ミュージカル/注目のミュージカルレビュー・開幕レポート

2014年1~2月の注目!ミュージカル

14年の「初芝居」、何をご覧になりますか?新春の舞台から、今回は『KACHI BUS』『滝廉太郎の友人、と知人とその他の諸々』『クザリアーナの翼』『シャーロック ホームズ~アンダーソン家の秘密~』『思い出を売る男』『グロリアス・ワンズ』『もっと泣いてよフラッパー』『壁抜け男』をご紹介します。開幕後は順次「観劇レポート」も追記更新しますのでお楽しみに!

松島 まり乃

執筆者:松島 まり乃

ミュージカルガイド

バレンタインデー・デートにぴったりの作品は?

2014年、新たな一年は皆さんにとって、どんな一年になるでしょうか。心に残る素敵な舞台に、たくさん出会えるようにと願いつつ、まずは1~2月の上演ミュージカルをチェックしてみましょう。バレンタインデー・デートにぴったりな、お洒落な作品も登場しますよ!

1月開幕作品
『滝廉太郎の友人、と知人とその他の諸々』
『KACHI BUS』
『クザリアーナの翼』
『シャーロック ホームズ~アンダーソン家の秘密~』
『思い出を売る男』
『グロリアス・ワンズ』
『フル・モンティ』

2月開幕作品
『もっと泣いてよフラッパー』
『壁抜け男』

AllAboutミュージカルで特集した作品
『ザ・ビューティフル・ゲーム』2014年1月31日~2月11日 出演:谷口ゆうなさんに「気になる新星」でインタビューしました!

Pick of the Month 『滝廉太郎の友人、と知人とその他の諸々

(2014年1月9~11日=草月ホール)
『滝廉太郎の友人、と知人とその他の諸々』和音美桜、鯨井康介、原田優一、佐野瑞樹undefined(C)ショウビズundefined撮影:石塚康之

『滝廉太郎の友人、と知人とその他の諸々』和音美桜、鯨井康介、原田優一、佐野瑞樹 (C)ショウビズ 撮影:石塚康之

【見どころ】
「ふるさと」「朧月夜」といった文部省唱歌が“作者不詳”であるのはなぜか。この謎に注目した劇団キリンバズウカ主宰の登米裕一さんが、史実とフィクションを巧みに織り交ぜて書き下ろした音楽劇が本作です。『レ・ミゼラブル』が記憶に新しい原田優一さんと和音美桜さん、『テニスの王子様』等で知られる鯨井康介さんが、東京音楽学校を経て日本の新しい音楽を作っていこうとする若き音楽家たち役を熱演。コメディとして進行しながら、最後の1ページで男の友情に胸熱くなる台本がどう立体化されるか。誰もが知っている文部省唱歌に加え、実はこちらのほうがオリジナルだという「雪やこんこん」の別バージョンなども、和音さん、原田さんの歌声で存分に楽しめそうです。

稽古風景 (C) Marino Matsushima

稽古風景 (C) Marino Matsushima

【稽古場レポート】
本番も間近なこの日、稽古は通し稽古をいったん離れて「ディテールの確認」「1.5倍速稽古(体にすっかり入っている箇所、入っていない箇所がチェックできるそうです)」「インタビュー形式での役の掘り下げ」という形で展開。今回演出も兼ねる登米さんは滝廉太郎(鯨井康介さん)、同窓の岡野貞一(原田優一さん)の何気ない会話を二通りで演じてもらい、鯨井さん、原田さんに「役としてはどっちがやりやすい?」と投げかけるなど、細やかにキャストに“役”を行き渡らせています。滝と岡野がヴァイオリンを学ぶ幸田幸(和音美桜さん)に歌作りの過程を披露する場面などで、原田さん、和音さんの柔らかな美声もふんだんに登場。カーテンコールでは急きょ全員での歌唱を試みることになりましたが、人数分には足りない歌詞カードを歌の間、ずっと隣の人がよく見えるよう捧げ持っていた原田さん、紳士です! 滝廉太郎の秘密が明らかになるきっかけを作る文部省役人役の佐野瑞樹さんも当意即妙の発言で場を盛り上げ、稽古場は終始和やか。登米さんも「『レ・ミゼラブル』のように、主人公だけでなく誰の立場で観ても楽しんでいただけるよう作っています。キャストのバランスも良く、いい物語に締まって来ています」と手ごたえを語る舞台、開幕はもうすぐです!

カーテンコールより。(C)ショウビズundefined撮影:石塚康之

カーテンコールより。(C)ショウビズ 撮影:石塚康之

【観劇ミニ・レポ】
周囲から期待され、国費で送り出された留学先で、残酷にも自分が(当時の)不治の病に侵されていることを知る滝廉太郎。演じる鯨井康介さんは、やり場のない無念を爆発させるシーンで、滝が憑依したかというほど気持ちのこもった演技を見せます。友人、岡野役の原田優一さんも、お調子者のようでいて芯の通った人物を的確に表現。彼が滝にある提案をし、二人でピアノに向かうラストは、絶望ではなくあたたかな希望に包まれます。清々しい青春ドラマでもあり、また「生きている間に、人間は世に何を残せるのか」を原田さん、和音さんの美しい歌声の余韻の中で考えさせる本作、再演も検討されているそうです。これほど鼻水をすする音が客席のあちこちから聞こえてきた舞台も珍しいほど、観客の涙腺を刺激していた舞台。今回見逃したかたはぜひ、次の機会にご覧ください。


KACHI BUS

(2014年1月5~13日=本多劇場、2月12日=札幌市民ホール、2月14~15日=帯広市民文化ホール)

『KACHI BUS』

『KACHI BUS』

【見どころ】
北海道・十勝の倒産寸前のバス会社を再生させた一人の男。実話をもとに、ふるさと再生のため奔走する人々の絆を描く新作ミュージカル。脚本・作詞・作曲をまきりかさん、演出を北澤秀人さんが担当。TEAM NACSの森崎博之さん(東川町出身)、川村ゆきえさん(小樽市出身)、阿知波悟美さん(今金町出身)、小野寺昭さん(,帯広市出身)ら、北海道出身者が大方を占めるキャスティングも話題です。年始にふさわしい、希望に満ちた物語が、心をほっこりあたためてくれそうです。

【観劇ミニ・レポ】
『KACHI BUS』森崎博之undefined写真提供:アトリエダンカン

『KACHI BUS』森崎博之 写真提供:アトリエダンカン

始めは社員と対立してばかりだった新人社長の主人公(森崎博之さん)。友人(今拓哉さん)にドラッカー理論を教えられ、社員に愛情を持って接し始めると、流れる空気がみるみる変わり、劇的な変化が訪れます。皆に励まされながら若い運転手(青柳塁斗さん)が、「安全の歌」(彼のお年寄りへの優しさが滲む車内アナウンスを歌にした面白ソング)を作ってゆく過程は、笑いとわくわく感いっぱいのクライマックス。舞台から直球で投げられた「成功のヒントは人と人とのコミュニケーションの中にある」というメッセージは、ビジネスだけでなく、サークルでも学校でも、人間社会に生きる私たち誰もが応用可能とあって、最後には観客の誰しもが「よし!頑張ろう!」という気持ちになっていたようです。ミュージカル初出演の森崎さんが「ミュージカル(の観客)ってこんなに帰らないものなんですか?」と何度目かのカーテンコールで驚いていたほど、いつまでも熱く続いた拍手がそれを物語っていました。出演者全員が役によくはまり、好演。本編でも歌が始まるたびに自然に手拍子が起こり、東京でこれだけならば物語の舞台・北海道での公演はどれほどの盛り上がりになるのか?!現地に飛んで行きたい誘惑に駆られました。


クザリアーナの翼

(2014年1月8日~2月20日=東京・赤坂ACTシアター、以降3月31日まで名古屋、福岡、大阪を巡演)

『クザリアーナの翼』

『クザリアーナの翼』

【見どころ】
人気俳優・岸谷五朗さん、寺脇康文さんが主宰し、歌やダンス、アクションをふんだんに盛り込んだオリジナル作品を上演するユニット、地球ゴージャス。毎回多彩なキャストが集結するのが特色ですが、第13弾となる今回も、中村雅俊さん、風間俊介さん、山本裕典さん、佐藤江梨子さん、宮澤佐江さん、湖月わたるさんらが参戦し、4階級に分かれた架空の帝国ジャメーリアが舞台の、愛と革命の物語を演じます。内容的に、今回は岸谷さん、寺脇さんのキレキレのアクションも見どころになりそう。岸谷さんが「稽古場の団結力はものすごい」と誇るカンパニーが、本番では熱いエネルギーで客席を包んでくれそうです。

【観劇ミニ・レポ】
『クザリアーナの翼』より中村雅俊、湖月わたる、宮澤佐江、寺脇康文undefined写真提供:る・ひまわり

『クザリアーナの翼』より中村雅俊、湖月わたる、宮澤佐江、寺脇康文 写真提供:る・ひまわり

小学生の男の子から団塊世代とおぼしきカップルまで、場内には幅広い世代がぎっしり。地球ゴージャスが培ってきた20年の歴史が感じられます。実在する独裁国家のマスゲームを思わせる、不気味な軍人たちのムーヴメントで幕を開ける舞台ですが、以降はあくまで「エンターテインメント」として展開。笑いや歌、ダンス(作品の“祈り”を凝縮したような、幕切れに一同が一瞬見せる鳥のポーズが効果的。振付・藤林美沙さん、SHUNさん)をふんだんに織り込む、地球ゴージャスのなせる業です。両性具有的な元帥など二役をこなす湖月わたるさんら、出演者はそれぞれ存分に個性を発揮していますが、やはり見逃せないのは岸谷さん、寺脇康文さん演じる「おやじコンビ」。二人の息ぴったりのギャグが緊迫した場面を和ませ、ダンスシーンではアラフィフとは到底思えないキレの良さに目を見張らされます。なにより客席にびんびん伝わってくる、お二人の気迫漲る「本気」の演技!これこそが地球ゴージャスの肝であり、団塊世代のお父さんたちも唸らせているのだと、納得のいく舞台です。

シャーロック ホームズ~アンダーソン家の秘密~

(2014年1月17~19日=サンケイホールブリーゼ、1月22日~2月4日=東京芸術劇場プレイハウス、2月8日=キャナルシティ劇場、2月11日=まつもと市民芸術館主ホール、2月13日=愛知県芸術劇場大ホール、2月25日=イズミティ21大ホール、2月27日=岩手県民会館大ホール)

『シャーロック・ホームズ~アンダーソン家の秘密』

『シャーロック ホームズ~アンダーソン家の秘密』

【見どころ】
世界で最も有名な探偵ことシャーロック・ホームズが2011年、韓国でミュージカル化。現地のミュージカル賞を数々獲得し、この度日本に上陸します。ホームズ役に橋本さとしさん、原作では男性であるホームズの右腕、ワトソン役に一路真輝さん、物語のキー・マンであるアンダーソン役に浦井健治さん、ヒロインのルーシー役に昆夏美さんという充実のキャスティング。謎解きとロマンスがどうミュージカルで表現されるか、興味の尽きない日本初演です!

【観劇ミニ・レポ】
『シャーロック ホームズ~アンダーソン家の謎~』撮影:須佐一心

『シャーロック ホームズ~アンダーソン家の秘密~』撮影:須佐一心

人は愛のためにどこまでわが身を捧げることが出来るのか。そして愛する者のためなら、人の道を外れることさえ出来るのか……。同じく韓国発のミュージカル『ジャック・ザ・リッパー』のテーマでもあった“究極の愛”が、本作の事件のカギ。3時間近い長尺の舞台ですが、タンゴ風、ジャズ風とバラエティに富んだ音楽(作曲・チェ・ジョンユン)とキャストの熱い演技に引き込まれます。キーマンを演じる浦井健治さんは役の心を見失うことなく、『ジキル&ハイド』ばりの早変わり(?)ソングなど、数々の難度E要素に果敢に挑戦。いっぽう橋本さとしさん演じるシャーロック・ホームズは、難事件を解くことに快感を覚える“趣味人”ながら、今回の事件に巻き込まれるうち、正義を追求することが果たして人間の幸福に繋がるのかと煩悶。それまでワトソンとのコミカルなやりとりで度々笑いをとっていたホームズが、ぐんと骨太の人物に見え、(かつて『レ・ミゼラブル』のジャン・バルジャンも演じた)橋本さんの起用に納得がゆく瞬間です。ホームズにほのかな恋心を抱きつつ、優秀な助手ぶりを発揮するワトソン役、一路真輝さんもほどよいハンサムウーマンぶりで、橋本ホームズとの相性も抜群。本国ソウルでは今年3月に続編が上演されるそうで、「日本版はいつ?」と、早くも気になってしまうほどの名コンビの誕生です。


思い出を売る男

(2014年1月19日~2月2日=自由劇場)

『思い出を売る男』撮影:上原タカシ

『思い出を売る男』撮影:上原タカシ

【見どころ】
戦後の焼け跡に現れた一人の男。「思い出を売ります」というその男は、娼婦やGIの青年ら、それぞれ事情を抱えた人々に、ほんのひととき幸福な思い出を見せてゆく……。童話的、寓話的な余白のある加藤道夫の珠玉の戯曲を、劇団四季が舞台化。分類的にはストレートプレイ(台詞劇)になりますが、サックスの優しい音色と、林光が作曲した郷愁溢れる主題歌等の音楽が大きな存在感を持ち、登場人物たち、そして観客の心を癒します。いつまでも大切にしたくなる、宝石箱のような作品です。

【観劇ミニ・レポート】
終戦間もない都会の場末で、登場するのは悲惨な境遇の人物ばかり。それにもかかわらず場内を包み込む空気は、久しぶりに童話を読んだ後のように懐かしく、甘やかです。再演を重ね、「思い出を売る男」役の田邊真也さんの清々しい口跡には磨きがかかり、この清廉な人物自身にはどんな思い出(過去)があるのだろう、と興味を抱かせます。日下武史さんのいぶし銀の口跡にも深い味わいがあり、ふらりと通りかかった気のいいGI役・佐久間仁さんとその恋人役・観月さらさんが幻想の中でデュエットする「金髪のジェニー」も、美しく耳に残ります。


グロリアス・ワンズ

(2014年1月22日~28日=あうるすぽっと)

『グロリアス・ワンズ』

『グロリアス・ワンズ』

【見どころ】
時は16世紀。フラミニオ率いるイタリアの即興仮面劇、コメディア・デラルテの一座は、今日も広場に掛けられた舞台の上で、風刺に富んだ笑劇を演じています。二枚目に老優、お色気女優と個性豊かな一座の面々とともに、フラミニオは時代の変化に立ち向かいますが……。トニー賞受賞作『ラグライム』やアニメ映画『アナスタシア』で知られるリン・アーリンズ&スティーヴン・フラハーティによる2007年のミュージカルの、日本初演。今井清隆さん、泉見洋平さんら実力派キャストが、近代演劇の原点の一つでもあるコメディア・デラルテの世界を借りて、芝居の真髄を見せてくれそう。家族も作らず演劇に人生を捧げてきた主人公が“永遠に消えない何かを残したい”と歌う「I was here(私はここにいた)」は、実に味わい深い主題歌です。

【観劇ミニ・レポ】
グロリアス・ワンズ』写真提供:タチ・ワールド

『グロリアス・ワンズ』写真提供:タチ・ワールド

恵まれない境遇をものともせず役者として身をたて、一座を率いるフラミニオ。しかし大物のパトロンを得る絶好の機会を、場にそぐわない演目でふいにし、世の移ろいとともに彼らの芝居そのものも人気が低下。さらには若手俳優に自分の老いを思い知らされ、彼は突拍子もない行動に出ます。その述懐となるのが「見どころ」でも言及したナンバー「I was here」。人生の意味を追求する彼の叫びが凝縮されたこのナンバーを聞いていると、必ずしも思うようには運ばない人生という、普遍的なテーマが浮かび上がり、胸を突きます。それだけに座員たちが天国で、かつて命を捧げた喜劇の「その後」を知るエピローグにはほっとさせられます。フラミニオをこよなく愛する元娼婦役・杉村理加さん、二枚目役・泉見洋平さん、清純なお嬢様役・紫城るいさんら、キャラクターを的確に体現するキャストが揃い、安心して観ていられる舞台ですが、やはり見逃せないのは今井さんが万感の思いを込めて歌う前述のナンバー。この一曲を聞くためだけでも、足を運ぶ価値があります。

*次ページで『フル・モンティ』『もっと泣いてよフラッパー』『壁抜け男』をご紹介します!
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