メンタルヘルス/自傷行為・自殺願望

自殺が減らない理由、自殺予防に必要なこと(2ページ目)

2009年で自殺者3万人台が12年連続となりました。長年、自殺が減らないのはなぜでしょう? また自殺予防に必要とされる対策とはどんなことなのでしょう?

大美賀 直子

執筆者:大美賀 直子

公認心理師・産業カウンセラー /ストレス ガイド

複数の理由が絡み合って自殺は起こる

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絶望の連鎖で自殺へと追い込まれる

自殺の理由はさまざまですが、警察庁の統計では例年「健康問題」が最も多く、「経済・生活問題」「家庭問題」「勤務問題」「男女問題」「学校問題」「その他」、と続いています。

しかし、自殺に至るほどの精神的ストレスを抱えている人の場合、単独原因のみで自殺にまで追い込まれるケースはむしろ少なく、複数の要因が複雑に絡み合って自殺へと向かっていくものと考えられます。典型的なのは次のようなケースです。

《勤務問題》
リストラにあった人が失職する

《経済・生活問題》
収入が低下する
ローンや学費が支払えない
家の売却、子どもの転校、退学

《家庭問題》
家庭内の雰囲気が極度に暗くなる
和やかな会話が減少する

このように、複数の要因が絡み合うことで希望を失い、自分自身への無価値感が強くなっていくのです。


治療だけでは自殺予防にはならない

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治療では未解決の問題は治せない

自殺者数減少の取り組みに当たっては、複数の問題を同時に解決していくことが大事になると思われます。

しかし、自殺を考えるほど追い込まれている場合、うつ病症状の悪化によって思考力、決断力、集中力が低下しているため、自己だけの力で問題解決に向かえるような余裕はないはずです。

そこで自殺を防ぐためにも、諸分野の専門家へと早めにつないでいく支援が必要になってきます。医療機関でうつ病の治療を受けたとしても、職業、金銭、家庭等、他分野の問題が未解決のまま残っている状態では、たとえ回復しても再発してしまいます。

治療を行いつつも、たとえば職業に関しては、キャリアカウンセリングを利用しながら就職支援、生活支援情報が入手でき、金銭問題、家庭問題に関しては、弁護士やファイナンシャルプランナー、家庭問題相談機関等の専門家に相談がいつでも利用できるような状況にあることが大事です。


総合的な支援を考える専門職が必要

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自殺対策に必要なのは「総合支援」

ただし、自殺を考えるほどの状態では、情報を集めること、ましてや相談の予約電話を入れることすら負担になっているでしょう。そこで、これからは精神的に追い込まれた人が自立して生活していくための支援を考える、ソーシャルワークの強化が必要になっていくと思います。

厚生労働省は、うつ病や自殺での休業や失業などによる経済的な損失は、約2兆7000億円にのぼるとの推計を公表しました。自殺対策の遅れは、この国の成長も妨げるものとなります。自殺を防ぐには、社会福祉制度としての本格的な政策が必要です。誰もが安心して生きられる社会を実現するためにも、今後の展開に期待したいところです。
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