皮膚・爪・髪の病気/床ずれ・褥瘡(じょくそう)

床ずれ・褥瘡(じょくそう)の薬・軟膏の使い方・市販薬

【形成外科医が解説】床ずれ・褥瘡に対して軟膏などの外用薬を使用する目的には、壊死組織の除去、細菌感染の抑制、肉芽形成などがあります。床ずれの状態や患者の全身状態に応じて、適切な薬剤を選択して治療することが大切です。市販薬も含めてそれぞれの薬の特徴と作用、価格を解説します。【※実際の褥瘡の症例画像を挙げております】

井上 義治

執筆者:井上 義治

形成外科医 / 皮膚・爪・髪の病気ガイド

重症の床ずれが生じてしまった場合

患者のケア

一般的には「床ずれ」と呼ばれる褥瘡(じょくそう)。予防はもちろん、できてしまった場合は適切に治療することが大切です


床ずれ(褥瘡・じょくそう)の症状・原因」で詳しく解説しましたが、骨の上の皮膚、皮下組織の障害である褥瘡。意識障害や寝たきり、脊髄損傷などのさまざまな原因で発生します。早期発見と予防が大切ですが、重症の床ずれの場合でも、総合的な治療を行うことで治癒が期待できます。今回は、実際の重症の褥瘡の症例画像を挙げながら、治療のための薬の種類と特徴を解説します。
   

重症の床ずれ・褥瘡の症例画像

仙骨部に生じた重症の褥瘡・床ずれ画像

仙骨部に生じた重症の褥瘡・床ずれ

右のような重症の床ずれの場合、外用薬を使用する前に、黒く壊死した皮膚を切除する必要があります。皮下の浸出物、膿瘍を体外に排出することに加え、軟膏を使用したい組織に接触させるためです。
 
黒色の壊死した皮膚を切除後

黒色の壊死した皮膚を切除後まだ黄色の壊死が残っている

皮膚切除後は、右写真のような状態になります。この状態から以下のような外用薬を使用して治療に当たります。
 

褥瘡治療・床ずれに使用する薬・軟膏一覧(市販薬も含む)

感染が強い場合は、以下の薬を使用します。記事中の薬は病院での処方が必要ですが、一部の薬は同等の効果のあるものが市販薬として薬局で入手可能。ただし床ずれ治療は通院、在宅訪問医療、在宅訪問看護が必要ですので、薬を処方してもらうのは容易でしょう。

■ユーパスタ
褥瘡の初期治療の標準薬です。
 
ユーパスタ

ユーパスタ軟膏 白糖とヨードの成分です

成分:白糖が70%、ポピドンヨード(うがい液に含まれる主成分)が3%含まれています。右は100gのチューブの製品ですが、8gの製品もあります。

価格:1gあたり43.5円ですが、保険適応がありますので、3割負担などの保険の区分に応じた分だけを支払います。

効果・特徴:
ポピドンヨードが殺菌作用を持ち、白糖が床ずれの浸出液を吸収する作用を持つので両方を組み合わせた効果が期待できます。感染があり浸出が多い床ずれ、普通は初期の床ずれに一番効果があります。

副作用:
ヨードアレルギー、皮膚炎(かぶれ)、皮膚の痛み・痒み・発赤、甲状腺機能低下症、甲状腺機能亢進症などが報告されています。頻度の高い副作用は皮膚炎です。この場合他の薬剤への変更が必要となります。

■ゲーベンクリーム
昔から使用されている安価な薬です。
 
ゲーベン

ゲーベンクリーム 白いクリームです

成分:1%の割合でスルファジアジン銀を含みます。この銀がもつ殺菌効果により細菌感染を抑えます。

価格:価格は1gあたり13.9円と安価です。

特徴・効果:
抗菌薬でなく銀という化学的な殺菌作用を有する薬ですので、耐性菌が生じにくいという特徴があります。ただし浸出液を吸収する作用が全くないので、ある程度乾いてきた床ずれに使用します。

副作用:
汎血球減少、皮膚壊死、間質性腎炎、発疹、接触性皮膚炎、疼痛などです。

■カデックス
非常に有効な薬です。
 
カデックス

カデックス外用散 粉の薬です

成分:軟膏、外用散の形態があります。成分はユーパスタと同じでヨードを0.9%含有します。

費用:1gあたり79.4円と高価です。

特徴・効果:
他の薬剤で治療して効果のない場合カデックスに変更して治癒する効果が期待できますので、非常に有効性の高い製剤です。浸出液の吸収と殺菌作用の両方の作用があります。

副作用:
使用部位の疼痛、刺激感、発赤などとなります。

 

褥瘡・床ずれの薬・軟膏の使い方・床ずれの治療法

外用薬は正しい手順で使用しないと、本来の作用を発揮できないことがあります。そればかりか、床ずれを悪化させるころさえあるので注意が必要です。使用上の注意として、まずは外用薬を使用する前に、必ず洗浄を行って下さい。

1. 石鹸を使用します。
石鹸

石鹸で浸出液、前日の残った軟膏を洗います

油性の成分や床ずれの浸出液、感染組織を洗い流すためです。
 

2. その後水道水で洗い流します。
水道水

大量の水道水で石鹸を洗い流します







 
ワセリン

ワセリン

3. 周りの皮膚はワセリン などで保護します。
石鹸で取り除かれた皮脂のかわりに周囲の皮膚を保護し、乾燥や外力からの抵抗を和らげます。









 

壊死組織除去目的の外用薬

血流のなくなった組織を壊死組織と呼びますが、細菌感染の原因となります。
壊死組織がある場合デブリサン、リフラップ、ブロメラインなどを使用します。
 
ブロメライン

ブロメライン軟膏

■ブロメライン
直接蛋白質を分解し有効です。

成分:蛋白質分解酵素であるブロメラインが成分です。
費用:1gあたり24.9円と安価です。

副作用:
出血、疼痛、痒み、皮膚炎、刺激感、水疱、浮腫など

 
きれいな肉芽

きれいな肉芽の状態です 次に上皮化を促進する軟膏を使用します

右図のように感染も治まり、壊死組織も除去できたら皮膚の再生を図ります。





 

上皮化促進目的の外用薬

褥瘡でなくなった上皮を薬で再生させます。
この薬も種類があります。

■アクトシン
アクトシン

アクトシン軟膏 冷所に保存する必要があります

以前からある薬ですが、今でもよく使用されます。

成分:ブクラデシンナトリウムという名前で、局所の血流増加、血管新生促進、肉芽形成促進、表皮形成促進などの薬理作用のある薬です。

価格:1gあたり53.4円です。

副作用:使用部位の疼痛、発赤、刺激感、接触性皮膚炎、浸出液の増加などとなります。
 

■プロスタンディン
プロスタンディン

プロスタンディン軟膏 常温で保存可能です


単剤の効果はやや弱いのですが、ラップと組み合わせると大きな効果を発揮します。

成分:アルプロスタジルで、皮膚血流増加、血管新生促進、表皮形成促進作用があります。

価格:1gあたり58.7円です。

副作用:疼痛、刺激感、接触性皮膚炎、痒み、熱感、発赤、浸出液増加などです。
 

■フィブラストスプレー
フィブラスト

フィブラストスプレー 液体です


最も効果のある薬ですが、高価です。

成分:トラフェルミンと呼ばれる塩基性線維芽細胞成長因子を遺伝子組み換え技術で作成した蛋白質です。作用として創傷治癒促進作用、血管新生作用、肉芽形成促進作用ですが、他の薬剤が間接的に効果を持つのと違って、直接体の中で作用している物質を外から補給して上皮化する作用を持っている唯一の薬です。

価格:1本 12,338.7 円と非常に高価です。

副作用:
過剰肉芽形成、刺激感、疼痛、痒み、発赤、発疹、接触性皮膚炎、肝機能障害、浸出液の増加となります。
 

薬による床ずれ・褥瘡の治療結果

床ずれは完全に治癒

床ずれは完全に治癒しました

冒頭の写真の方は、大部分を外来通院で治療しました。治療期間は原因疾患の治療に2週間の入院で、入院中に褥瘡の治療を開始し、退院後床ずれの外来治療を約4ヶ月間行いました。壊死組織の除去以外はすべて薬だけの治療を行い手術を必要としませんでした。

右写真は治癒後の写真です。薬による治療効果の高さが分かると思います。
 

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