不妊症/人工授精・体外受精・顕微授精

体外受精(顕微授精)のメリット・デメリット

今回から3回シリーズで体外受精(顕微授精)についての解説を行ってまいります。不妊治療において革新をもたらした体外受精の歴史、どのように進化してきたのか?そのメリットデメリット、日本の現場の状況、体外受精の治療法の解説など幅広く説明を行っていく予定です。

執筆者:池上 文尋

今回から3回シリーズで体外受精(顕微授精)についての解説を行ってまいります。不妊治療において革新をもたらした体外受精の歴史、そのメリット・デメリット、日本の現場の状況、体外受精の治療法の詳細解説など幅広く説明を行っていく予定です。

これから体外受精を受けようとされている方や実際に治療中の方も読んで頂き、少しでも妊娠率が上がるように知識を身につけて頂ければと思います。

体外受精の歴史・初めて生まれた赤ちゃん

体外受精の受精シーンです。

体外受精の受精シーン。

体外受精の話で最初に出てくるのは「ルイーズ・ブラウン」という名前です。初めて体外受精でこの世に生まれて来た赤ちゃんです。

ルイーズの父親ジョンと母親レズリーは9年間子供を授かろうと努めていたものの、レズリーの卵管に異常があったために自然妊娠はかなわず、体外受精に望みを託しました。

この体外受精技術は、ケンブリッジ大学のロバート・エドワーズ教授と婦人科医パトリック・ステップトーが12年間に及ぶ研究の末に完成させたもので、1977年11月10日に母体から採取された卵子を体外受精させ、2日半後、受精卵を母の子宮へ移し、その後は通常の妊娠と同じように推移しました。

1978年7月25日午後11時47分、イングランド北部のオールダム総合病院で、帝王切開により世界初の体外受精技術による子供として誕生しました。ルイーズの誕生は世界中の不妊に悩む人たちの大きな福音となりました。

それ以来、世界中では体外受精-胚移植法の研究が急速に進められました。

そして、ルイーズは2004年9月4日に結婚。2006年7月11日、自然妊娠していることが発表され2006年12月21日に男の子を出産しました。体外受精で生まれた子供は子供を産めないのではないかという懸念も払拭したのです。

日本における体外受精

日本においては、1983年東北大学医学部付属病院の産婦人科教授であった鈴木雅州先生を中心とするチームの手により、体外受精が成功しています。その後、日本でも様々な大学や病院で研究が進められました。

そして、体外受精から進化して、少ない精子でも受精させ、胚移植出来る受精卵を確保出来る方法「顕微授精」が開発されて行きました。

重度の男性不妊でも受精できる顕微授精

1992年には、ベルギーの Palermo らが intracytoplasmic sperm injection (ICSI、卵細胞質内精子注入法)の妊娠例を報告し、1個の精子でも受精が可能なことから広く行われるようになりました。現在では顕微授精といえばこの ICSIを意味します。

体外受精では卵管や卵巣のトラブルで受精・妊娠しなかったケースを救う事が出来た事、そして男性側の精子が少なくても受精できるなどのメリットがありました。

しかし、無精子症に近い乏精子症の患者さんは受精・妊娠が難しい状況でした。しかし、このICSI技術が確立した結果、理論上では1匹の精子だけでも妊娠が可能になり、重度の男性不妊の方でも子供が授かる可能性を増やしたのです。

このように体外受精や顕微授精はこの30年ほどの間に急速に進んだ新しい治療法と言えるかと思いますし、まだ進化の途中であるとも言えます。

体外受精と顕微授精の用語解説

■体外受精
体外受精( In Vitro Fertilization,略してIVFと言われる事が多い)は、精子と卵子を採り出し、体外で受精させて得られた受精卵(胚)を子宮に戻す方法。受精し分裂した卵(胚)を子宮内に移植することを含めて体外受精・胚移植(IVF-ET)といいます。

当初は試験管で受精させたということで、「試験管ベビー」と言われた時期もありました。

■顕微授精
顕微授精は名前の通り、顕微鏡下で授精を行います。

顕微授精は名前の通り、顕微鏡下で授精を行います

受精を体外で行うので、顕微授精も体外受精の一部といえます。アメリカで取材した時には体外受精と顕微授精はほぼ同義語として扱われていました。

ただ、顕微授精は授精をする場面で精子の持つ力で受精をさせるのか、人為的にガラス管で卵子の壁を貫通させて授精させるのかの違いがありますので、より人工的な授精方法と言えるかと思います。

現在は極細のガラス菅に精子を1個だけ吸引し、卵の細胞質内に注入するICSI(Intracytoplasmic sperm injection 卵細胞質内精子注入法)が主流になっています。


体外受精が適用されるケース

高齢の不妊症の方・両側卵管閉塞例・男性不妊症・各種治療にて妊娠に至らない原因不明不妊などの方に行われています。

具体的な適応は、両側卵管閉塞例はもちろん、精子が1,000万以下・人工受精5回以上不成功の方・各種不妊治療で1年以上妊娠しない方など。

通常は精子を自然受精させるが、乏精子症など精子側の受精障害がある場合には顕微授精(多くの場合卵細胞質内精子注入法:ICSI)を行います。

顕微授精(ICSI)の様子です。

顕微授精(ICSI)の様子です

卵子を包む透明帯に問題が有り孵化しにくいときは、アシステッドハッチングと呼ばれる技術で着床の手助けをする事もある。自然での人間の周期あたり妊娠率は平均15%前後だが、IVF-ETの場合25%程となります。



体外受精のメリット

体外受精というと大変な手術のような感じがしますが、今は技術も進歩し、痛みはほとんどなく、多くの方がこの方法で赤ちゃんを授かるようになってきました。

体外受精のメリットは卵子と精子が出会い、胚が育つところまでをショートカットするので、その部分に問題がある人にとっては妊娠に近づくチャンスとなるところです。具体的に言うと、卵管に問題がある場合や精子の数が少なくてなかなか卵子までたどり着けない場合に有効です。

体外受精のデメリット

体外受精のデメリットとしては、受精の部分に問題がなく、他の要因、例えば卵子や精子の質の問題、子宮内膜環境の問題に対しては解決法とならない部分です。

また、経済的にも自由診療ですので費用負担が大きいところはデメリットになるかと思います。

次回は体外受精-胚移植法の実際の治療の流れを解説してまいります。
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