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ジャズワルツの名曲を聴こう!一年の初めに聴きたい名曲ベスト3

今回はジャズワルツに注目し、名曲を紹介します。音楽の都ウイーンで行われるニューイヤーコンサートでは、「美しく青きドナウ」など定番のワルツは勿論ですが、ジャズワルツも演奏されます。ジャズにもワルツ(三拍子)の曲は多く、名演も少なくありません。

大須賀 進

執筆者:大須賀 進

ジャズガイド

ジャズワルツの名曲を聴こう!一年の初めに聴きたい名曲ベスト3

ジャズワルツの名曲

新年を迎えると、音楽の都といわれるウイーンでは、必ず行われるコンサートがあります。ウイーンが世界に誇るウイーン・フィルハーモニー管弦楽団により毎年一月一日に行われる「ニューイヤーコンサート」です。

それぞれ「ワルツの父」 「ワルツ王」と称される「ヨハン・シュトラウス一世」 「ヨハン・シュトラウス二世」親子と親族の曲を中心に、ウイーンといえばワルツといわれるほどの代表的な曲を演奏しています。

ワルツは、三拍子なので、四拍子(4ビート)が基本のジャズには相容れないかと思いきや、実はジャズにもワルツの名演は数多く存在します。今回は、新年を迎えて聴きたいワルツのジャズ(JAZZ)をベスト3の第三位からご紹介いたします。
 

第三位:サックス奏者ジョン・コルトレーン「マイ・フェバリット・シングス」

ジャズワルツの名曲を聴こう!一年の初めに聴きたい名曲ベスト3

マイ・フェイヴァリット・シングス

ピアノのマッコイ・タイナーによる印象的なイントロからジョン・コルトレーンが奏で始めるメロディは、どこかアラビアや中近東のサウンドのような不思議な旋律です。

このオリエンタルな曲調の曲が、1959年のミュージカル「サウンド・オブ・ミュージック」の挿入歌だとはすぐには思いつきません。ジョンがここで使ったサックスはソプラノサックス。それまでほとんどテナーサックスを用いていたジョンが初めてソプラノサックスを使った曲です。

現在のジャズ界においては、スムース・ジャズのケニーGなどに代表されるように、ソプラノサックスはメロー&ソフトにテーマを奏でる代表のように思われています。

ところが、モダンジャズを代表するサックス奏者のジョンの手にかかると、なんともハードな楽器のイメージになってしまいます。そのバリバリ鳴らしたソプラノより流れ出てくるサウンドはやはり鮮烈です。

例えるならまるで、元旦の洋上に浮かぶ朝日のよう。清々しく身が引き締まるような峻厳さに満ちています。その朝日を浴びてオレンジ色に照り返す海のように神秘的で深いソロをとるピアノのマッコイ・タイナー。濃いダークな音色のベース、スティーブ・デイヴィス。さざ波のようにサウンドを支えるドラムのエルヴィン・ジョーンズら、ジョンを支えるメンバーも充実。

ジョン自身が新しいサウンドに挑戦したこの演奏こそ、新年を迎えるにあたって、これほどふさわしいジャズはないと思われます。

ちなみに、この曲は何年か前よりJRの京都キャンペーンのCMで流れており、ご存知の方も多いと思います。

もともとアメリカでは、クリスマスソングとして有名なこの曲が、CMのせいで日本では京都を連想する曲になっているのも、面白いところです。スタンダード曲の持つ時代を超えたパワーは、まさに新年にあやかりたいものですね。

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第二位:スウェーデンの美人女性ヴォーカル モニカ・ゼタールンド「ワルツ・フォー・デビー」より「モニカのワルツ(ワルツ・フォー・デビー)」

ワルツ・フォー・デビー+6

ワルツ・フォー・デビー+6

ジャズにおいて演奏される曲は、ブロードウェイや映画などの挿入歌が多いスタンダードナンバーか、ミュージシャンのオリジナルかのどちらかです。

ジャズミュージシャンが作ったオリジナルのワルツで一番有名なものといえば、ピアノ奏者のビル・エヴァンスが作った「ワルツ・フォー・デビー」が挙げられます。

そしてもちろん演奏も、オリジナルの作曲者ビル・エヴァンスのものが決定盤と言われていますが、今回ご紹介するのは、こちら。 スウェーデンの女性ヴォーカル、モニカ・ゼタールンドがこの曲にスウェーデン語で歌詞をつけ、題名も「モニカのワルツ」としたものです。

このアルバムは、作曲者のビル・エヴァンスが1964年にスウェーデンに行ったときに録音されたもの。あまり馴染みのないスウェーデン語ですが、モニカの歌唱によってとても柔らかい響きを持つ言語だということがわかります。

言葉の意味は解らないながらも、モニカの温かなやさしさに包まれて、知らない世界に飛び出す勇気がもらえる気がします。新年を迎えるにあたって、新しいチャレンジを考えている人におススメの演奏です。

もちろん伴奏する、ビル・エヴァンスも秀逸。決定盤のヴィレッジヴァンガードでのライブ盤では、テーマが三拍子で、アドリブに入ると4ビートになっていましたが、ここでは1コーラス目をワルツで、2コーラス目を4ビート(四拍子)でとモニカの歌唱が続きます。さしものインテリなビル・エヴァンス一行もやはり美人には弱いと見え、とてもチャーミングなバッキングを聴かせます。

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もうひとつのおすすめヴォーカル盤 日本の女性ヴォーカル 紗理「ザ・スウィーテスト・サウンズ」より「サム・デイ・マイ・プリンス・ウィル・カム」

ザ・スウィーテスト・サウンズ

ザ・スウィーテスト・サウンズ

モニカの歌が、スウェーデン語で歌われ、英語とは違う不思議な魅力を醸し出したものならば、こちらは日本語でジャズをチャーミングに歌う事が出来るヴォーカルです。

ご紹介する紗理は、現代っ子らしいキュートさがストレートに伝わる歌い方で好感が持てる日本女性ヴォーカル界の新星です。新星とはいえ、父親がピアノの山下洋輔と共演していたサックス奏者の中村誠一という言わば日本ジャズ界の名家の出。

でも、そんな恵まれた環境に甘えずに、むしろしたたかに着々と歌の仕事をこなしてきた彼女の実力は、折り紙つき。

私も、キリン主催のI.W.HARPERのジャズイベントで、彼女の演奏を間近に見ることができましたが、その時に最も印象に残ったのが、紗理自身が歌詞を書いたという日本語で歌われた「ワルツ・フォー・デビー」でした。

英語がうまく、歌唱力もあり、小悪魔的なルックスには観客は勿論、私も完全にノックアウトされてしまいましたが、そんな紗理が、幾分気恥ずかしそうに歌ったのがこの曲。自分で作った歌詞のジャズが、特に紗理のキュートさがストレートに伝わり、ことのほか良いのです。

イベントでの、選曲は、通好みのスタンダードが多く、彼女が非常にジャズを聴きこんでいるうえにこだわりがあることが伺いしれました。

このCDでも、ワルツの「サム・デイ・マイ・プリンス・ウィル・カム」を取り上げており、モニカのワルツと紗理のワルツを聴き比べてみるのも、面白いものかもしれませんね。

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第一位:モダンジャズの帝王 トランペット奏者マイルス・デイヴィス「サム・デイ・マイ・プリンス・ウィル・カム」より「サム・デイ・マイ・プリンス・ウィル・カム」

サムデイ・マイ・プリンス・ウィル・カム

サムデイ・マイ・プリンス・ウィル・カム

この演奏は1961年に録音されたものです。当時のマイルス・デイヴィスの動向は、この二年前の1959年に大名盤と言われる「カインド・オブ・ブルー」を発表し、ハードバップからモードへの大変換を成し遂げています。

それまでのハードバップは、コード進行に忠実なソロ構成が主でしたが、モードと言うのは、その複雑化したコード進行を一気に簡素化することで、コード進行にある意味縛られていたソロに自由を与え、さらなる可能性を開いたものです。

それだけに、当時モードを理解して、演奏できるプレイヤーは少なく、マイルスもジョンの後釜に苦労していたようです。この録音当時のバンドのレギュラーサックス奏者には、ハンク・モブレーが座っていました。

ハンク・モブレーと言えば、ハードバップを代表するテナー奏者。そのハンクはこの三拍子の曲で神妙で無難なソロを取りますが、モード以前のスタイルで、ややインパクトに欠け印象に残らないソロになっています。

そこで、登場するのが、少し前までメンバーだったサックス奏者のジョン・コルトレーンです。この演奏にはなんとその辞めていたジョンが特別に参加しており、ハンクの後に鮮烈なソロを取っています。

ジョンのソロは、まさにモードの申し子のような新しさ。四歳上のジョンより早くに第一線に出て、先に売れ、数歩リードしたハンクですが、ここにきて勝負ありの観があります。ハンクのプレイは、決して悪くは無いのですが、スタイルが古いのです。

この後、マイルスバンドより独立したハンクはわかりやすいファンキーな路線に進み、一時は人気を誇りますが、新しさを失って行くのに比べ、ジョンはどんどん様変わりして行き、ついにはリズムも音階も破壊するフリージャズを先導するまでに変貌していきます。

二人のその後を知る我々としては、結果論としてしか評価が出来ません。そして、結局はどちらが良い悪いではなく、好みの問題になってしまいます。ですが、新年を迎えるにあたって新しい志を持つためには、結果はどうあれ、挑戦を続けたジョン・コルトレーンのような志を持ちたいと思ってしまいます。

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「サム・デイ・マイ・プリンス・ウィル・カム」といえば、もうひとつのおすすめ ピアノ奏者デイヴ・ブルーベック「デイヴ・ディグス・ディズニー」より

Dave Digs Disney

Dave Digs Disney

ここでのピアノのデイブ・ブルーベックと彼の相棒、アルトサックス奏者のポール・デスモンドは、二人ともあまりチャーリー・パーカーの影響を感じさせないこの時代にしては稀有なミュージシャンです。

彼らは、またそれまでのお決まりのフレージングではない創造的なソロ構成をしており、この「デイブ・ディグス・ディズニー」においてマイルスよりも四年も早くこの「いつか王子様が」を取り上げています。

さらに、決定的なことに、4ビートではない変拍子の曲ばかりを取り上げた1959年「タイムアウト」での、「テイク・ファイブ」の大成功でも彼らのユニークさは顕著です。

言ってみればマイルスが、モード宣言をした1959年に彼らは変拍子宣言をしたというわけです。そんな二人ですので、ワルツのリズムはお手の物。ここでも彼らの特徴が良く出た、センシティブでプリティな演奏が続きます。

ウインナワルツで新年を迎えるのも優雅で良いですが、ジャズ好きならば、自分なりのジャズワルツで、一年の祈願をしたいものですね。

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