メンタルヘルス/PTSD・トラウマ・急性ストレス障害

震災後の心のケアに……考えるべきPTSD対策法

震災などで大きな辛い体験をしてしまった後は、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の可能性があることを理解し、できる限り対策していくことが大切です。PTSDの特徴、症状、治療法を再確認し、復興に向けて心の健康を整えるためのPTSD対策法を解説します。

中嶋 泰憲

執筆者:中嶋 泰憲

医師 / メンタルヘルスガイド

よみがえる過去のトラウマ

過度の恐怖体験後に大切なPTSD対策。過去のトラウマ体験が心によみがえらせないためには、最終的には、トラウマ体験に正面から向かい合う必要があります

東日本大震災で被災された皆様に、心よりお見舞いを申し上げます。

今回の未曾有の大震災では、日常生活からかけ離れたような恐怖を経験された方が、たくさんいらっしゃいます。被災地から遠く離れた地域でも、震災報道による急性ストレス障害やうつ病の悪化などが報告されているほどです。現地の方々のストレスの大きさは想像するに余りあります。

恐ろしい出来事の後、心の病気の中でも特に注意が必要なのは「PTSD(心的外傷後ストレス障害)」です。震災時の命にかかわるような体験は、脳内に強いショックをもたらすため、その後も心的後遺症で、家庭、仕事などの日常生活に深刻な問題を残してしまうことがあるためです。

一般的なPTSDの特徴、症状、治療法を再度確認した上で、今回の辛い試練からの歩き出すための一歩として、PTSDの具体的な対策法を解説します。

一般的なPTSDの特徴 

PTSD(心的外傷後ストレス障害)には、生死に関わる体験をした後、しばらく時期をおいてから、体験時の恐怖や絶望感が蘇ってしまうという特徴があります。こうした症状自体は、古くから大きな戦争が起こるたびに従軍兵士の一部に出現していました。PTSD(Posttraumatic Stress disorder)という病名が生まれた、直接のきっかけは、ベトナム戦争の帰還兵の約30%にPTSDの症状が見られ、さらに、PTSDの診断基準には至らないものの、これに近い軽症症状が約25%に見られたことによります。

PTSDは、現在では戦争に限らず、自然災害、性的暴行の犠牲者などに見られる共通の病態としてよく知られています。

PTSDの発症率、症状の重症度は、概ね体験の衝撃度に相関します。症状を重症化させやすいリスクファクターとして、小児期の虐待、周囲のサポートを得にくい生活環境、心理的葛藤、過剰飲酒などがあり、また、女性であることもリスクファクターの一つです。多くの人にはPTSDが生じないような体験でも、特定の人にはPTSDが生じることもあります。

今回の震災で直接被災しなかったケースでも、例えば突然妻を事故で亡くしてしまった男性が、その悲しみを抱えたままで大津波の映像をテレビで繰り返し見てしまった場合、妻を失った悲しみと災害の惨状が合わさって何度もフラッシュバックや悪夢の形でよみがえり、PTSDを発症してしまう可能性もあるのです。

PTSDの症状…「余震の揺れで震災時の恐怖が蘇る」等

PTSD(心的外傷後ストレス障害)では、その原因である衝撃的体験時の恐怖、絶望感を、悪夢、フラッシュバックの形で再体験し、また、体験を想起させるようなことを極力避けるようになります。今回の震災のPTSDの具体的症状としては、「余震の揺れで、震災時の恐怖がよみがえってしまいパニックになる」「今まで漁をしていたが、怖くて海に出られなくなる」といった訴えが考えられます。
PTSDの主な症状は以下の通りです。
  • 悪夢、フラッシュバックとして過去の体験がよみがえる
  • 日常生活上、トラウマ体験のことが頭から離れず、物事に集中しにくい
  • いつも緊張状態にある
  • 事件を想起させるような刺激を避ける
  • 感情が鈍磨している
  • 現実感が低下し、錯覚、幻覚が生じる
  • イライラしやすく、衝動性が高まる
こうした症状は、衝撃的体験後、数週間から数ヵ月後、場合によっては数年、数十年も経過してから出現することもあります。

PTSDの治療法…薬物療法と心理療法が有効

PTSD(心的外傷後ストレス障害)の最大の問題点は、PTSDの原因となる過去の衝撃的出来事が、心の中でフラッシュバックや悪夢などの形を取り、続いてしまうことです。PTSDの症状に対処すると同時に、トラウマ体験を過去の出来事として終わらせるために、薬物療法や心理療法を行います。

薬物療法は、脳内伝達物質のひとつ、セロトニンを調節する作用のある治療薬が主に用いられ、気分の落ち込み、衝動性の制御など、PTSDの症状全般に対処していきます。

心理療法では、PTSDの原因となった体験を擬似的に再体験させることtによって、その出来事への記憶を再構築していくといった方法が取られます。また、PTSDの症状はストレス時に増悪しやすいので、リラックスするテクニックを身につけ、ストレスへの対処術を向上させていきます。

震災からの復興に向けて……PTSDの対策法

PTSDは個人の心の強さには関係なく起きうる症状です。今回の大津波のような衝撃的な体験をしてしまった場合、誰にでも生じる可能性があります。被災の衝撃の大きさによっては、発症を完全に予防することは難しいケースもありますが、事前に対処しておくことでPTSDの症状を軽減し、治療期間を短縮化することは可能です。

震災後1ヶ月以上が経過した現在は、ある程度、心身の安全確保ができ、新しい日常生活のリズムが作られ始める段階でしょうが、PTSDについては、しばらく時期をおいてから発症する可能性があることは理解しておいた方がよいでしょう。大震災から一ヶ月が経過して、当初の恐怖、不安感が収まってきた方も、自分や家族の様子は少し気をつけて見てあげるのがよいでしょう。

トラウマは、それに背を向けるのではなく、向き合うことができるようになって初めて乗り越えることができるとも考えられています。時間がかかるかもしれませんが、辛い経験と正しく向き合えれば、後のPTSDの発症の防止なるのです。

そのためには、社会的孤立を避けて、周囲のサポートが得られやすい生活環境が不可欠。そして、本人がトラウマ体験に向き合うためには、仲間同士、特に震災のトラウマを体験を共有した人同士で、自分の気持ちを表出する機会を持つことが大切です。もしも、「自分だけ生き残ってしまい申し訳ない」といった罪の意識に苦しめられている場合は、その苦しみを押さえ込まず、正直な思いを周りに話し、他の人と共有しあうことで、心の苦しみの圧力を抜くようにしましょう。

さらに、心の緊張を和らげるリラックス法を工夫するなど、ストレス対策もPTSDの発症防止に役立ちます。

震災時のトラウマ体験が頭から離れず、日常的な物事に全く集中できないような状態が続いている場合は、症状が深刻化する前に、精神科(神経科)で相談するようにしてください。

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