つらい痛みが続くと、慢性疲労、集中力や記憶力低下がおこり、うつ病や自殺の原因となります
非がん性慢性痛とは、がん以外の変形性関節症や腰痛症など、3か月以上続く、生活を脅かすほど強烈な痛みを伴う病気です。その激しい痛みに対して、強力な鎮痛剤であるオピオイドを、乱用や依存を形成することなく適正に処方する指針です。
オピオイドとは
オピオイドは、アヘンが反応し結合する受容体、オピオイド受容体にくっつくことができる化合物の総称です。オピオイド受容体には、3つの種類があります。μ(ミュー)、κ(カッパ)、δ(デルタ)受容体と呼ばれ、脳、脊髄神経、末梢神経と、体中の神経組織に存在しています。オピオイドの作用機序
一般的に痛み止めと呼ばれる薬は、NSAIDs(エヌセイズ:消炎鎮痛剤)です。ロキソニンやボルタレン、イブプロフェンなどの消炎鎮痛剤は、局所で炎症を引き起こすプロスタグランディン類の生成を抑制することで、痛みを止めます。一方、オピオイドはNSAIDsと違い、脳から痛みを緩和します。オピオイドは、脳から脊髄、脊髄から末梢神経に向かって痛みを抑制する経路の働きを増強することで、痛みの伝達自体を脳に伝えにくくします。その結果、強力な鎮痛作用を持つ仕組みです。
オピオイドが非がん性慢性痛に使われるワケ
がん以外の原因となる病気が何であれ、3か月以上つらい痛みで悩んでいると、一体、どうなるでしょうか? 仕事、趣味、家事、学業など、自分がやりたい、もしくは、やらなければならないと思っていたことも、十分行えなくなり、やる気や集中力、記憶力の低下まで引き起こします。思うように働けないことは収入低下と経済的困窮につながり、家事や学業に差しさわりが出ることは、家庭崩壊の原因になります。痛みストレスは、なかなか周囲にわかってもらいにくい特徴があります。ストレスから孤立感を深め、無力感を感じる心のストレスまで生みます。その痛みが悪化していくと、うつ病や自殺の原因になる場合もあります。慢性に続く痛みは、あなたの全てを奪う「影の殺し屋:サイレントキラー」なのです。
オピオイドは、その強い鎮痛作用で、痛みで失った食欲、睡眠、楽しみ、仕事など、日常生活を改善することが立証されています。痛みで打ちのめされたあなたが、本来のあなたとして生まれ変わり、あなたらしく生きる人生のサポーターとして、オピオイドは強い見方です。
オピオイドの分類
WHO(世界保健機構)は、1986年にがん疼痛治療法の薬を3種類に分けました。・非オピオイド
・弱オピオイド
・強オピオイド
日本のオピオイド分類は、このWHO分類に加え、「麻薬及び抗精神薬取締法」と「薬事法」での分類があります。
・医療用麻薬
・向精神薬
・習慣性医薬品
・規制の全くない薬物
非がん性痛に適応のあるオピオイドの分類
全てのオピオイドが、非がん性疼痛に処方されるわけではありません。日本では、非がん性慢性(疼)痛に対するオピオイド鎮痛薬使用は、「麻薬及び抗精神薬取締法」と「薬事法」で適応薬が厳密に定められています。
オピオイドの副作用
強力な鎮痛作用を持つオピオイドは、適正に使用されないと薬物乱用と依存の可能性があります。なぜなら、非がん性慢性(疼)痛では、がん性疼痛の治療期間より長期間続くからです。がんでオピオイドを内服する期間は、数週間から長くとも数か月。しかし、非がん性慢性(疼)痛では、何年も症状が続くため、長期間服用による副作用が出ることがあります。具体的には、吐き気、便秘、ふらつき、眠気、腸機能障害、性腺機能障害、痛覚過敏、乱用と依存症などです。
オピオイド治療の注意点
オピオイド鎮痛薬は、心因性の痛みに使用してはいけません。オピオイド受容体は、気持ちの浮き沈み、性格、気分、情動に影響する受容体です。精神疾患を併発している患者さんは、オピオイドの乱用や依存になる可能性が非常に高く、がん性疼痛以外の痛み治療として、オピオイドを使うべきではありません。また、覚せい剤やアルコール依存症など、薬物依存症になったことがある人も危険です。オピオイド鎮痛薬の使用は、長期に診ていただける、信頼のおけるお医者さんに相談しましょう。
参考文献:
非がん性慢性(疼)痛に対するオピオイド鎮痛薬処方ガイドライン
日本ペインクリニック学会
非がん性慢性(疼)痛に対するオピオイド鎮痛薬処方ガイドライン作成ワーキンググループ編