ミュージカル/ミュージカル・スペシャルインタビュー

気になる新星インタビューvol.3 尾上松也

シリーズ3回目は、『ロミオ&ジュリエット』でミュージカルに本格進出を果たした、歌舞伎俳優の尾上松也さん(28歳)。昨年出演した『ボクの四谷怪談』を本作の演出家・小池修一郎さんが観たことで、オーディションに招かれ、ベンヴォーリオ役を射とめました。本番では、言われなければ歌舞伎役者と分からないほどカンパニーに溶け込み、洋装もぴったりお似合いの松也さん。ミュージカルの手応えをうかがいました。

松島 まり乃

執筆者:松島 まり乃

ミュージカルガイド

二代目・尾上松也undefined1985年東京生まれ。5歳にして『伽羅先代萩』鶴千代役で初舞台。歌舞伎の舞台を中心に、テレビ『天地人』前田利長役、映画『源氏物語』頭中将役など、幅広く活躍。2009年より歌舞伎の自主公演『挑む』も主催している。(C) Marino Matsushima

二代目・尾上松也 1985年東京生まれ。5歳にして『伽羅先代萩』鶴千代役で初舞台。歌舞伎の舞台を中心に、テレビ『天地人』前田利長役、映画『源氏物語』頭中将役など、幅広く活躍。2009年より歌舞伎の自主公演『挑む』も主催している。(C) Marino Matsushima

可憐な女形から涼やかな二枚目まで幅広い役柄をこなし、人気上昇中の歌舞伎役者、尾上松也さん。その彼が今回、ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』で、ロミオの親友であると同時に、全体を見回し、いわば“若者たち”の代表的存在でもあるベンヴォーリオを清々しく演じています。歌舞伎役者さんがミュージカルでどんなお芝居をするのか、興味を持たれた方も多いようですが、舞台上の松也さんはベンヴォーリオの「いいところのお坊ちゃん」の雰囲気を漂わせつつ、歌舞伎で鍛えた明晰な口跡と滑らかな声で、確かな存在感を発揮。ダンスもソツなくこなしています。さて、どんな役者さんなのでしょうか。

すべての始まりは『RENT』

――ミュージカルには以前から興味をお持ちだったのですか?

「ずっと出たいと思っていました。きっかけは映画版の『レント』です。21、22歳のころ、好きな女優さんが出ていたので、その作品がミュージカルであるということも知らずに、空き時間にふらっと映画館で観てみたら、はまってしまって。何度も映画館に通っては号泣しました。音楽も良かったけれど、ちょうど僕もうちの父(六代目・尾上松助)が亡くなってすぐ後だったので、人の死というテーマに関しての思い入れが強かったんでしょうね。“こういう感じで(ミュージカルという形式で)自分も感動を与えて歌えるようになれたら”と思うようになりました。

それ以来、ちょこっと発声の練習をしたり。ダンスも、音楽に併せて体を動かすのは好きでしたが、正直、きちんと訓練はしていなかったので、今回、オーディションでは正直に『日本舞踊しか踊れません。でも本番までには稽古の時間を作って、必ず踊れるようにします』と言いました。ベンヴォーリオ役が決まって、めちゃくちゃプレッシャーでしたが、チャンスをいただけて新しいことも学べるなら一石二鳥だなと考えて、必死に取り組みました」

歌舞伎の発声、ミュージカルの発声

『ロミオ&ジュリエット』撮影:渡部孝弘

『ロミオ&ジュリエット』撮影:渡部孝弘

――稽古期間中には城田優さんや安崎求さんら、他の出演者たちから歌についてアドバイスがあったそうですね。どんな内容だったのですか?

「基本的には、声の出し方です。これまで歌舞伎役者として培ってきたものは、一度一掃して取り組んでいるつもりだったのですが、感情的に声を出すと、知らず知らず歌舞伎的な発声だとか、邦楽っぽく聞こえてしまったようなんです。ミュージカルでは喉を開いて、お腹から声を出すけど、邦楽ではどちらかというと“あてる”というか、キーンと細長い声を出します。それで30年近く訓練してきたので、最初はそういう発声でないとやっている気がしなかったんですけど、ご指摘をいただいて自分でも聴き返しているうちに、やっぱり違うんだと思いまして。普通に喋っている状況の声を歌にすることを教えていただきました。

歌唱指導の先生にも、根底に役の感情を持ちつつ、リズムや強弱で声に“色をつけていく”奥深さを教えていただきました。歌舞伎の台詞でももちろん、ことばに“色をつける”ことは必要なので、そこは共通しているのですが、こういう作品だと、ともすると(歌を)感情だけで押し通しがちですよね。でもプロとしては、お客様にきちんと伝わるものに作り上げていかないといけない。そのためにどんなテクニックで声に色をつけていくか。非常に難しいことだなと、今も試行錯誤しています」

――他にも、歌舞伎とミュージカルでは、演出家がいる、いないという点が大きく違うと思いますが、どんな体験でしたでしょうか。

「そうですね、歌舞伎ですと古典の演目が多いのでほとんどの場合、主役の先輩が演出家がわりで、僕らは事前に自分で勉強したり、先輩に教わって準備して、稽古場で2,3回合わせて本番に臨むという形です。今回は小池修一郎さんの演出ですが、小池さんの舞台は以前にも観ていて“ぜひ(演出を)受けてみたい”と思っていたので、念願がかなって嬉しい限りです。稽古に参加していると、小池さんは本当に細かいところまでご覧になっていて、作品を良くするためにどうすればいいかを、常に考えていらっしゃる。僕も何度も注意されましたが、そのすべてが納得できることでしたし、ちょっとでも変なことをすれば見抜かれてしまう、緊張感のある稽古場でした。昨年出演した『ボクの四谷怪談』の演出家・蜷川幸雄さんとは、やり方はもちろん違いますが、最終的な牽引力というか、“この作品のためにやってやるぞ!”という気にさせてくれる点では共通していますね。お二人とも凄いと感じました」

1幕と2幕のギャップを大切に、リアルな人物像を描きたい

『ロミオ&ジュリエット』ベンヴォーリオundefined撮影:渡部孝弘

『ロミオ&ジュリエット』ベンヴォーリオ 撮影:渡部孝弘

――ベンヴォーリオは全編を見守るような役ですが、どこにポイントを置いて演じていますか?

「今回、ベンヴォーリオとしてできたらいいなと思っていることは、なるべくリアルなというか、いかにも“いそう”なベンヴォーリオとして居られたらと思っています。構えすぎずに、その時その時の彼の感じ方を大切にできたら。クライマックスとしては、終盤に『どうやって伝えよう』というソロがあります。ロミオやジュリエット、マーキューシオのことや今まで起こった様々なことを回想しつつ、お客様にも今までの出来事を思い起こしていただく歌で、その行きつくところが“(ジュリエットの死をロミオに)自分が伝えたい”という思いなので、非常に重要だし、気持ちをこめて歌わなければいけません。でも、それに至る過程ももちろん大切なわけで、特に一幕は悲劇が起こる前なので、仲間たちの絆や楽しさ、明るさを出して、一変して二幕からはどんどん落ちていく。そのギャップを大事にしています」
『ロミオ&ジュリエット』撮影:渡部孝弘

『ロミオ&ジュリエット』撮影:渡部孝弘

――今回、ミュージカルに本格的に挑戦されてみて、いかがでしたか? ミュージカル進出をされた歌舞伎役者としては、これまでに松本幸四郎さんがいらっしゃいますが、松也さんもこれを機会にミュージカルへの出演が増えそうでしょうか。

「今回は歌舞伎の自主公演と並行しての稽古だったこともあって、いろいろとつらい部分もあったのですが、こうして幕が開いてお客様も入っていただいた中でやると、とにかく楽しいですし、やりがいがあります。同世代の出演者が多いというのもありますけれどね。せっかくいただいたチャンスですし、千秋楽までまだありますので、改善できるところはどんどん良くしていきたいです。

もちろん、今後もミュージカルはぜひやって行きたいです。(松本)幸四郎のお兄さんはブロードウェイでも出演されていて、僕なんか足元にも及びません。でも(今回の出演は)光栄にも誇りにも思うし、自分もミュージカルというジャンルをいろいろ経験させていただいて、自分の幅が広がるといいなと思っています。やってみたい演目ですか? そうですね、今はどんな作品を観てもやってみたいと思っちゃいます(笑)。『レント』なら、どの役かな。本来はロジャーがいいんですけど、僕、ギター弾けないんで、マークで。エンジェルもかわいいなと思いますけど、まだあんなにダンスはまだ踊れません。マークで!」

自分の中の“核”を大切に、挑戦していきたい

――最終的に、どんな表現者を目指していらっしゃいますか?

「エンタテインメントというのはお客様に観て戴かないと成り立たないものですから、歌舞伎でもミュージカルでもストレートプレイでも、この役は松也で観たいなとか、松也じゃないと、と思ってもらえるような役が、一つでも二つでも多くあるような役者さんになれたらいいなと思います。今まで自分で手ごたえがあった役ですか? そうですね、それが面白いことに、自分の中で手ごたえがあるものというと意外とあまり評価されなかったりして、自分の中であまり記憶がないというか、そこまで手ごたえがなかったもののほうが、周りの方から『良かった』と言われることのほうが多いんです。手ごたえって正直、分からないですね。今後もいつ出てくるかわからないですけど、それだけ芸の道というのは正解もないし、形もないので、これからも模索し続けるんだなという気がします」

――思えば、父上の松助さんも歌舞伎版『ハムレット』でロンドン公演に参加されたりと、進取の精神をお持ちでした。ミュージカルに進出された松也さんも、その血をひいていらっしゃるのかもしれませんね。

11月は『明治座十一月花形歌舞伎』(11月1~25日)に出演する松也さん。昼の部では舞踊「供奴」(写真)を颯爽と踊ります。「初めての方にも楽しんでいただける舞踊だと思います。足拍子のくだりがあり、洋楽とはまた違うリズムで面白いと思いますので、ぜひ注目していただければと思います」。写真提供:明治座

11月は『明治座十一月花形歌舞伎』(11月1~25日)に出演する松也さん。昼の部では舞踊「供奴」(写真)を颯爽と踊ります。「初めての方にも楽しんでいただける舞踊だと思います。足拍子のくだりがあり、洋楽とはまた違うリズムで面白いと思いますので、ぜひ注目していただければと思います」。写真提供:明治座

「うちのオヤジは意外と、新しいもの以前にむしろ古いものを大事にしていた人で、歌舞伎で新作を作ったり復活ものをやるにしても、まずは原型のものをきちっと上演してから崩さないといけない、という考え方の人でした。僕も父の考え方には共感するところがありまして、いろんなことをやってはいますが、実は自分の核、基礎は常に大事にしなければいけないなと思っています。ですので今後も新しいことには挑戦したいけれど、おおもとの基礎、根源みたいなものは、常に忘れないようにしたいなと思っています」

――地に足がついていますね。

「いや~、うわっついてますよ。全然地に足はついてないです(笑)」


どの質問にも淀みなく、迷いのない声で答える松也さん。若くして父という大きな存在を失いながらも、地道に歌舞伎の修業を積んできた人ならではの頼もしさがうかがえます。歌舞伎界では人気役者の条件として「一声、二顔、三姿」が挙げられますが、これらは既に併せ持っている松也さん。将来的にはダンス力、歌唱力も誇るミュージカル俳優としても大活躍?! 早くも、次の舞台が楽しみです。

*公演情報*『ロミオ&ジュリエット』上演中~2013年10月5日=シアターオーブ、2013年10月12~27日=梅田芸術劇場メインホール http://romeo-juliette.com/

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