糖尿病/その他の糖尿病の合併症

糖尿病治療の制約因子……低血糖の症状・兆候

症状とは「自覚できること」、兆候とは「他の人が異常に気づくこと」を指します。言葉のもつれや、不自然な発汗は周りの人のほうが気づきやすいもの。人の介抱を受けるようなシビアな低血糖は危険です。低血糖が起きたときの主な症状・徴候について知っておきましょう。

執筆者:河合 勝幸

ブドウ糖

低血糖のリカバリーにはブドウ糖が最適です

症状とは「自覚できること」、兆候とは「他の人が異常に気づくこと」を指します。言葉のもつれや、不自然な発汗は周りの人のほうが気づきやすいもの。人の介抱を受けるようなシビアな低血糖は危険です。

低血糖さえなければ、もっと積極的な血糖コントロールができるのですから、低血糖は治療の「制約因子」として扱われています。医師が血糖降下薬やインスリンにとても慎重なのはそのせいですよ。そして、これは誰にでも、どこでも、いつでも起こりうる緊急事態です。全ての糖尿病患者とその家族、友人はその対処法を知っておきましょう。

理想的なA1Cを保っている人ほど、低血糖リスクは高い

糖尿病の治療は、つまるところ、インスリン効果を強めることにあります。直接的にインスリンを注射したり、間接的に体のインスリン分泌を強めたり、インスリン感受性を高めたり、あるいは肝臓からのブドウ糖放出を抑えたりする薬を使います。

基本の食事療法で体が必要とするインスリンを一定にして負荷を減らしたり、運動することで不足しているインスリンを使わなくても筋肉にブドウ糖を取り込むといった方法もあります。

外部からインスリンを注射したり、経口薬でインスリン分泌を人為的に強めると、血中のブドウ糖を処理する以上にインスリンが体に存在することがあります。これは、いつも同じ食事をして同じ薬を使っていても起こります。体が必要とするインスリン量が常に変化するからですね。治療ではその日のインスリン、経口薬を見込みで与えますから、どうしても過不足が生じます。

同じ単位のインスリンを注射しても、その吸収レートは日によって20~30%も変化するのです。体温や外部の温度、注射したところの血行が良いか悪いか、皮下注射の深さ、体のどこへ注射したかetc、毎日一つとして同じ条件はありません。体にインスリンがあれば血糖値が下がり続け、さらに正常範囲を下回れば低血糖になります。

困ったことに、生活習慣を守り、指示通りの薬を使って、理想的なA1C(平均血糖値)を達成している人ほど危険な低血糖になりやすいのです。


低血糖を防ぐメカニズム

低血糖を理解するために、まず健常者や正常な反応がまだ残っている糖尿病者が、どのように低血糖にならないように血糖を保っているかを理解しましょう。

血糖が下がったとき、体の最初の反応として、ベータ細胞からのインスリン分泌が減少します。静脈血の血糖が80mg/dlの安全な下限値までは血糖降下とともにインスリン濃度が下がり、それが同時に肝臓や腎臓の糖生成、糖新生を促すシグナルになります。

神経内分泌システムが低血糖を防ぐ第2のバリアーです。血糖が下がり続けて65~70mg/dl以下のマイルドな低血糖になると、膵島のアルファ細胞からグルカゴン、副腎髄質からエピネフリン(アドレナリン)などが分泌されます。グルカゴンは肝臓の糖生成(グリコーゲンをブドウ糖に分解して放出)や糖新生(アミノ酸などからブドウ糖を作る)、エピネフリンも肝臓や腎臓の糖新生を刺激して、同時に体の末端組織のブドウ糖の利用を減らします。

インスリン分泌を減らして低血糖を予防する第1のバリアーは、インスリン注射が不可欠な1型糖尿病、SU薬やインスリン治療を必要とする病歴の長い2型糖尿病では役に立ちません。注射したインスリン、血糖降下薬が残っている限り、低血糖になっても血糖が下がり続けます。

第2のバリアーでも詳しいメカニズムは不明ですが、1型糖尿病は発症後2~5年で低血糖に対するグルカゴン分泌能が失われるとされます。その代り、低血糖に反応する交感神経副腎系や他の神経内分泌シグナルの活動は残っていますから、その症状を頼りに低血糖を治療することになります。

不幸なことに、1型糖尿病と診断されて10年以上たつと、低血糖に反応するエピネフリンが、より低い血糖値にならないと分泌されない傾向になります。つまり、低血糖に気づくのが遅れます。その原因も対策も分かってきましたから、次回で解説しましょう。


知っておくべき低血糖の症状・兆候

■血糖値70mg/dl以下の症状
主な症状は、神経質、ふらふら感、いらいら感、落ち着かない、火照(ほて)り、発汗、寒気、動悸、頭痛、めまい、ふるえ、極度の空腹感、口の渇き、顔面蒼白など。

血糖値が70mg/dl以下に低下するのは、体にとって危険なことです。交感神経副腎系や他の神経内分泌から出るエピネフリンやコルチゾールというシグナル(ストレスホルモン)は、いわば身体の細胞の総動員指令であり、危険に対処する生体の防御機構なのです。その作用でこれらの自律神経症状が出ます。

■ 血糖値50mg/dl以下の症状
主な症状は、眠気(ねむけ)、物が見えにくい、吐き気、ぼんやりする、怒りっぽい、悲しい、自分勝手な行動、混乱、判断が出来ない、睡眠中の悪夢、身体がぎこちない、意識消失、発作など。

これらの症状が全て出るわけではありません。個人差があり、個人でも時と場合によって変わります。

生化学的には、低血糖症の定義は血糖が50mg/dl未満になることですが、糖尿病治療では上記の早期の警報レベルから低血糖として対策をとります。血糖値が50mg/dl半ばまで下がると、患者は典型的な神経組織糖欠乏症を示します。

子どもは早期にエピネフリン症状が出ますし、高齢者は分かりにくいものです。認知症の糖尿病患者が低血糖になって異常行動を取っても、誰も低血糖と思わないでしょうね。

低血糖の原因と予防を考えると、単なるインスリンの過剰ではなく、糖尿病治療の宿命的な問題に直面します。次回は治療と予防を解説します。

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