糖尿病/1型糖尿病

1型糖尿病を完治したい!?その(1) 免疫療法

インスリンが使えるようになった1923年5月のニューヨークタイムズ紙は「糖尿病は治癒できる!」と宣言しました。残念ながら90年たった今でも完治できません。でも、夢の実現に大きな進歩があります。

執筆者:河合 勝幸

大切な子どもを何んとか1型糖尿病から救いたいものです。たくさんの研究が進行中です。(写真は糖尿病とは関係ありません)(c)2010,KAWAI Katsuyuki

大切な子どもをなんとか1型糖尿病から救いたいものです。たくさんの研究が進行中です。(写真は糖尿病とは関係ありません)
(c)2010,KAWAI Katsuyuki

2011年6月、サンディエゴ(米国)で開催された米国糖尿病協会(学会)の第71回大会で、一枚のポスター発表の前に人だかりが出来ていました。
なんと、結核予防で使われるBCG(ビーシージー、牛の結核菌から作った生のワクチン)の投与で、発症後15年もたった1型糖尿病患者のCペプチド血中濃度が上昇したというのです。
つまり、自分のインスリン分泌能が少し回復した可能性を示すものです。

この話の紹介は後述しますが、不治の病と思われていた1型糖尿病の予防や治癒に向けて、世界中の医師、研究者たちが実にさまざまな方法や斬新な発想で挑戦しています。
1型糖尿病と共に生きるのは大変なことでしょうが、こんなにも大勢の人たちが注いでいる努力を知れば、とても心強くなることと思います。
研究者たちは遠くない将来での実現を目指していますよ。

ノボ ノルディスク社、シアトルに1型糖尿病研究開発センターを設立

ノボ ノルディスク ファーマ株式会社(東京)から2012年2月にこのようなプレスリリースがありました。
糖尿病ケアにおける世界のリーディングカンパニーであるノボ ノルディスク社(本社:デンマーク)が長年培った糖尿病治療の専門知識と、高まりつつある免疫療法における知識を当センターで一体化させる計画です。

これで1型糖尿病に関する予防薬・治療薬の開発を、動物モデルから小規模臨床試験へと速やかに移行させることが出来るようになるでしょう。
新センター長には1型糖尿病の免疫療法の第一人者、マチアス フォン ヘラス医師(Matthias Von Herrath,MD)が就任しました。

フォン ヘラス医師(ラ ジョラ アレルギー・免疫研究所、カリフォルニアの教授でしたが、今後も非常勤で兼任)らの開発した糖尿病ワクチン(diabetes vaccine)はマウスのような動物モデルでは既に大きな成功を収めています。
「マウスでは1型糖尿病を数多く治癒できた」とフォン ヘラス医師は言っていますが、ヒトでは別の難しさがあるようです。
幾つかの糖尿病ワクチンは、当初はヒトのベータ細胞の機能を保持するように見えますが、最後にはだめになってしまいます。

初期の試験で期待が持てるような結果が出ていた1型糖尿病の主要な自己抗原であるGAD65による免疫療法も、「1型糖尿病を発症したばかりの患者に投与してもベータ細胞を救うことが出来なかった」という残念な報告が昨年の5月や今年(2012)の2月にありました。
[N Engl J Med 2012;366:433-42]

ただ、同様のGAD65試験が他にも複数行われており上記のフォン ヘラス医師の意見では、薬の最適な投与法を見つけることが鍵ではないかということです。
つまり、マウスの実験でも薬の最適量や投与ルート、回数などが重要なポイントだったので、ヒトでも更にチャレンジすべきだとします。
もちろん、ヒトでの免疫療法の試験は年月もばく大な費用もかかるものですから、今回のノボ ノルディスク社の1型糖尿病研究開発センターの開設は、基礎研究成果を速やかに実用化につなげる橋渡しの役目が期待できそうです。

BCGで進行した1型糖尿病を治療する可能性が……

この研究を行ったのはハーバード大学医学部の教育病院として名高いマサチューセッツ総合病院の免疫生物学研究所ディレクターのDenise Faustman MD,PhD,のグループです。
1型糖尿病は自己免疫病の一つであることはよく知られています。自分の体を侵入した異物から守る免疫システムに、遺伝や環境要因によってインスリンを生成・分泌する膵臓のベータ細胞を破壊するスイッチが誤って入ってしまうのです。

全身の細胞は自己を表わす標識を細胞の表面にHLA抗原として掲げていますが、特定のHLA分子に自己抗原の断片が入り込めば、非自己として自己反応性T細胞(悪玉)を呼び覚ますことはあり得ます。
そして、自己反応性B細胞が抗体をたくさん作って特定の自己組織を破壊してしまうのです。遺伝的に自己抗原がHLA分子に入り込みやすい人と、入り込みにくいHLA分子を持っている人がいると考えられています。

今までの1型糖尿病の免疫療法の多くは、この混乱した免疫システムを糖尿病ワクチンでなだめて、ベータ細胞に反応しない「寛容」を獲得することを目指してきました。

別の発想からDr. Faustmanらは死んだ自己反応性T細胞を計測する方法を開発し、90年も前から使われている安全な結核予防ワクチンのBCGが、自己反応性T細胞(悪玉)を殺すことを利用して1型糖尿病を治す計画を立てました。

自己反応性T細胞(悪玉)はBCGが高める免疫システムのサイトカインの一つ、腫瘍壊死因子(TNF)のレベルを上げると死んでしまうことがマウスの実験から分かっていました。1型糖尿病で死にそうなマウスを回復させることが出来たのです。TNFは正常なT細胞(善玉)を殺すことはありません。

この研究はまだ第1相試験が終ったばかりですから過大な期待は禁物かも知れません。
試験は1型糖尿病歴の長い(平均15年)6人を選び、二重盲検法で二分して片方の3人に微量のBCGを4週間の間隔をあけて2回接種しました。残りの3人はプラセボ(偽薬)です。

血液のサンプルは非糖尿病の6人の参加者とも比べられ、更に参照サンプルとして糖尿病者75人、健常者15人の血液も分析されました。

この結果、BCGの3人の血液には明らかに死んだ自己反応性T細胞(悪玉)が多く認められました。
しかもこの内の2人にはCペプチドのレベル上昇があったのです。
自己免疫病は病気が進行するほど手強くなるので、今までの1型糖尿病の免疫療法は発症したばかりの患者が選ばれていました。
ところが、この研究では病歴の長い患者を治療の対象に選んだのです。なんとなく、うれしいですね。(つづく)

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