糖尿病/糖尿病の経口薬・インスリン

なぜ日本のインスリン治療費はこんなにも高いのか?

糖尿病で生涯にわたる高額なインスリン治療費に苦しんでいる患者が大勢います。そんな折、とても興味のあるテーマ『糖尿病治療と医療費負担の現状…インスリン治療中の2650人の患者調査から…』のプレスセミナーが2013年6月19日に東京で開かれました。インスリンを賢く選択し、通院回数を減らして負担を軽くする工夫をしましょう。

執筆者:河合 勝幸

インスリン

インスリンペンのイメージ

同クラスのインスリンでも製薬会社によって意外と価格差があります。しかし、価格の差は品質の差ではありません。photoはヒューマログ注ミリオペン(日本イーライリリー)

糖尿病で生涯にわたる高額なインスリン治療費に苦しんでいる患者が大勢います。そんな折、とても興味のあるテーマ『糖尿病治療と医療費負担の現状…インスリン治療中の2650人の患者調査から…』のプレスセミナーが2013年6月19日に東京で開かれました。セミナーの主催者である日本イーライリリーの名を見て私は一瞬はっとしました。これは医療従事者が「国の医療制度の問題」だとして長年にわたって注意深く患者と話し合うことを避けてきた話題だからです。それを世界の3大インスリンメーカーの一つ、イーライリリー社が取り上げてくれました。

日本のインスリン治療者は理不尽な負担を強いられています。それはおそらく世界に類を見ないインスリン自己注射の『在宅自己注射指導管理料』という名目で、医師が検査も指導も管理もしない(=できない/必要ない)のに、一方的にインスリンを処方する度に毎月8200円を請求できる制度と、欧米の市価の2倍も高価なインスリンを買わされている摩訶不思議な薬価のせいです。さらに、妊娠中の糖尿病者のようにベストをつくして血糖値を正常範囲に保つ状況でもないのに、「あなたのためだから毎月1度、できれば2週間ごとに来院しなさい」と言う”おためごかし”の医師と、医師の言いなりになって毎月通院している患者の自主性のなさ、不勉強さが輪をかけます。

以下でその解決法を考えてみましょう。

インスリン療法を行う糖尿病患者の実態調査

日本イーライリリー株式会社はインスリン療法を受けている糖尿病患者の実態を理解するため、2650人の患者に調査を実施しました。そのまとめは以下の通りです。なお、調査の詳細な内容は以下の糖尿病ネットワークのページで閲覧することができます。
http://www.dm-net.co.jp/enq/002/

  1. インスリン療法を受けている患者の半数(49.5%)は現在受けている治療そのものには一応満足していると回答。「どちらとも言えない」、「全く満足していない」と回答した患者は13.5%に留まった
  2. ただし、治療における不満を聞いたところ、約8割(76.9%)が「医療費が高い」ことを挙げた
  3. 糖尿病治療の医療費の平均月額は「10000~15000円未満」という回答が多かった(38.6%)
  4. インスリン療法開始の際、7割(68.5%)が「主治医が勧める製剤に決まった」と回答し、2割(22.1%)は「選択肢が提示され、主治医に勧められた製剤に決まった」と回答。つまり、9割の患者は主治医の勧めるインスリン製剤を使用しており、製剤の選択について患者自身が考えや希望を述べることは殆どないことが明らかになった
  5. インスリンも製剤によって価格に違いがあることを知っているか聞いたところ、「知らない」患者が7割近く(66.5%)に上がった
  6. 同等の価格でより安価なインスリン製剤を主治医が推奨したらそれに切り替えたいかを聞いたところ、「主治医が勧めるなら切り替えたい」、「ぜひ切り替えたい」と回答した人は9割以上(94.7%)に上がった

ということで、後述するように最高品質なのに他の2社の同クラスのインスリン製剤よりも15~17%も安いイーライリリーのインスリンを患者に勧めて頂きたい、また患者も医師に相談して欲しいというのがイーライリリーの訴求するところでした。

高価は高品質? インスリンは有効性、安全性の実績で選択を

実際のところ、世界ではじめて発売されたイーライリリーの超速効型インスリン・アナログのヒューマログ注ミリオペンは1本(300単位)で1899円(2013年4月時点)ですが、同クラスのノボラピッド注フレックスペンが2286円、アピドラ注ソロスターは2237円です。日本では薬価は様々な要因に基づいて算定されていて、ノボラピッドがヒューマログより高く算定されたのは、単にノボラピッドが申請時には海外で売られておらず、外国価格調整(引き下げ)を受けなかったためです。また、薬は2年に1回薬価の見直しが行われますから先発薬は少しずつ安くなります。

患者はとかく高価なインスリンは高品質、と考えがちですが、インスリンは有効性・安全性のエビデンスで選ぶものです。

現在のところインスリンのバイオシミラー(バイオ後続品)はインスリン グラルギン BS注ミリオペン「リリー」があります。

薬価については医師はほとんど無関心ですから、患者からの問題提起が必要です。なお、インスリン製剤は注入方法(ペン、カートリッジ、バイアル)によっても薬価がかなり異なりますから、利便性を優先するか経済性を優先するかによって選び方が変わります。

また、ノボ ノルディスクにはノボラピッド注イノレットという大きなダイヤル、注入時に支えとなる支点を備えたユニークなものがあります。リューマチなどで手が不自由な人や視覚障害者にはしっかりとホールドできるのでありがたい注入器です。カートリッジ式もわずかな手間を惜しまなければペン型と比べて最大30%も割安です。

インスリンの薬価比較

※2013年4月30日時点
総単位数は1本300単位。製造発売元名は編集上の都合で(日本)イーライリリーをLLY、ノボ ノルディスク(ファーマ)をNVO、サノフィをSNYと株式市場の略字で表記しました。バイアルは省略。

超速効型                           製造発売元    薬価(円)
ヒューマログ注ミリオペン                 LLY        1899
ヒューマログ注カート                       LLY        1591
ノボラピッド注フレックスペン             NOV       2286
ノボラピッド注イノレット                    NOV       2150
ノボラピッド注ペンフィル                  NOV       1623
アピドラ注ソロスター                       SNY        2237
アピドラ注カート                             SNY        1596

速効型
ヒューマリンR注ミリオペン                 LLY       1831
ヒューマリンR注カート                       LLY       1393
ノボリンR注フレックスペン                 NVO       2059

混合型
ヒューマログミックス25注ミリオペン      LLY       1899
ヒューマログミックス25注カート            LLY       1603
ヒューマログミックス50注ミリオペン      LLY       1899
ヒューマログミックス50注カート            LLY       1598
ヒューマリン3/7注ミリオペン               LLY       1854
ヒューマリン3/7注カート                     LLY       1393
ノボラピッド30ミックスフレックスペン     NVO       2287
ノボラピッド30ミックスペンフィル          NVO       1638
ノボラピッド50ミックスフレックスペン     NVO       2287
ノボラピッド70ミックスフレックスペン     NVO       2286
ノボリン30R注フレックスペン               NVO       2081
イノレット30R注                                NVO       2000

中間型
ヒューマログN注ミリオペン                 LLY        1921
ヒューマログN注カート                       LLY        1603
ヒューマリンN注ミリオペン                  LLY        1865
ヒューマリンN注カート                        LLY        1393
ノボリンN注フレックスペン                  NVO       2073

持効型溶解
トレシーバ注フレックスタッチ              NVO       2546
トレシーバ注ペンフィル                     NVO        1796
レベミル注フレックスペン                   NVO       2529
レベミル注ペンフィル                        NVO       1807
レベミル注イノレット                          NVO       2334
ランタス注ソロスター                         SNY        2455
ランタス注カート                               SNY        1783

在宅自己注射指導管理料の負担を減らすには

フィリピンでボランティアをしている友人が体調を崩し、一時帰国して2型糖尿病と診断されて、ランタス5単位/日と経口薬を処方されて、フィリピンに戻りました。出発の直前に私が念のためにランタスには使用開始から25°C以下の保管で28日間有効という期限があることを教わったかどうか尋ねたら、答えは否でした。5単位/日では空打ちを入れても1ヵ月では使い切りません。教わっていないので高温の国で最後まで使い切ることに何の不安も感じていないのです。医療従事者も薬剤師もこの程度なのに、これで8200円/月(保険適用)の「在宅自己注射指導管理料」を取っているのです。

日本では1981年5月31日まではインスリン等の自己注射が厚生省(当時)によって禁止されていました。解禁に強く反対していたのが厚生大臣(当時)よりも力があった(?)武見太郎が率いる開業医の団体、日本医師会です。患者の自己注射は開業医の収入減につながるとしたのでしょう。しかし、少なくとも1日2回はインスリン注射をしなくてはならない1型糖尿病者は違法でも自己注射をしなくてはなりません。大学病院の担当医は患者にインスリンを渡していましたが、厚生省が認めてないので健康保険が適用できず、高価なインスリンを現金で購入しなくてはなりませんでした。生活保護を受けている家庭でもそうだったのです。ですから状況証拠しかありませんが、在宅自己注射指導管理料なるものは日本医師会との取り引きで出来た収入補償だったのではないでしょうか。それがいろいろな理屈を付けながら今でも続いています。日本でインスリン治療を受けている外国人患者には到底理解できない、承諾できない費用です。

これを破棄させることは事実上不可能でしょうから、せめて指導管理した場合のみ請求できるようにするのが理想的です。また在宅医療のコストとして、1回の診察で5,000円位の余分な自己負担が生じることから、診察の回数を減らすことがとても大きなコストカットになります。インスリンの処方を3ヵ月に1度にしてこの指導管理料なるものを実質1/3に低減させましょう。

医師は3ヵ月分のインスリンを診療報酬支払基金の審査、査定を口実に渋るかも知れませんが、問題はないはずですから社保・国保の支払基金に確認をとるように説得することです。インスリンには麻薬や向精神薬、新薬のような日数制限はないのですから。私は糖尿病では年に4回、時間にして延べ30~40分しか医師と話をしていません。2型ですがインスリンマルチショットでA1C(NGSP) 5.7%を苦もなく維持しています。糖尿病は自分で治療するものなのです。医師には心強いサブリーダーになってもらいましょう。

知人の大学教授に確認を取ったら、3ヵ月に一度の診察は基本的に血糖自己測定が出来ている患者なら認めるとのことでした。A1Cの値での線引きはないそうです。

インスリン治療の高負担で苦しんでいる仲間の意見が前述の糖尿病ネットワークのページで読むことができます。ソーシャルネットワークの時代ですから、独りで苦しんでいてはいけませんね。意見をまとめて行動に移しましょう。
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