりますが、不動産の取引にあたっては「損害賠償額」も「違約金」も、ほぼ同じものと考えて差し支えありません。

この損害賠償額の予定または違約金の定めをしなかったとき、契約の相手方に債務不履行があれば、それによって生じた損害を立証したうえで、相手方に対して損害賠償の請求をすることになります。しかし、債務不履行による被害を受けた側に立証責任を負わせることは、非常に手間がかかり困難なばかりでなく、ときには酷な事態ともなりかねません。

そのため実際の不動産売買契約では、あらかじめ損害賠償額の予定または違約金の定めを契約書のなかに盛り込んでおくケースが多くなっています。

この損害賠償額の予定または違約金の定めの特約があれば、契約の相手方に債務不履行があったときに、実際に生じた損害の額を立証することなく、定められた損害賠償額を請求あるいは没収することができます。ただし、予定額以上の損害が生じたとしても損害賠償額または違約金の増額を求めることができません。

逆に債務不履行をした側は、実際は相手に損害がまったく生じていないことを立証したとしても、予定された損害賠償額の支払いなどを拒むことができません。

損害賠償額は売買代金の20%以内で

あらかじめ損害賠償額の予定または違約金の定めをしておくことは、売主と買主がともに個人の場合でも広く行なわれていますが、売主が宅地建物取引業者の場合における上限額を定めたのが第38条の規定です。

宅地建物取引業者が売主となる売買契約では、損害賠償額の予定または違約金の合計額が売買代金の20%を超えてはならないことになっています。

20%を超える特約は無効となりますが、たとえば「損害賠償額の予定は売買代金の30%」と定めた場合に、無効となるのは20%を超える部分であり、20%までは引き続き有効とされます。わざわざそんな定めをする宅地建物取引業者はいないと思いますが…。

なお、この場合における「売買代金」には消費税(および地方消費税)が含まれます。たとえば売買総額が4,100万円(土地価額2,000万円、建物価額2,000万円、消費税額100万円)の場合における損害賠償額の予定等の上限額は820万円となります。

債務不履行をしないことが重要

第38条の規定は宅地建物取引業者間の取引には適用されませんから、売主と買主がともに業者であれば損害賠償額の予定等を売買代金の50%とすることも有効。社会通念上の問題は別として、宅地建物取引業法で規制されることはありません。

それと同時に、売主が個人の場合にも第38条の適用はありませんが、20%を超える定めがなされることはほとんどなく、実際には売買代金の10%もしくは20%とされるケースが大半です。

もし仮に、売主が個人(または宅地建物取引業者ではない法人)の場合に損害賠償額の予定等が売買代金の30%、40%などとなっていれば、その裏に何らかの意図を感じざるを得ませんから、十分に気をつけるべきでしょう。もっとも、地方の山間部の物件などで数万円、十数万円といった取引の場合には何ともいえませんが…。

いずれにしても大事なのは債務不履行をしないことです。あらかじめ債務不履行をするつもりで売買契約をする人などはいないはずですけどね。

売買契約締結後に不測の事態に直面したとき、通常は契約後の一定期間内であれば買主は手付放棄、売主は手付倍返しによって契約を解除することができます。この手付解除期間を過ぎてから契約を解除しようとすれば損害賠償や違約金の対象となるわけです。

手付解除との違いやその有効期間など、売買契約書に署名押印をする前によく理解しておきたいものです。

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