子宮の病気/子宮がん (子宮体がん・子宮頸がん)

妊娠中の子宮がん検診で異常が見つかったらどうするか

子宮頸がんは、ワクチン接種と定期検診で予防できる唯一のがん。子宮がん検診を妊娠前に受けておくのが望ましいのですが、妊婦健診で初めて検査を受ける方が多いのも事実です。妊娠中の子宮がん検診の実際、妊婦さんが子宮頸がんなどの異常を指摘された場合の対応法について解説します。

藤東 淳也

執筆者:藤東 淳也

産婦人科医 / 子宮の病気ガイド

子宮頸がんとは

妊婦

子宮頸がんはワクチン接種と定期検診で予防できる唯一のがん。できれば妊娠前に子宮がん検診を受けてほしいけれど、妊婦健診で初めて検査を受ける人が多いのも事実です

婦人科のがんで最も一般的な子宮がんには、子宮頸がんと子宮体がんがあります。妊娠中に問題になるのは、子宮の出口付近にできる子宮頸がんの方です。

子宮頸がんのリスク・傾向

子宮頸がんは、初交経験が早いほど、パートナーの数が多いほど、また、出産回数が多いほどなりやすいと言われており、これは統計学的にも明らかになっています。昨今、ウイルス研究の進歩によってHPV(ヒトパピローマウイルス)の感染が子宮頸がんの発生にかかわっていることが明らかにされてきました。2009年より、日本でも発がん性HPV感染を予防する、子宮頚がん予防ワクチンが接種可能となっています。

子宮頸がんの発生過程

子宮頸がんはある日、突然「がん」になるわけではありません。正常な細胞が徐々に変化してがん細胞になるまでの間に「異形成」という状態があります。HPV感染をきっかけに、軽度異形成→中等度異形成→高度異形成(前がん状態)→上皮内がん(ごく初期のがん)というように、がんが発生していきます。がんになるまで通常5~10年以上の長い時間がかかります。即ち、子宮頸がん検診を定期的に受けることは子宮頸がんを早く発見するためではなく、前がん状態を発見することになるのです。

このように、子宮頸がんはワクチン接種と定期検診で予防できる唯一のがんなのです。できれば妊娠前に子宮がん検診を受けてほしいけれど、妊婦健診で初めて検査を受ける人が多いのも事実です。

妊娠中に子宮がん検診をする理由

現在、日本人女性が初めて妊娠する平均年齢は31歳となっていますが、子宮頸がんの前がん状態や上皮内がんが見つかる最多年齢は30代で、20代の女性も少なくありません。しかも初期にはまったく症状がないので、検査で発見するほかありません。20歳以上の女性に子宮頸がん検診を受けるように勧められていますが、約20%の人しか検診を受けていないのが現状です。
妊娠してはじめて産婦人科を受診する女性も多いため、妊婦健診時に子宮頸がん検診を行うことが大切なのです。早期発見は、おなかの赤ちゃんと妊婦さん自身を守ることにつながります。

子宮頸がん検診は、母子健康手帳の交付を受けた妊婦さんは全員、受けることができます。母子健康手帳と同時に、妊婦健診費用の補助を受けられる助成券が交付され子宮頸がん検診も助成の対象となっていますので、無料で検査を受けることが出来ます。不明な点は、自治体や通院している医療機関に確認しましょう。

子宮頸がんの原因はHPV(ヒトパピローマウイルス)

子宮頸がんは、ほぼ100%、HPVの感染が原因です。ただし、HPVは、かぜウイルスのように身近なありふれたウイルスです。主に性行為で感染しますが、キスや手指からも移り、女性だけでなく男性ももっています。つまり、セクシャルデビューした人なら、誰でもHPVに感染する可能性があるのです。

HPVに感染しても必ずがんになるわけではありません。HPVは約100種類あり、そのうちの10数種類が子宮頸がんの原因になります。これらのHPVに感染したとしても、多くは数年以内に自然に消滅してしまいます。しかし、なかには免疫などの関係で、感染状態が長く続いて細胞が変化し、がんになる人がいます。

HPVは妊娠中の赤ちゃんへの感染、出産時の産道感染、どちらも心配はありません。また、HPVそのものが妊娠の継続、赤ちゃんの発育に影響する心配もありません。

子宮頸がんの細胞診の方法・安全性

妊婦健診で行う子宮頸がん検査は細胞診と言われるものです。子宮頸がんは、普通の婦人科診察で見ることができる子宮の出口にできるがんであるため、細胞診では、ヘラやブラシなどの器具で軽く粘膜をこすり細胞を採取することが可能です。これを顕微鏡で観察して、がん細胞や異形成の有無を調べます。数秒ですむ検査で、組織を採るわけではないので痛みや出血もほとんどありません。流産につながる心配は全くなく、検査が妊娠経過に影響することもありませんので、安心して受けてください。

妊娠8週ごろ、遅くても10週までの妊娠初期に、検査を行います。これは、検査の結果、精密検査が必要になった場合、妊娠初期のほうが出血などのトラブルが起こりにくいためです。そして、万一、子宮頸がんが見つかったとしても、早く対策をたてることができます。

子宮頸がんの細胞診の検査結果

細胞診の検査結果は、日本では従来から、クラスIからVまでに分類する「日母分類」という独自の判定を行っていました。クラスIは「正常細胞の陰性」、クラスIIは「異常な細胞があるが良性の陰性」でどちらも心配ありません。クラスIIIは「悪性を疑うが断定はできない擬陽性」の状態を指し、さらにIIIa「悪性を少し疑い軽度・中等度異形成を想定」と、IIIb「悪性をかなり疑い、高度異形成を想定」に分けられています。クラスIV・Vは「がんと想定される陽性」です。

一般的に、細胞診を受けた人の95%は陰性です。5%は疑陽性または陽性ですが、このうちの20%が異形成、さらにそのうちの10分の1か半数ぐらいが子宮頸がんと診断されます。子宮がん検診で異常を指摘されると、びっくりして心配される方が多いのですが、実際はがんと診断されるのは極少数で、大部分は自然に消える可能性のある異形成や良性の異常です。

また、細胞診のクラスIIIをがんのステージIIIと間違え、かなり進んだがんと勘違いしてショックを受ける人もいます。子宮頸がんの程度は臨床進行期(ステージ)I、II、III、IVという数字で現しますが、これは精密検査でわかるもので、細胞診ではわかりません。細胞診の結果で示される数字は、がんのステージとは別のものなので、注意が必要です。平成21年度からクラス分類はベセスダシステムという様式に改定されることになりましたので、このような混乱も整理されることになるでしょう。

子宮頸がんの細胞診結果が陽性……異常が指摘された場合

細胞診でクラスIII以上の擬陽性あるいは陽性となった場合、必ず精密検査を行います。コルポスコープと呼ばれる拡大鏡を使って子宮頸部の粘膜の表面を拡大して、詳しく観察します。コルポスコープでのぞきながら、米粒大の組織を採取して顕微鏡で観察するのが、組織診です。組織診の所要時間は3分程度で、軽い痛みと出血を伴います。

妊娠していない女性の場合、出血は数日で止まりますが、妊婦している場合、とくに妊娠12週以後では出血が多少多くなります。しかし、流産などの心配はありません。

妊娠中に子宮頸がんと診断された場合の方針・治療法

妊娠中に診断される病変の大部分は異形成、または上皮内がんです。妊娠していなければ、高度異形成、上皮内がん、および、ごく初期のがんの場合、子宮頸部の異常な組織を取り除く「円錐切除術」を行います。これは、子宮頸部をレーザーや高周波メス(電気メス)で円錐状に切りとる手術。手術時間は一般的には5~10分程度で、2泊3日程度の入院で行われますが、日帰り手術で行っている施設もあります。

しかし、円錐切除術でメスが入るのは、出産が始まるまでキュッと閉まっている必要がある子宮頸部です。ですから、妊娠中の手術は必要最小限にとどめ、組織検査で上皮内がんまたは、それ以下であれば、出産まで注意深く経過を観察することになります。ただし、出産後は定期的に検査をして、治療方針をたてます。

もし既にがんになっていることが判明した際には、その広がりと深さによって対応がことなってきます。子宮頸がんは表面に限局している段階を0期(上皮内がん)、少し浸潤している段階をI期としています。さらに、このI期をがんの拡がりと浸潤の深さによりIa1, Ia2, Ib1,Ib2 と細かく分類しています。

上皮内がん、Ia1までのがんの場合には、円錐切除術を行い、妊娠を継続することも可能です。妊娠中に円錐切除術を受けると、産道の一部である子宮頸管が短くなるので流産や早産をおこしやすくなります。そのため子宮頸管が開かないように、子宮頸管縫縮術という子宮頸管を糸で締める手術を同時に行なうこともあります。ただし、この手術を受けると、妊娠10ヶ月になって締めていた糸を抜いても、くくりつけていた部分が硬くなり、いざ分娩というときに子宮頸管が裂けたり、胎児の頭が下降しにくくなることもあります。

Ia2期以上になると次第にリンパ節などへの転移の可能性もでてくるので基本的には妊娠中であっても子宮摘出を含めた手術が必要となります。特殊治療として、胎児の生存をはかりつつ抗癌剤治療を行い、胎児の体外生活が可能な時期に帝王切開と同時に子宮頸がんの手術を行う方法も報告されていますが、安全性が確立している方法ではありません。

がんと診断された場合、ご主人と一緒に十分な説明を受けた上で、担当医と話し合って方針を決定することが大切です。 場合によってはセカンド・オピニオン(他の専門医の意見を聴くこと)もよいでしょう。
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