メンタルヘルス/心の病気の原因・症状・セルフチェック

精神科で血液検査をするのはなぜ?採血の理由

【医師が解説】 精神科や神経科でも採血による血液検査の項目は重要な情報源です。検査結果から、精神症状の原因究明はもちろん、治療計画を変えることもあります。精神科領域でなぜ血液検査が行われるか、詳しく解説します。

中嶋 泰憲

執筆者:中嶋 泰憲

医師 / メンタルヘルスガイド

精神科で血液検査があるのはなぜか

精神科でも血液検査は重要

精神科でも血液検査は重要


風邪などの体調不良で病院を受診した場合、よく行なわれる臨床検査の一つに血液検査があります。でも精神科や神経科の場合は別だと思われている方は多いかもしれませんね。

冴えない気分を何とかしたくて精神科を受診してみたら、いきなりナースから「採血しますね」と言われて、予想もしていなかった検査に血の気が引いてしまった……なんてこともあるかもしれません。

もし、心の病気では血液検査の必要などないと思われていたら、大変な誤解です。たしかに心の病気の診断は通常、臨床検査の結果からではなく、主に、患者さんやご家族の方が話された内容を、患者さんの顔の表情や、話され方なども含め、詳しく分析することで行います。しかし、心の病気であるという診断のみならず、治療計画を立てる上でも、実は血液検査が重要な情報源になるのです。

今回は、精神科領域における血液検査の意義を詳しく解説致します。

<目次>  

うつ病などの心の病気も、治療前の全身状態を知る事が重要

身体の病気のみならず、心の病気のときも、治療開始前の全身状態を把握しておく事は重要です! 例えば、ヘモグロビンの数値を見れば貧血の有無が分かります。もしも白血球が多すぎる、或いは少なすぎる場合は、細菌やウイルス感染など、その原因を探る必要があります。血液検査は原因菌やウイルスを特定するための主要な検査の一つ。場合によっては梅毒トレポネーマなど、脳内に感染する可能性のある細菌のために精神症状が生じていたことが分かる場合もあります。

もしも血小板数が大きく減っていれば、出血傾向に注意が必要です。また、低タンパクなどがあり、食事量の不足が疑える場合は、まずは、栄養補給を考慮したいところ。

血液検査の項目にはGOT、GPTなど肝機能を反映する指標もあります。また、クレアチニンなど腎機能を反映する指標もあります。こうした指標は治療薬を選択する上でも重要な情報源です。例えば、GOT、GPTなどが正常域を超えている場合、肝臓で主に代謝される治療薬に対しては、肝機能低下の程度を考慮して、通常の場合より、さらに慎重になる必要があります。
 

血液検査で精神症状の原因が分かることも

上でも少し触れましたが、場合によっては血液検査の結果で、気持ちが冴えない、或いは眠れないといった精神症状の原因が分かることもあります。その代表的なケースの一つが内分泌ホルモンの機能に問題が生じている場合です。

例えば甲状腺ホルモンは喉元にある甲状腺で産生される内分泌ホルモン。甲状腺ホルモンが産生され過ぎてしまうと、いわゆる甲状腺機能亢進症状が現われてきます。よくある症状の一つが、気持ちが冴えないなどの精神症状です。もしも血液検査をして、甲状腺ホルモンの血中濃度が上昇していれば、精神症状の原因として、甲状腺機能亢進症の可能性を考慮する必要があります。

反対に、甲状腺に炎症などが生じた結果として甲状腺ホルモンの産生が低下してしまった場合、甲状腺機能低下症状が現われてきます。この場合も気持ちが冴えないといった精神症状が現れやすいです。

また、40代後半から50代にかけて出現しやすい更年期障害は女性のみならず、男性も注意が必要。症状の程度には個人差がありすが、イライラ感や不眠などの精神症状が現れやすいのが特徴。血液検査では、性ホルモンの血中濃度が低下していることが分かるので、ここから更年期障害を疑うことができます。
 

治療薬の血中濃度も時に検査が必要

一般的な話になりますが、治療薬の中には、治療効果が期待できる血中濃度と、副作用が現われやすくなる血中濃度との幅が、他の治療薬と比べて、相対的に狭いものがあります。副作用の現れ方には個人差がありますが、もしも出現する可能性のある副作用に深刻なものがある場合、その治療薬の血中濃度が、副作用の出現しやすいレベルに近付いていないかを定期的に確認する必要があります。

具体的な例として、心の病気の治療薬のなかで、血中濃度が定期的にチェックされる代表的なものを1つ挙げると、躁うつ病の治療薬であるリチウムがそうです。

また、血液検査によって、治療薬の副作用自体が現われていないかどうかを調べる事もできます。例えば、ある治療薬を使用した場合、骨髄の造血機能を抑制する副作用があったとします。この場合、血球数の検査を通常より密に行なうことで、骨髄の造血機能に問題のある無しをみていくものです。

さらに、入院治療されていた患者さんが退院されたあと、自宅での毎日で、問題がまた戻ってきた場合、治療薬の服薬状況がそれに関わっている可能性もあり、血液サンプルを検査に出して、その時点での治療薬のレベルを数字に出したい状況もあります。

以上のように血液検査は治療開始直前の全身状態を知るために不可欠であると同時に、治療薬を選択する上でも重要な情報源です。繰り返しになりますが、場合によっては血液検査によって精神症状の原因が分かることもありますし、さらに治療薬の副作用自体が現われていないかどうかを調べることもできます。

このように血液検査は精神科領域でも、やはり必要不可欠な検査! 精神科を受診する際は採血をされるなんて全く頭にないかもしれませんが、血液検査の結果は、治療計画を立てる上でも重要な情報源です。こうした事は是非、頭の片隅に置いておいて下さい。

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