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シミを消す? 美白化粧品の効果の仕組みと注意点

前回の医師の目から見る「カネボウ美白化粧品の白斑問題」では、被害の現状と経過、メーカーや皮膚科学会、厚労省の取り組みについて取り上げました。今回は、美白成分であるロドデノールとはいったい何なのか。医療現場で用いられている美白化粧品とあわせて考察します。また美白化粧品を使う上での注意点についても解説します。

執筆者:野田 弘二郎

美白化粧品の成分・ロドデノールの効果のしくみ

美白

カネボウの美白化粧品で問題となった白斑被害。他の美白化粧品は大丈夫でしょうか?

カネボウ美白化粧品による白斑被害で知られることとなった美白成分「ロドデノール」。一般名は「4-(4-ヒドロキシフェニル)-2-ブタノール」という物質で、その由来は白樺の樹皮含まれる天然成分です。

「天然由来」というキーワードがいかにも体に優しく安全という印象を与えますが、これは他の多くの「天然」製品同様、言葉のトリックにすぎません。実際には白樺の木を原料として精製されるのではなく、同じ化学式の物質を工場内で化学合成することにより大量生産されているのです。ロドデノールはシミの原因となる「メラニン色素」が作られる過程を抑制することで美白効果を発揮します。

そもそもメラニンは、その材料となるチロシンという物質がチロシナーゼと結合することで作られます。ロドデノールはチロシンに化学構造が類似した物質で、皮膚の中でチロシンに先回りしてチロシナーゼに結合してしまうのです。するとチロシンがチロシナーゼに結合できなくなりメラニンが作られることがないので、シミが出来ないという理屈です。

こうした物質産生の抑制形式は拮抗阻害と呼ばれ、各種美白化粧品だけでなく多くの医薬品開発で利用されています。またロドデノールはこうしたメラニン合成阻害以外にチロシナーゼの分解を促したり、チロシナーゼ関連酵素に働くなどの作用もあると言われています。
ロドデノールによるメラニン抑制のメカニズム

ロドデノールによるメラニン抑制のメカニズム


美白化粧品で白斑症状が現れたしくみ

先ほどの美白のメカニズムですが、行きすぎるとメラニンが全く作られなくなり、その部分が「白斑」になってしまうことがあります。なぜロドデノールで部分的に白斑が生じるのか、まだ詳しく分かっているわけではありません。

白斑症状が現れるのは全体の2%程度であること、通常の白斑と異なり痒み赤みなどのかぶれ症状を伴うこと、半年程度と比較的早期に自然治癒することがあること、化粧水、乳液、クリームと重ねて使っていた人に症状が出やすいこと、日焼けにより悪化することなどから、白斑の原因はロドデノール単独の原因ではなく、この物質に対するアレルギー、不適切な使用法、紫外線の影響などの関与が推定されています。

美白化粧品の成分ロドデノールによる白斑の治療法

現在のところ確立された治療法はありませんが、いくつかの有効な治療法が報告されています。まずロドデノールの使用を中止するだけでも、半年程度で6割程度の患者さんで白斑が小さくなったり消えたりすることが分かっています。

さらに通常の白斑治療法であるステロイド軟膏、ビタミンD3軟膏、プロトピック軟膏、光療法などが試みられており、ケースによっては改善が見られています。また、白斑部分の皮膚はメラニンがないので紫外線の影響を強く受けてしまいます。発がん予防のためにも日焼け止めの使用などが強く勧められます。また先に述べたようにロドデノールによる白斑発生自体にも紫外線の関与が疑われているため、単なる日焼け防止以上に白斑症状の軽減も期待できます。

美容医療で使われる主な美白成分の種類・特徴・注意点

美容医療のなかで美白、シミ治療と言えば「レーザー治療」がひろく普及しており短期間に優れた効果が得られるのはご存じの通りです。そんな美容医療の中でもロドデノールのように美白成分を含んだ薬品も補助的治療薬として古くから用いられています。これらは含有成分やその濃度の問題から医師の処方がないと使用出来ないものがほとんどで、市販の美白化粧品と比べてかなり強力な美白作用があります。医療現場で用いられる代表的な美白成分には以下のようなものがあります。

■ハイドロキノン
現在の所もっとも強力な美白効果が得られる美白成分で、美容医療の分野ではもっともポピュラーです。イチゴ類、コーヒーなどにも含まれる成分でチロシナーゼの作用を抑制するといわれます。以前の製品は保存が難しかったり紫外線に当たると有害物質へ変質するため日中使用できないなどの問題がありました。現在はこういった欠点がかなり改善されています。それでも赤みやひりひり感といった副作用とその後の色素沈着が問題となりやすく医師の指導の下で使用しないと逆にシミが濃くなってしまうリスクがあります。2%など低濃度のものは一部の化粧品に含まれますが、十分な効果が得られるものは医師の処方が必要です。

■コウジ酸
日本酒の醸造所で働く職人の手が白いことに着目した研究から発見された美白成分で、酒や味噌を使われるコウジが発酵する際に生じる天然成分です。比較的穏やかな美白効果しか得られませんが皮膚の赤みなどの副作用が少なくまた安価なことから1990年頃から広く用いられていました。しかし2002年ころに発がん性が指摘されたことから発売が中止されました。その後の検証で安全性が確認されましたがもともと効果が薄かったこと、発売中止の間に他の薬剤の安全性が高まったことから医療現場に戻ってくることはありませんでした。

■トレチノイン
ビタミンA誘導体の一種。シミ、しわ、ニキビの治療に用いられます。副作用と言うより本来の作用から赤みや皮剥けが強く生じるのが特徴で外用としてはもっともアグレッシブな治療薬になります。また胎児に奇形をもたらす危険があることから妊婦あるいはその可能性がある女性には使えないなど医師の立場からするとやや使いにくい薬剤でもあります。ハイドロキノンとの併用によるシミ治療はレーザーを導入していないクリニックなどで行われています。

■ビタミンC
安全性が高く、安価に大量生産できるため 一般化粧品、医療用化粧品、サプリメントなどとして広く普及しています。抗酸化作用、メラニン抑制作用、コラーゲン産生促進作用、抗がん作用などが謳われておりますが、その効用についてはまだまだ不明な点も多い物質です。美容医療では外用、内服、カクテル注射、高濃度ビタミンC点滴、イオン導入などで用いられます。

■トラネキサム酸
慢性湿疹の治療薬、止血剤などといった目的で美容以外の医療分野でも内服薬、注射剤として広く用いられています。シミ治療または肝斑(レーザー治療が難しい特殊なシミ)治療薬として内服やイオン導入で用いられています。市販の内服薬も普及していますが、医師の処方と比べると半量程度にすぎません。

■アルブチン
梨の葉から抽出された天然由来の美白成分。化粧品の成分としては広く用いられていますが効果が低いため単独で用いられることはほとんど使われません。

美白成分を含む化粧品を使うリスク・注意点

最近ではロドデノール以外の美白成分でも同様の白斑が生じることが分かってきています。これらは通常使用では問題なくても不適切な使用により症状が現れるケースも多くあります。

もともと美白成分は皮膚への負担が大きく、その使用には十分注意する必要があります。まず、すでにできてしまっているシミには効果が薄いと考えなければなりません。CMからイメージされるような効果は決して得られません。むしろ新しいシミを作らないために予防的な意味で使うといった考えるべきです。その上で用量用法を守り、大量に用いたり、吸収を促すためにサランラップで覆うなどといった使い方は慎むべきです。

すでにできてしまったシミは皮膚科で相談するとレーザーなど他の治療法により短期間で、安く、安全に治療出来ることもあるので一度相談してはいかがでしょうか。また皮膚のシミやシワといった光老化には、大変地道な努力にはなりますが紫外線対策こそがもっとも効果的な予防法であることを再認識していただきたいと思います。
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