心臓・血管・血液の病気/心臓・血管・血液のしくみ・初期症状

効果的な対策法は? 災害時の二次的ストレスと心臓病

熊本地震では2016年4月下旬現在も油断できない状況が続いています。まだ救出されていない方々の安否はもとより、被災者の方々の健康が心配ですし、これからからだを守ることがより重要と感じます。被災者の方々のストレスによる心臓や血管の病気について、原因、予防、治療の観点から解説いたします。一般の方々にもいざという時のご参考になるでしょう。

米田 正始

執筆者:米田 正始

心臓血管外科専門医 / 心臓病ガイド

災害

思いがけない大震災によるストレスは、被災後の健康も害する恐れがあります

あの悲惨な東日本大震災の記憶も薄れていない中で、今回の熊本地震でも大勢の方々がお亡くなりになったり、避難所生活を強いられていることにつきまして、心からお見舞い申し上げます。皆さまざまな形での支援活動を行っていても、多くの問題が今なお続いています。そのひとつが被災者の方々の健康問題です。

最大級の地震や津波、それらによって肉親や友人知人が亡くなったり行方不明になられたこと、苦労して整備した家や街が変わり果てた姿になってしまったこと、避難所のさまざまなご苦労、今後の仕事や生活への不安、あるいは放射線の恐怖や見通しが立たない苛立ち……大きなストレスが幾重にも重なった状況は察するにあまりあります。

またそれによる健康への負担は過大なものがあると思います。被災者の方々がまず健康を守り、あるいは回復されることが急務です。

ここではそうした観点から、大きなストレスが心臓や血管にどう影響するか、どういう対策を立てればよいか、などを解説します。

ストレスは心臓や血管に影響するか

過去の事例として、2007年7月に発生した新潟県中越沖地震の後には、被災者の中に「たこつぼ型心筋障害」を発症した方が多く、地震とその関連のストレスによるものと報道されたものが挙げられます。この病気になると左心室の先端側が収縮しなくなり、左心室の形がたこつぼに似てきます。狭心症や心筋梗塞のときの姿に類似しますが、冠動脈に狭窄がないため、まったく別の病気なのです。通常は利尿剤や血管拡張剤などのお薬で治します。このたこつぼ型心筋障害とストレスとの因果関係はまだ証明はされていませんが、肉体的・精神的ストレスのあとに発生しやすいという報告があり、なんらかの因果関係はありそうです。

5年前の東北関東大震災の被災地で活動された医師のご意見でも、高血圧が大変悪くなっているかたが多かったとのことで、これも薬を失って服用できないことに加えてストレスが関与している可能性が高いです。

過労死

ストレスがたまりすぎると過労死の恐れがでてきます

また、ストレスの体への影響の一例として、仕事のストレスによる過労死が挙げられます。仕事の上でのストレスのため、狭心症・心筋梗塞などの虚血性心疾患や脳出血などが起こることが知られています。

たとえば厚生労働省の平成19年度、脳・心臓疾患などによる「過労死」等事案の労災補償状況では

  • 請求件数は931件であり、前年度に比べ7件(0.7%)減少
  • 支給決定件数は392件であり、前年度に比べ37件(10.4%)増加
  • 業種別では請求件数、支給決定件数ともに「運輸業」が最も多い
  • 職種別では請求件数、支給決定件数ともに「運輸・通信従事者」が最も多い
  • 年齢別では請求件数、支給決定件数ともに50~59歳が最も多い
と、長期的に増加傾向にあり、比較的若い世代にもその影響がおよんでいます。ちなみに認定件数は平成12年度は85件、平成13年度は143件で、増加傾向が明らかです。

ストレスと心臓の関係で考えられるメカニズム

ストレス

ストレスホルモンが出続ける状態では次第に体が消耗し壊れて行きます

過度のストレスが体にかかり続けると、副腎髄質(ふくじんずいしつ)から、カテコラミンというホルモンが分泌されます。一般にもよく知られているアドレナリンはその代表例です。これは「ストレスホルモン」とも呼ばれ、攻撃性の高いホルモンで、血管を収縮させ、血圧や血糖値を上昇させ、心拍数を増し、心臓の収縮を促すよう働きかけます。

また血液の凝固能が亢進します。一言でいえば、体がみずからを犠牲にしてでも敵と戦う状態をつくるホルモンです。

ですからその状態が続けば、体にとっては戦争状態が続くため、次第に無理が重なっていき、病気が発生するわけです。たとえば心臓や肺の機能が低下しやすくなり、動脈硬化が進むため高血圧となり、狭くなった血管内で血栓もできやすくなり、心筋梗塞などの心臓発作あるいは脳卒中などの危険性が増します。

またストレスホルモンのひとつであるカテコラミンは血管を収縮させて高血圧が起こりますし、他のストレスホルモンであるコルチゾールとともに血糖値を上昇させ糖尿病が起こりやすくなります。それらのために動脈硬化から心筋梗塞などへと進んでいきやすいのです。

ストレスに影響されやすいタイプとそうでないタイプ

勤勉

タイプA行動パタンの方は勤勉すぎてストレスがたまり病気になりやすいのです

少し専門的ですが、「タイプA行動パタン」という言葉があります。この行動パタンの方は、上記のカテコラミンを分泌しやすいタイプで、虚血性心疾患になりやすい性格や行動型と考えられています。これはもともと20世紀半ばに欧米から提唱されたものですが、性格は攻撃的、競争的、野心的であり、行動は機敏、性急で常に時間に追われ、身体面では高血圧や高脂血症が多いという特徴をもちます。

タイプA行動パタンは正反対のタイプBにくらべ、虚血性心疾患に2倍なりやすいとの報告があります。このタイプA行動パタンの人は仕事熱心、几帳面、自信家、常に何かと競争し、多くの仕事を抱え込み、ストレスが多い状態になっていると考えられます。日本では、欧米とは少し異なり、敵意や攻撃性よりも、性急さや仕事中毒といった仕事に対する過剰な熱意が特徴と考えられています。

一方タイプB行動パターンの方はのんびり過ごすことが好きで、仕事より趣味や家族との時間を大切にすることが多いです。そのためタイプAの方はそれこそ前向きにリラックスし体を守ることが勧められます。

睡眠不足・労働時間とストレスの関係

過労死

睡眠不足はストレスを増やしさまざまな病気のもとになります

前述の過労死とも関連するのですが、睡眠不足もストレスの増悪につながることが指摘されています。

2002年の厚生労働省のデータでも、睡眠時間5時間未満の1週間あたりの回数が0回の人に比べて、1回の人は心筋梗塞の危険率が1.2倍、2回以上の人は2.3倍にもなることが報告されています。

被災地で避難所などでは、ゆっくりと安眠できないことが多いようですし、睡眠不足という観点からもストレスが増加していることが心配されます。

ストレスを減らし、身体への害を少なくする方法

リラックス

体や心を休めリラックスしたり気分転換することは大切です

以下のことがストレス軽減に役立つでしょう。

■まずできるだけ休む
平凡なようでも、疲れ果てている状態を脱却する必要があります。前述の睡眠不足対策になることも。

■前向きな発想をする
被災者の方々にとって大変おつらい、難しいこととは思いますが、皆で励ましあって今後の新たな生活を考えることはストレス軽減に役立ちます

だんらん

家族や周囲とのふれあい、だんらんは大変有用なのです

■気分転換をする
これも現地では大変とは思いますが、コンサートやスポーツその他なんでも参加して気持ちをリフレッシュできれば役に立つでしょう

■家族や周囲とのふれあいを大切にする
当然とは言え、心温まる時間があればおのずとストレスは軽減しやすくなります

ストレスを軽減するためにさらに以下のことが提言されています

■笑う機会を増やす 
楽しい感情や会話は不謹慎だと考えてしまいがちですが、これから頑張らなければならない人たちのストレス対策として、笑う機会を大切にすることは重要です。楽しい話題、楽しい会話、テレビ(お笑い番組やバラエティー番組その他)などで。

■ウォーキングなどの軽い運動を 
運動そのもののメリットと緑に触れ合うことが副交感神経を刺激してリラックスにつながります

温泉

入浴でリラックスすることはストレス解消につながります。半身浴も使えます。

■入浴を楽しむ
38~39度のぬるめのお湯にゆっくりつかることでリラックス効果が上がります。熱いお湯は交感神経を刺激して逆効果になる場合もあります。また水圧が増えすぎないように、半身浴が心臓病などの方に勧められています

■趣味をもつ
ガーデニング、楽器演奏、手芸などの趣味をもつと心臓血管病になりにくく、長生きしやすいという報告が欧米からされています。

こうしたさまざまな工夫やケアによって地震や津波などに被災された方々の健康が守られ、二次的な病気が予防され、それが被災地の再建へと役立つことを祈ります。

参考サイト: 心臓外科手術情報WEB  心臓病・心臓手術の情報だけでなく、地震の被災者の方々の健康管理のページもあります

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