肝臓・すい臓・胆のうの病気/脂肪肝

脂肪肝・非アルコール性脂肪肝の原因・症状・治療法(2ページ目)

肝細胞に中性脂肪が溜まってしまう脂肪肝。飲酒習慣のある人だけの病気ではありません。脂肪肝の症状、検査法、食事などによる改善法、治療法をまとめました。飲酒習慣がない人の非アルコール性脂肪肝についても解説します。

染谷 貴志

執筆者:染谷 貴志

医師 / 消化器・肝臓の病気ガイド


非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)とは

非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)とは、大量飲酒をしておらず、ウイルス性肝炎、自己免疫性肝炎などの原因がはっきりせず、主に肥満に伴って認められる肝臓への異常脂肪沈着のこと。

内臓肥満からくるメタボリック症候群(内臓脂肪、高血圧、耐糖能異常、高脂血症)は、心疾患、脳卒中による血管障害による死亡率が高くなることで注目されています。一方で、ALTやγGTなどの肝機能障害も心筋梗塞による死亡の危険因子になることが明らかになってきています。

つまり脂肪肝は内臓脂肪の蓄積によって生じる生活習慣病と考えられており、メタボリックシンドロームの肝臓における表現型といえます。

非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)とは

非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)とは、NAFLDのうち、約10%に認められる病気。進行性の病態をとり、肝硬変、肝がんに進展する危険があります。NAFLDの重症型と考えられており、アルコール性肝炎に類似した炎症、線維化を認めます。

肝臓の病気の進行というのは、肝臓の細胞が炎症を繰り返すことによって正常な細胞が、役に立たない線維に置き換わっていくことを意味します。これまでの報告では、NASHの患者さんを5~10年見ていると、そのうちの5~20%の人で肝硬変へと進展すると言われています。

NAFLDの診断

NAFLDそのものでは症状が出ることはほとんどないので、健診でチェックされるか、ほかの病気で血液検査をしたときに肝機能異常があり、発見の契機になることが多いです。なかには血液検査で肝機能正常のNAFLDもあり、この場合は健診の超音波検査で指摘されることもあります。

厳密に診断をつけるためには、肝臓に針を刺して肝細胞を取って検査する「肝生検」という方法を行います。しかし実際には肝生検は外来で簡単にできる検査ではありませんので、超音波検査やCT検査の結果をもって組織診断の代用をしているのが現状です。

NAFLDの診断で最も大切なのは、病気の進行があるNASHであるか、それとも単純性脂肪肝であるかを見分けることですが、残念ながらいまのところ、肝生検以外に、簡便に見分ける方法はありません。

NAFLDの治療法

日本では脂肪肝の増加と同じく、肥満の増加も著しいものがあります。そしてその原因は食生活と運動不足からくるものです。先に述べたように脂肪肝の患者さんはとても多く、そして進行性の病気であるNASHとの鑑別も大変難しいものです。そんな中での治療としては、薬物療法よりも、普段の食事と運動などの生活習慣の是正が大切になってくるということはおわかりいただけると思います。

食事療法
NAFLDの患者さんのための特別な食事があるわけではありません。脂肪肝は本来、食事が過食や偏食になっているために起きる病気であり、過食や偏食を正すことが最も重要になります。最近の日本では、食事自体の摂取カロリーが高すぎる傾向があります。なので、バランスのよい食事を心がけていても、ついカロリーオーバーしてしまうわけです。

摂取カロリーの目安としては、1日に標準体重当たり25~35kcal/kg/日と言われています。これはどれくらいかというと、身長160cmで1400~2000kcal/日、身長170cmで1600~2200kcal/日くらいです。急激な体重減少は反動も起きるため、まずは55の体重減を目標として、月に1kgくらいの減量にとどめるほうがいいでしょう。

脂肪量は総エネルギーの20~25%以下にするのがいいと言われています。食事で意識するとすれば、肉やバターなどの動物性脂肪を減らして、中性脂肪を下げる作用がある青魚を摂取したりするのがいいでしょう。炭水化物としては、砂糖・菓子・果物・ジュースなどはある程度制限したほうが、脂肪肝を増悪させにくいですね。食物繊維は不足がちになりますので、ビタミンCやEを補給する意味でも。野菜、海藻類、きのこ類の摂取を増やす方がいいです。

運動療法
食事で摂取カロリーを減らせば、もちろん脂肪肝にとっても、肥満にとってもいいことは間違いありません。しかし、極端な食事制限のみで運動をしなかった場合は、体脂肪が減少せず、むしろ筋肉などが減ってしまい、メタボリック症候群には効果がないという報告もあります。そのため、適切な食事に加えて、有酸素運動を継続することが、最も効果が高いと考えられます。

ここでの有酸素運動は、簡単に言えば、ウォーキングやジョギング、サイクリングなどある一定時間継続することが可能な運動です。腹筋、背筋、スクワットなどの筋力トレーニングは無酸素運動といって、体脂肪減少には有酸素運動ほどは効果が得られません。有酸素運動としては、上に挙げた以外にも散歩、ラジオ体操、水泳などがいいでしょう。大まかにはおよそ脈拍が100~120/分くらいになる強度の運動です。具体的にはこういった運動を1回10~30分、週に3~5回するのが理想的です。

もちろん、普段仕事をしている人がこれを継続するのは大変かもしれません。その場合は、週1回から始めていけばいいのです。さらには日常の生活におけるエネルギー消費も肥満防止にいいといわれていますので、エレベーター、エスカレーターを使うところを階段に変える、通勤帰りにひとつ前の駅で降りて、歩いて帰るなども有効な手段です。

薬物療法
現在のところ、NASHの治療として確立された治療法はなく、さまざまな治療法が行われています。現時点では抗酸化作用があるビタミンE、ビタミンC、糖尿病に用いるインスリン抵抗性改善薬、慢性肝炎に対して用いる肝庇護剤などの有効性が報告されていますが、まだ日本では、これら薬剤の有効性の検証はこれからです。
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