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ダンサーズ ・ヒストリー 新国立劇場バレエ団 福岡雄大(4ページ目)

この秋上演を迎える新国立劇場バレエ団公演『バレエ・リュス ストラヴィンスキー・イブニング』に出演し、『結婚』と『アポロ』の二作で主演を務める福岡雄大さん。舞台に対する真摯な姿勢は、前回のインタビューでお伝えした通り。ここでは改めて彼のバレエ人生を振り返り、プリンシパルに至る道程を辿ります。

小野寺 悦子

執筆者:小野寺 悦子

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新国立劇場バレエ団で第二のスタート

五年ぶりに日本に戻り、地元・大阪に拠点を移した福岡さん。チューリッヒでの精神修業は、早速成果となってあらわれた。世界的バレエコンクール、ヴァルナ国際バレエコンクールに出場。シニア男性部門で第3位に輝くという栄誉を掴んでいる。
「チューリッヒにいときにヴァルナを観に行ったことがあって。そのとき、この舞台で踊れたらいいなって思ったんです。先生に精神修行の最終試験みたいなものだと言われ、決意しました」

過酷なことでも知られるヴァルナコンクール。出場者は、第一ラウンド、第二ラウンド、決戦まで、計6曲のバレエのバリエーションに、2曲のコンテンポラリーを踊らなくてはならない。また審査は夜、野外のステージが会場となるなど、心身共に崩れやすい厳しい環境のもと行われ、真の実力が試される。福岡さんの中では、日本での再出発を前に、初心に立ち返る意味もあった。
「本当にハードなコンクールで、先生につきっきりでリハーサルしてもらって挑みました。だから、僕がとったというよりも、先生にあげたい賞。先生も喜んでくれましたね。その日はムール貝が美味しいお店に連れて行ってもらい、みんなでお祝いしました(笑)」

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『solo for 2』(2013年)撮影:鹿摩隆司


オーディションを経て、2009年に新国立劇場バレエ団に入団。バレエダンサーとして、日本で第二のプロ生活をスタートさせる。契約時の階級はソリスト。“飛び級”での入団だ。
「え、コールド(群舞)じゃないんですか!? って、ビックリでした」
さらに、入団後初の舞台でいきなり『ドン・キホーテ』のバジル役に選ばれる。パートナーは、すでに数々の舞台で主演を務め、バレエ団の顔として活躍していた本島美和。異例の大抜擢だが、それだけ期待が大きかったということだろう。一方、福岡さんにかかるプレッシャーはなおさら大きい。あり余る重圧に、肉体がまず悲鳴を上げた。
「知恵熱なのか、ずっと39度の高熱を出していて、乗り切れるかなという心配がありました。たぶんプレッシャーを感じてたんでしょうね」

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                                                       『ドン・キホーテ』(2009年) 撮影:瀬戸秀美


バジルといえば、派手な跳躍や回転技など見せ場も多い。不安を抱えたまま挑戦した、新天地での第一歩。そうとは見えない体当たりの演技で無事成功を収めるが、当人曰く、舞台上の記憶はほとんどないという。
「3幕の出番前に足がつってしまって、あのときはどうやって踊ろうかってさすがに焦りましたけど……。呼吸を忘れずに、“笑顔で”“笑顔で”って自分に言い聞かせて、何とか乗り切りました(笑)」

『ドン・キホーテ』を皮切りに、『火の鳥』、『シンデレラ』、『ロメオとジュリエット』と、次々主役に抜擢され、入団以来順調にキャリアを築く。しかし、この4年の間には、ケガに見舞われやむなく舞台を降板したこともあった。
2012年初旬、『こうもり』のリハーサルに取りかかっていたときのこと。もともと膝に痛みがあったが、さらに痛みは激しくなり、バリエーションの練習もままならない。舞台は目の前に迫っている。
「注射で誤魔化してたけど、それも限界でした。検査に行ったら、もう少しで膝の靱帯が切れるところだと言われて」
ちょうどバレエシーズンの幕開けでもあり、その後も『アンナ・カレーニナ』、『DANCE to the Future 2012』、『白鳥の湖』と立て続けに出演作が控えていた。

痛みをこらえつつ踊る福岡さんの姿を見て、芸術監督のデヴィッド・ビントレーが宣告を下す。
「『白鳥の湖』に出るためにも、とりあえず『アンナ・カレーニナ』と『DANCE to the Future 2012』は降りてくれないかと言われて……。もう、僕には選べないですよね」
舞台に立ちたい気持ちは強い。だが、長い目でこれからのキャリアを見据え、降板を決意する。

治療は自分の血液を遠心分離器にかけ、血小板を増やして患部に注射するという最先端の再生医療。メスを使わず身体の負担を減らすことで、ダンサーとして一日も早い再起を目指した。サポーターを付け、安静を余儀なくされる毎日。バレエから隔離され、焦りなどは感じなかったのだろうか?
「焦りはもちろんありますが、美術館や映画館に行ったり、なるべく普段できないことをしてました。今後の舞踊生活に役立つかもしれないし、もしかしたら違う職業になってるかもしれない。そう考えたら少しでもいろんなものを見ておいた方がいいなと思って。チューリッヒで怪我したときも、スペイン語を勉強したり、松葉杖をついて美術館に行ったりしてましたね」

肉体を酷使するダンサーという職業。ケガの予防はもちろん、常にベストな状態を維持するためにも、日頃のメンテナンスは欠かせない。マッサージに針、酸素カプセル……。いいと聞けば、まずトライする。さらに、バレエダンサーにとって引き締まったボディラインは必須条件。舞台上で輝くためには、女性はもちろん、男性も常に美しくあらねばならない。
「もともと太りやすい体質なので、夜遅くに食べないようにしたり、たまに炭水化物を抜いてみたり。一食抜くといいって雑誌に書いてあったのを読んで、“そっかー”と思って。“コレがいい”っていうのを聞くと、“よしやってみよう!”ってすぐ取り入れる。単純なんです(笑)。でも、いつも3日で終わる。そこは昔から変わってないですね(笑)」

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