絵本/絵本の基礎知識

絵本がもたらす効果とは? 子どもの心の栄養に

絵本は、子どもたちにとって、文字や言葉の発達を促すだけでなく、心の成長・発達のために欠かせない存在だと言われています。「絵本は心の栄養」と言われるのはそのためです。そこで 今回は、絵本がもたらす心の栄養・効果について考えます。

執筆者:大橋 悦子

絵本は本当に心の栄養になるの? 子どもに与える効果

絵本が子どもにもたらす効果

絵本が子どもにもたらす効果

絵本は、子どもたちにとって、文字や言葉の発達を促すだけでなく、心の成長・発達のために欠かせない存在だと言われています。「絵本は心の栄養」と言われるのはそのためです。でも、絵本は心にとって、本当に栄養価の高いものなのでしょうか? そもそも、心の栄養って何でしょうか? その答えを探しながら、絵本のもつ力について考えてみましょう。
   

子ども特有の「絵本の楽しみ方」が心の栄養に!

心の栄養をあらわすイメージ画像

絵本が心の栄養なら、どんどん摂取して成長したいものです

絵本は、絵と言葉が織りなす芸術です。でも実際には、幼い子どもたちはまだ字が読めませんから、文字ではなく、絵と読み手の声から絵本に触れることになります。芸術を楽しむために、第3者の手を借りることが前提になっているなんて、絵本だけかもしれません。

絵本だけの、特有の楽しみ方は他にもあります。例えば、絵本を楽しむ子どもたちは、その内容だけを楽しんでいるのではありません。お母さんのお膝で絵本を読んでもらっている子どもたちを観察してみましょう。子どもたちは、母親の肌の温もり や息遣い、あるいはお母さんから香る洗濯物の匂いなど、母親と自分の間にある様々な情報を感じとって、その絵本の内容だけでなく、「読んでもらうこと」も、体まるごとで楽しんでいるように見えます。そこには、「目と目で通じ合う」というような、言葉を伴わない相互コミュニケーションが存在しています。

時には、「面白いね」とか「○○ちゃんと一緒だね」といった読み手からのアプローチをきっかけにして、言葉でのコミュニケーションが活 発に行われます。けれども、絵本を読むうえでは、言葉を交わさないコミュニケーションが確かに存在することを忘れてはいけないと思います。

子どもたちは、読み手との信頼関係を基盤に、絵本を仲立ちとしたコミュニケーション(会話の有無は問わない)を通じて、絵本の中の経験を大人と分かち合っていきます。この瞬間を、本当に幸せな時間だと感じる大人は少なくありません。それはきっと、子どもたちも同じではないでしょうか。

絵本を通して、親子間で幸せな時間を共有するという経験は、子どもたちの情緒の安定につながります。これは、絵本がもたらす心の栄養の中でも、最も大切なものの1つといってよいでしょう。
 

絵本からの贈り物―少女クシュラの場合

『クシュラの奇跡undefined140冊の絵本との日々』の表紙画像

祖母と孫という間柄にも拘わらず、とても客観的に綴られた成長記録

みなさんは、『クシュラの奇跡 140冊の絵本との日々』という本をご存じでしょうか? およそ30年前に出版されたこの本は、重い障害を持って生まれたクシュラという女の子と、その成長に関わった140冊の絵本について、祖母が綴った成長記録です。

クシュラは生後間もなく、視覚・聴覚・運動機能などの面で異常が見つかり、精神遅滞も疑われていました。そんな中、生後4ヶ月のクシュラが、絵本の読み聞かせに強い興味を示したことをきっかけに、絵本とクシュラの深い付き合いが始まりました。クシュラは、絵本を通じて豊かな言葉を獲得していきます。けれど著者は、本当に重要なのはそのことではないと述べています。
 
愛情と援助が一貫してあたえられている環境で、言葉と絵の宝庫にふれさせたことは、全般的には認知の発達、特に言語の発達において大いに役立った。だがおそらく、クシュラの読んだ本が、クシュラに大勢の友だちをあたえたことこそ、何よりも重要である。

ここでいう大勢の友だちとは、ピーターラビットやガンピーさん(※ジョン・バーニンガムが作った絵本の主人公の名前)、ねこや王さまやとらやくまといった絵本の中の登場人物を指します。自分1人では見ることも物を持つこともできなかったクシュラに、絵本が外界という「自分と家族以外の世界」の存在を教えることになったのではないでしょうか。しかも、クシュラはそこで、友だちという素晴らしい存在まで見つけることができました。

その後、絵本によって豊かな言葉と広い世界を知ったクシュラが、時に健常児をしのぐ得意分野を持つにいたったという事実に、驚きと感動を禁じえません。

外界を知ることは、世界が広がること。それは、幼い子どもにとって冒険にも似たワクワク・ドキドキの体験だったことでしょう。よく、絵本は子どもの想像力や創造力を育むと言われますが、絵本以外のツール(例えばおもちゃなど)でも、同じような効果が期待できるものがたくさんあります。けれど、幼い子どもが自らの力で、自分の内面世界を広げていくことができるものは、絵本以外にはちょっと思いつきません。絵本は、子どもの世界を広げ、心の成長を促す大きな糧となる栄養だと言えますね。

さて、絵本が力を発揮するのは、本を読んでいるときだけとは限りません。「はい、おしまい」とページを閉じたその後にも、絵本からは子どもたちに向けて意外な働きかけがあるようなのです。
 

絵本を読み終えた時から働き始めるもう1つの栄養

絵本の世界に遊ぶ少女のイメージ画像

イメージの世界なら、動物もぬいぐるみもみんな話せる友だちです

子どもたちは、絵本を読んでいる間、絵本の世界で遊びますが、絵本を読み終えた後も、この遊びは続きます。絵本の主人公になりきってごっこ遊びをする幼子を見たことがありませんか? その子どもたちは、遊びの中で絵本の中のイメージの世界と現実の世界を行き来しながら、現実世界では成し得ない経験を積んでいるといわれます。豊かな生活体験が、子どもたちの成長に欠かせないことからすれば、この遊びの世界は大きな意味のあることと考えられます。

「イメージの中の疑似体験をいくら積んでも、成長の役には立たない」とお考えの方もいるかもしれません。けれど、遊びにどっぷりとつかっている子どもにとっては、絵本の世界と現実の世界の境界はあいまいで、区別がつきにくいようなのです。実際に、お話に夢中になった子どもたちの中には、絵が動いて見えたという子がたくさんいます。

大人になってしまった私たちには、何とも不思議な世界ですが、それが事実なら イメージの世界の疑似体験も、子どもの成長にとっては無視できないことです。現実の世界だけでは得られない数多くの経験、これらもまた心の栄養になることは間違いないと考えます。

さて、最後にもう1つだけ、大人にもわかる心の栄養についてお話します。それは、両親にとっての心の栄養です。絵本を仲立ちに親子で共有する幸せなひとときや、読み聞かせに目を輝かせる子どもたちの姿に、子育ての喜びを感じない人はいないでしょう。子どものために読んだ絵本に、親が心を揺さぶられたり、心が満たされるような感覚を味わうこともあるかもしれません。

そういったたくさんの出来事が、わが子への愛情を深め、子育てへの意欲を高めてくれる……これもまた、絵本が私たちの心へ届けてくれる栄養です。いえ、栄養というよりは、ご馳走かもしれませんね。美味しくいただきながら、親子の心を満たし育ててくれるご馳走、それが絵本の本質なのかもしれません。

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