日本酒/酒造、酒蔵訪問

「田」から生まれるもののみで醸される「酒」、田酒

ねぶた祭を目前に控えた夏の青森市。市内に唯一のお蔵元である西田酒造店を訪ねた。あの全国的に人気の「田酒」を造るお蔵元だ。米造り、酒造り、震災のこと、これからのことなどを西田社長にうかがった。なお、一般の見学、販売は行われていないのでご注意を。

友田 晶子

執筆者:友田 晶子

日本酒・焼酎ガイド

震災、猛暑を乗り越え、早めの酒造りがスタートした

ねぶた山車

立体的で迫力のあるねぶたの山車。

今年のねぶたは熱かった。
それは東日本大震災でなくなった方々への鎮魂の意味が含まれていたからだ。

祭の前に青森市内のお蔵にてお目にかかった西田酒造店代表取締役西田司氏は、「弘前のねぷたは出陣の祭で、青森のねぶたは凱旋の祭」と説明してくださった。

西田社長も昔はハネトとして参加されていたとか。今は体力が……と笑いながらも「ただ跳ねるだけでなく、実は流儀がある」と実際に跳ね方を見せてくださった。

日本全国どこの伝統祭にもいえることだが、本筋の流儀で踊る祭人の姿はなんともいえず趣がありかっこいいものだ。夏の時期、町中にはハネトの衣装が売られているしレンタルもあるのだとか。来年訪れたときには、見るだけでなく参加してみるのもいいかもしれない。

蔵

落ち着いた風情のお蔵。見学も販売も行われていないので、不用意に扉を開けてはいけない

ねぶたが終わると、本州最北端にはいち早く秋の風が吹く。猛暑を乗り越えた今年の米も滞りなく収穫され、「田酒」「喜久泉」を造るここ西田酒造店では、9月26日に早めの酒造りがスタートした。

 

全国人気の「田酒」とはどういう酒なのか

麹室

麹室でお話される西田社長。常に清潔に保たれる。この場所は味わいのカナメでもある

「田酒」は昭和45年に着手し、3年をかけ商品化された西田酒造店の人気ブランド。由来は、「酒の元になる米がとれる田んぼ」から。酒の源である田から生まれるもののみを使用し丁寧に造る酒という意味が込められている。

完全なる手造りで仕込まれ、活性炭不使用のまま商品となる純米酒は、淡い山吹色に輝く美しい色と、清らかな中にも風格ある米の旨味を感じさせてくれる。

日本酒愛好家が田酒にひきつけられる魅力は、ずばりこの味わいにある。

ロック酒

夏向きの原酒。オンザロックで楽しむ。決して味は薄まらない

今年の夏に訪れた際には、オンザロックで飲む『田酒 特別純米酒 原酒』をおすすめいただいた。冷たくて喉ごしがいいだけでなく、氷が溶けるといくぶんアルコールが和らぎ絶妙の味わいバランスになるのだ。みごとに計算された夏用の酒という印象。冷たくても米の旨味が感じられるところが実に田酒らしい。

 
比較的手に入りやすく洗練された旨味で人気の『特別純米酒 田酒』以外は、基本的に、季節限定。

もろみタンク

夏の間はひっそりとしている仕込蔵。秋からの仕事の鋭気を養う期間でもある。

たとえば、『純米大吟醸 百四拾 田酒』は、青森県推奨の酒造好適米「華想い」を使用した大吟醸。「百四拾」とは「華思い」と命名される前の青森県農業試験場系統名「青系酒米140号」に由来している。大吟醸向きの品種で山田錦にも劣らない酒になる。平成15年より発売。

『田酒 古城乃錦』は、青森県産初代酒造好適米「古城錦」を使用したもので、平成3年より製造されている。青森市内限定商品。

実はあまり知られていないのが『田酒 純米大吟醸』。10月末より発売される山田錦使用の品格ある逸品。食の専門家には「日本酒の芸術品」と言わしめた。


伝統の地元酒「喜久泉」

喜久泉看板

歴史と重みを感じる喜久泉の看板。地元で愛される人気ブランドでもある

創業より造り続けられている銘柄が「喜久泉」だ。
この地に涌く軟水の「泉」を酒造りに活かしたことと、この酒を飲む人々に幾久しく喜びが続くようにとの願いを込めて命名された。

必要最低限の醸造アルコールを使用した淡麗で軽快な味わい。華やかな中にもすっきりと飲み飽きしない大吟醸、吟醸、本醸造、糖類を一切使用しない普通酒というラインナップだ。

『大吟醸 善知鳥』は山田錦使用、『大吟醸 百四拾 善知鳥』は地元米「華思い」を使用。「善知鳥」とは「うとう」と読む青森の海鳥のこと。

貝

獲れたて新鮮な貝類と一緒に。繊細な旨味が引き立つ

お手頃な価格がうれしい『吟冠 吟醸酒 喜久泉』などは、青森市内の居酒屋で、サザエやあわび、ホタテなどの新鮮な貝類と飲むともう涙ものだ。

 

ライブ

市内の居酒屋では民謡ライブが。酒の味もひとしおだ

市内には、津軽三味線と民謡のライブを楽しめる居酒屋が何件かある。情熱的で叙情的な民謡を聴きながら飲む田酒(いや、地元なら喜久泉か)は格別だ。田酒ファンなら一度は地元で味わうべき。

 


震災で被害をまぬかれたことに感謝と責任を

庭

美しいお庭にて

西田家の酒造創業は明治11年(1877年)。
元禄年間に近江の国から、「青森」発祥の地でもあり港町として大いに栄えたここ大浜油川に移り、居を構えた。

「薄い酒は好きじゃない。しっかりと旨味のある酒が好きだし、そういう酒を造っていきたい」と力強く言い切る。炭ろ過をしていない酒は黄色い色が付くが決してひねているわけではない。これが日本酒本来の色なのだ。味わってみればすぐわかる。旨味はあるけれど、嫌味、雑味、エグ味が一切ない。

「はい、結構、ボクは飲みますよ」と笑いながらお話される西田社長はとてもチャーミングだが、お話の端々には、確固たる酒造りへの信念が垣間見える。
現在の生産量2500石。現在の蔵を建てて25年。2000坪の広さのある蔵で、16名のスタッフをまとめている。

エントランス

まるでねぶたの山車の様な一升瓶のオブジェがあるエントランス

また、全国蔵元と酒販店43社がタッグを組み日本酒文化の普及向上をめざす任意団体「和醸和楽」の会長を務め、「0杯から1杯」をスローガンに、チームの先頭を走っている。

 

座敷

お蔵の中には涼しげなお座敷が。このときは夏仕様だが、冬には温かみのある風情にかわる

酒造界では新年となる秋、同じ東北地区でも多大な被害を受けた清酒蔵がある中で、運よく大きな被害を免れ例年通りの酒造りを行えることに「感謝」と「責任」を感じ、新たな気持ちで今年度の酒造りにまい進しはじめた。

また市場では、そろそろ新しい限定酒の流通が始まる。予約殺到で手に入れられない銘柄もある田酒だが、ひとたび口に含めば「ああ、これぞ田酒」と感動させてくれる。米の味、水の味、田んぼの味、そう、農耕民族のDNAがうち震えるような魂に訴えかけてくる味だ。それを今年も堪能できると思うと、飲み手としても、造り手に、水に、米に、田んぼに、心より感謝申し上げたい気分になる。

★西田酒造様では、一般見学・販売は行っておりません。もし観光などで訪れたときには、趣のあるお蔵の姿を外から静かに眺めるのも一興。

<買える店>
小泉商店(東京都台東区)

<飲める店>
手打ち蕎麦  大庵(東京都新宿区)
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