肩こり/肩こりの原因・しくみ・肩こりに潜む病気

更年期障害? 思い込みは禁物! 更年期の肩こり症状

日本人女性が最も悩む症状・肩こり。そして、更年期障害の症状の中でも、肩こりは一番多い症状です。しかし、更年期障害の治療をしても改善する肩こりは少なく、肩こりの適切な治療を受けずに、かえって症状が悪化してしまう方もいらっしゃいます。今回は、更年期障害の症状と肩こりについてお話しします。

富永 喜代

執筆者:富永 喜代

医師 / 痛みの治療・麻酔ガイド

更年期障害、肩こり、更年期障害の症状、更年期障害の原因

肩こりを更年期障害だと、考えていませんか? 更年期障害で肩こりを訴える人は多いのですが、更年期障害の治療で症状が緩和しない人も多いのです

「肩こりがひどいんです。やはりこれは、更年期障害が原因でしょうか?」と、更年期障害を訴える40代女性が来院されます。しかし、その多くは更年期障害ではなく、また、そのほとんどは更年期障害が原因でおこる肩こりではありません。では、なぜ彼女たちは、肩こりを更年期障害だと思っているのでしょうか?

今回は、更年期障害と肩こりの思い込みについてお話しします。

更年期障害とは

まずは、日本産婦人科学会が定義する更年期障害をご紹介しましょう。

「閉経の前後5年を更年期という。この期間に多種多様な症状の中で、気質的変化に起因しない症状を更年期症状と呼ぶ。これらの中で日常生活に支障をきたす病態を更年期障害と定義する。」とあります。

日本人女性の平均閉経年齢は、50歳です。更年期とは、50歳前後の女性が過ごす、人生の一定期間を示す言葉です。ですから平均的な更年期は、約45歳~55歳すべての日本人女性に訪れます。一方、更年期障害の診断基準は、日常生活に支障がでるほどの更年期症状に悩む状態です。日本人女性では、2人に1人しか発症しません。ちょっと汗をかく、ちょっと疲れやすくなった、少し睡眠時間が短くなったかな、など、軽く気になる程度の症状は、そもそも更年期障害ではありません。

更年期障害の症状と肩こり

日本人女性が悩む更年期障害の症状は、次の通りです。

■ 更年期障害に多い症状(文献1)
  1. 肩こり
  2. 疲れやすい
  3. 頭痛
  4. のぼせ
  5. 腰痛
  6. 汗をかく
  7. 不眠
  8. イライラ
  9. 皮膚乾燥感
  10. 動悸
  11. 気分が沈む
  12. めまい
  13. 胃のもたれ
  14. 膣乾燥感

日本人女性の訴える更年期障害症状の第1位は、肩こりです。そして、欧米に多いといわれる「のぼせ」や「ほてり」が少ないことが特徴です。

なぜ更年期で肩こりがおこるの?

更年期障害が原因で肩こりが起こる機序は、次のように考えられています。閉経間近になってくると、女性ホルモンのエストロゲンが減少します。エストロゲンの欠乏は、筋肉や局所の血液循環に悪影響を与えます。血流が低下した筋肉は酸素不足や栄養低下によって硬くなり、肩こりを感じます。

その肩こり、本当に更年期障害が原因?

肩こりは、厚生労働省が調査する国民生活基礎調査において、日本人女性が悩む症状の第1位です。まさに肩こりは、日本人女性の国民病と言えるでしょう。

しかし、更年期におこる肩こりは、本当に更年期障害の症状なのでしょうか? 若いころから慣れ親しんだ肩こりが、更年期にさしかかって症状が悪化したから更年期障害だ、と決めつけているのではないでしょうか? 肩こりの原因については深く考えず、みんなが通る道である更年期のせいにしているのではないでしょうか? あなたが悩む肩こりは、女性ホルモンの減少が原因なのでしょうか?

更年期障害治療の女性ホルモン補充でも肩こり改善は40%のみ

更年期障害に特徴的な症状は、
  • ほてり(ホットフラッシュ)
  • 発汗異常
  • 不眠
だと言われています。

これら3つの主要症状がなく、腰痛や動悸、疲れやすさ、胃のもたれなどが主な症状である場合には、更年期障害以外の疾患を考慮すべきでしょう。特に、日本人女性が多く訴える肩こりは、更年期障害特有の症状ではありません。更年期障害治療として女性ホルモン補充療法を行っても、肩こり改善は40%ほどに留まるのです。

肩こりには、うつ病や整形外科疾患、心理的ストレス、神経科疾患など、さまざまな原因があります。

更年期障害以外でもこんなに多い! 考えるべき肩こりの原因

■整形外科領域
頸椎椎間板ヘルニア、むちうち症、五十肩、頸椎症、慢性関節リウマチなど

■内科・外科領域
胆石、心筋梗塞、胃炎、膵炎、甲状腺疾患、解離性大動脈瘤など

■耳鼻科領域
鼻炎、副鼻腔炎、頚部腫瘍など

■精神神経科領域
片頭痛、緊張型頭痛、うつ病、心身症など

■歯科領域
歯肉炎、顎関節症など

■婦人科領域
更年期障害

更年期障害は、女性ホルモンが減少することで、さまざまな不快な症状がおこると考えられています。ですから、更年期障害症状を緩和する目的で、女性ホルモン補充療法が行われるのです。しかし、安井らの研究(文献2)によると、女性ホルモン補充療法は、更年期障害に特徴的な症状であるほてりには80~90%の効果があるものの、肩こりに対しては40%しか効果を認めない、と報告しています。すなわち、女性ホルモンの減少が原因でなければ、いくら女性ホルモンを補充しても、つらい症状は改善しないといえるでしょう。

更年期障害のメイン症状、例えば発汗異常やほてりがなく、肩こりだけが症状の場合、それは更年期障害ではなく、あくまで肩こりです。肩こりを更年期障害の一言で片付けて、その症状を悪化させてはいけません。つらい肩こりを治すためには、肩こりの原因となる病気を治療することが大切です。


※参考文献1:廣井正彦ら:生殖内分泌委員会報告(更年期障害に関する一般女性へのアンケート調査報告)、日産婦誌49:433-439,1997
文献2:安井敏之ら:更年期の不定愁訴に対するHRTの可否。産婦の実際59:433-439,2010
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