人工透析/透析食・人工透析の食事療法

人工透析の食事療法・栄養管理

人工透析をしている人にとって、食事の管理はとても大切です。しかし、食事制限を厳しくすれば、良い結果が出るという訳ではありません。ここでは栄養管理のポイントを紹介します。納得できる食事管理をしましょう。

一政 晶子

執筆者:一政 晶子

管理栄養士・米国登録栄養士(RD) / 栄養管理・療養食ガイド

人工透析をしている人が栄養管理をする理由は?

人工透析をしている人にとって、食事の管理はとても大切です。しかし、食事制限を厳しくすれば、良い結果が出るという訳ではありません。体重が減り、アルブミン値が低い場合などは、食事制限に問題がないかをみることが大切です。食事制限が守れていても、それが全体的な健康を害しているようでは意味がありません。透析の患者は、しっかり食べて、適度な運動をし(もちろん動く事が安全な場合)、痩せていないことが長生きにつながるというのが最近のメジャーな考え方です。

栄養管理にしても、透析のトータル的な管理や治療目標にしても、患者本人、医師、栄養士などによって色々な考え方があります。色々な考え方があるのは、医療に限らず、どの分野でも見られる当たり前のことです。患者自身が納得できる医療者を見つけることが大切です。

透析には血液透析(一般的に透析センターで行う)と腹膜透析(一般的に自宅などで自分で行う)があります。ここでご紹介するのは、血液透析向けの情報です。

透析

カロリー不足? それともたんぱく質不足? 体がだるい……。

たんぱく質

たんぱく質は食べ過ぎても、少なすぎてもよくないため、適量というバランスが大切な栄養素です。たんぱく質の推奨量は医師や病院などの方針によって異なるようですが、一般的には1~1.2g/kd、1.1~1.3g/kg、1.2~1.4g/kgなどの範囲が推奨されています。例えば体重が60キロの人は、たんぱく質が75gくらい必要です。食生活によっては意識しないと不足気味の人が案外多いかもしれません。たんぱく質は、筋肉を作り、傷ついた細胞を修正し、免疫をつける(感染症に掛かりにくくする)働きがあるので、少ないのは問題です。摂りすぎると、尿素窒素(BUN)などが上昇しますので、食事または透析の調整が必要です。担当医療者との話し合いが大切です。

カロリー

カロリーは体重1キロ当たり、30~35カロリーくらいが目安ですが、個人の運動量によっても異なります。60キロの人は1日約2000カロリーが必要ということになります。体重が落ちればカロリーが足りないということになりますので、計算で決めるよりも、自分の体重の変化に合わせてカロリーを調整することが大切です。低体重の人は、体重を標準にするために食事を増やすことを検討しましょう。カロリーが不足すると、大切な体のたんぱく質を失ってしまいますので、体重低下を予防する事は大切です。

カリウム

血中カリウムは高くても低く過ぎてもよくありません。カリウムは透析によって比較的よく除去されますが、透析の間に蓄積されるので、カリウムを摂りすぎると高カリウム血症になることがあります。カリウムが高くなると、手足がしびれたり、この状態を放置すると心臓が止まったりしますので、医療措置が必要です。カリウムは野菜・果物・豆類・芋類などに多く含まれます。

火を通せばカリウムが破壊されるという俗説もあるようですが、カリウムは火を通しても破壊されません。カリウムは水に溶け出す性質があるので、カリウムを多く含む食品は水にさらしたり、茹でたりするのが効果的です。ジャガイモやサツマイモなど、カリウムが多い根菜の場合は、たっぷりの湯で二度湯でが奨められています。小さめに切ったものを鍋に入れて水を加え、しばらく室温でさらします。その後一度沸騰させて水を切り、再度新しい水を入れて軟らかくなるまでゆでるとカリウムの量がさらに減るようです。

カリウムは水に溶け出しますので、お肉や野菜の煮汁(みそ汁、スープなども含め)はカリウムが高い人は残した方がよいと思います。1日のカリウム量の摂取は2000~3000mg以下が推奨されています。

リン酸

リン酸は1日800~1000mg以下の摂取が一般的に推奨されています。リン酸はほとんどの食品に含まれており、リン酸の厳しい制限は非常に困難なことです。特に、タンパク質の多い食品(牛乳、乳製品、肉、魚、卵類)に多く含まれていますが、制限しすぎるとたんぱく質不足になって、体力や免疫力が落ちてしまいます。

透析ではリン酸を効果的に取り除くことができません。リン酸が血中に蓄積されると、骨からカルシウムを取り出してしまいます。この状態が長く続くと、骨が弱り折れやすくなります。また、カルシウムとリン酸の結晶が、関節・血管・心臓などに蓄積する可能性があり、骨の痛みや心臓へのダメージなどを起こす事があります。たんぱく質が多い食品をしっかり食べる人は、リン酸が高めになることがありますが、リン酸を下げる薬と併用すれば、管理をしやすくなります。リン酸は加工食品に多く含まれるということがよく知られていますが、調理済みの肉と加工肉のリン酸を比較すると大した差はありません。そうは言っても、加工肉は塩分が高すぎるものが多いので、控えめにするのがよさそうです。また、加工肉をはじめ、加工食品にはリン酸が添加されている場合も多いようです。添加物として加えられたリン酸は、吸収されやすいので、注意したいものです。

肉100g当たりのリン酸の量(mg)
豚ひき肉 調理済み 226
豚ひき肉 生 175
豚肩 生 202
豚肩 調理済み 247
豚ハム 232

カルシウム

カルシウムは強い骨を作るのに大切な栄養素ですが、カルシウムを多く含む食べ物のほとんどが、リン酸も豊富に含んでいます。透析をしている場合は、骨が弱ることを避けるためには、リン酸をしっかり管理し、医師によるビタミンDの薬の処方でカルシウムとリン酸のバランスを保ったり、運動をして骨に負荷を与えるなど、トータル的なアプローチが大切です。透析をしている人は自分の判断でカルシウムなどのサプリメントを使うべきではありません。体内の石灰化を助長する可能性があります。

塩分

塩は一日に6g以下が奨められています。塩分を摂りすぎると、喉が渇きやすくなるので、水分制限が更に困難になります。また、塩分は体内に更なる水分を溜めこんでしまいます。塩分は血圧を上げてしまいますし、むくんだり、息切れの原因になったりします。塩分を控えたいからといって、「減塩塩」や「減塩しょうゆ」を使うのは要注意です。これらの調味料には多くのカリウムが含まれていることがありますので、必ず原材料を調べましょう。材料に「塩化カリウム」と書いてあったら使わないようにしましょう。

水分

透析をしている人の多くは、尿がでないか、出てもわずかな量だったりします。尿が出ないということは、水分が体内に蓄積されるということなので、水分の量が多すぎると体に負担がかかります。水分摂取の目安量は、尿の量プラス500~600mlと言われることもありますが、食べ物自体に含まれている水分(例えばご飯の水分、野菜の水分)、運動量、発汗量などに左右されます。

食事の内容や運動の強度などに左右されるので、水分制限の数値自体だけに従うのではなく、透析の間に増える体重を指示内に抑える水分量を割り出していくことが大切です。水分も抑えれば抑えるほどよいと言い訳ではありません。ほとんどの場合、水分制限に苦労している様子が見られますが、極端に抑えすぎる人もいない訳ではありません。水分も最低限は摂取しないと、脱水になったり、便通が悪くなる可能性もあります。

水分と塩分は切っても切りはなせない関係です。塩分を多く摂ると、水分の管理が難しくなります。透析で取り除く水分量が多すぎると、手足がつったり、ふらふらしたり、めまいがしたり、透析中や透析後に疲労を感じたりします。

ビタミン・ミネラル

透析中に、透析膜から水溶性ビタミンが除去されます。食事制限もあるので、水溶性ビタミンが不足する可能性があります。食事を制限することで亜鉛や鉄などのミネラルも不足する可能性があります。ビタミン・ミネラルの必要量は基本的に一般の人向けの基準と同じくらいです。ただし、ビタミンCのように少し多めの量が必要なのに、摂りすぎると悪影響を及ぼすというものもあります。カルシウム、ビタミンD、鉄なども自己判断での摂取は避けるべきです。一般向けの基準以上をサプリメントなどで摂る場合は必ず専門家に相談しましょう。

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