生活習慣病/生活習慣病の原因・予防法・改善法

食事療法・運動療法を始める前に知っておきたいこと

生活習慣病の予防のために、食生活や運動習慣の改善が必要と思っていても、具体的に何をどの程度すればよいかわからない人は多いもの。そもそも生活習慣を変える目的は? あなたに効果的な方法は? 生活習慣の改善を考えたら、まずこちらの記事をご覧下さい。

井上 真理子

執筆者:井上 真理子

医師 / 生活習慣病ガイド

生活習慣病の患者さんによく聞かれる質問の中には、食事療法、運動療法に関するものが多くあります。

「食事と運動と、どちらがより効果的ですか?」「食事療法と運動療法は、どの程度行えばいいですか?」「よくなったら止めてもいいのですか?」など、さまざま。細かい治療方針などは主治医によって異なると思いますが、今回はこれらの質問に関して私が診療室でしているアドバイスを解説たいと思います。

始める前に再チェック! 生活習慣を見直す目的は?

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生活習慣の改善で元気に長生きを

食事療法、運動療法は生活習慣病治療の基本となるもの。では、生活習慣病治療の目的はなんでしょうか? 繰り返しになりますが、それは、「血糖値やコレステロール、血圧をコントロールすることで、糖尿病の合併症や動脈硬化の進行を防ぎ、元気に長生きすること」です。

血糖値やコレステロール、血圧の目標値は、過去のデータ解析結果から得られた、糖尿病の合併症を発症するリスクや、動脈硬化進展のリスクが大きく低下する値を採用して、定められています。ですから、それぞれの目標値を達成することには大きな意味があるのです。      

ところが、どの程度の食事療法と運動療法で、 どの程度の数値の改善が得られるかには個人差があります。一概にどの程度行えばよい、とは言えないものなのです。さらに、生活習慣病の原因は悪い生活習慣と遺伝的要素なので、 残念ながら、必ずしも生活習慣の改善のみで、全ての患者さんが目標値まで改善するわけではありません。また、どの程度の食事療法・運動療法が実行可能かにも個人差があります。このことを理解した上で、自分にあった生活習慣の改善法を探していくことが大切なのです。

食事療法と運動療法、どちらが優先?

「運動と食事と、どちらがより効果がありますか?」という質問も、よく受けるものの1つ。

実際に、運動で消費できるカロリーは思っているほど多くありません。それに比べて、脂の多い食事やお菓子はとてもカロリーが高いのは事実。例えば、ケーキ1個分のカロリーを運動で消費しようと思ったら、40~50分間走らなければなりません。体重が多く、治療の一環として減量が必要な方には、カロリー制限という点で、食事療法が大きな効果をもたらすと思われます。しかし、運動は、毎日少しずつでも続けていただくことで、脂肪が減り筋肉が増え、その結果血糖値が下がりやすくなるという、体質改善による長期的な効果が望めるのです。

両方をバランスよく実行していただくのがよい、という、当たり前な結論になってしまいますが、患者さんひとりひとりのレベルで考えると、より悪い習慣がついていたほうを改善させると、より効果がでやすいと、個人的には思っています。

例えば、いつも乗り物を利用する方が歩くよう心がけただけで、意外なほど効果があがったのを目にした経験が多くありますし、甘い清涼飲料を毎日飲んでいた方が飲み物をすべてお水に変えただけで大きな効果が得られることもしばしばです。それに、明らかに「よくない生活習慣」と思えることのほうが、なんと言いましても実行しやすいようです。つまり、「こんな食生活じゃダメだと思っていました」とか「運動不足だなとは思っていたんです」と言う方は、生活習慣改善の必要性を納得されるので、実行しやすく、続けやすいようです。

では、生活習慣の改善、具体的には、どのように始めたらいいのでしょうか?

生活習慣改善の始め方

運動療法、食事療法で大事なことは、長く継続していくこと。なぜなら、生活習慣を改善して目標値をクリアしても、また生活習慣が悪化すれば、せっかく良好になった数値もまた跳ね上がる可能性がじゅうぶんあるからです。ですから、ひとりひとりにあった、効果的で、かつ継続可能なやり方を見つけることが重要です。

食事・運動療法の始め方ですが、私は大きく分けて2通りあると考えています。

  1. 最も簡単に実行出来そうなことを1~2個選んで開始する。1~2ヶ月で結果を見て、改善が不十分なら、さらに1~2個、できることを追加していく。
  2. 最初から出来る限り厳しく実行、十分な改善が得られた時点から、結果を見ながら少しずつ楽しみを加えていく。

それぞれの利点・欠点を挙げてみましょう。

1.の場合
○ 実際に実行しやすい
○ どのような生活習慣改善がどの程度効果があったのか、わかりやすい
× 目標値まで改善するのに時間がかかることが多い

2.の場合
○ 早く大きな改善が得られる可能性が高い
× 厳しすぎて続けられない、反動で悪化しやすい
× いろいろ実行したなかで何が最も効果的だったのか、わかりにくい

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生活習慣の改善は、できることから少しずつ

段階を追って制限を増やしていくことの方が受け入れられやすく、負担、ストレスが生じにくいという点から、個人的には1の方法をお勧めしています。しかしどちらの方法があうか、一番は性格によるかも知れません。時には、どうせやるなら2の方がかえって実行しやすい、という方もいらっしゃいます。ただし、2の場合、少しずつ制限を緩めて行くのは意外と難しく、また悪化してしまうケースも多くみられます。

しかし、リスクの大きい患者さんの場合には早急な改善が必要。ガイドラインでも早期に改善が得られない場合は、薬物治療開始が推奨されています。1の方法だと、まだ実行可能な生活習慣改善項目があるにも関わらず、内服が始まってしまう可能性があります。また、糖尿病に関して言えば、高い血糖値が長く続いていると、血糖値を下げるホルモンであるインスリンが効き難い体質になってしまっているので、1ではなかなか改善しないこともあるようです。

ストイックな食事制限や運動は効果がありますが、特に食事は毎日の楽しみの1つと言っていいと思います。それに、出来るだけ楽にいい値にしたい、というのが人情というもの。楽しく、無理なく続けられる、あなたに合った「良い生活習慣」を探してみてください。
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