癌(がん)/がん告知・余命の考え方・メンタルケア

がんの持つ死のイメージとどう向き合うか

昔に比べイメージが変わりつつある癌ですが、自分や家族の命、将来のことなどを意識させられる疾患であることは変わりません。がんと告知された場合、私たちはどのように向き合えば良いのでしょうか? 医師としての経験の中で感じていることをお伝えしたいと思います。

狭間 研至

執筆者:狭間 研至

医師 / 癌ガイド

がんの持つ死のイメージとどう向き合うか

生き方があれば、死に方があるはずです。タブー視して考えないようにするのではなく、自分らしい生き方、人生のしまい方を考えることが、私たちに求められているのではないでしょうか?

生き方があれば、死に方があるはずです。タブー視して考えないようにするのではなく、自分らしい生き方、人生のしまい方を考えることが、私たちに求められているのではないでしょうか?

医療の進歩に伴い治療ができるようになった癌。昔に比べイメージが変わりつつありますが、自分や家族の生命、将来のことなどを意識させられる疾患であることは変わりません。発見時にすでに進行していた場合はもちろん、早期発見できた場合でも、色々なことを考えさせられるでしょう。がんと告知された場合、私たちはどのように向き合えば良いのでしょうか?

末期がんで余命を告げられるケースであれ、その多くの場合は病名がわかってから死に至るまでの間に、比較的時間の余裕があります。脳血管疾患や心臓疾患、そして事故や災害などのように、一瞬にして命を失ってしまうことはありません。このことは、プラスとマイナスの両方の意味があると思います。

マイナスの面としては、何よりも自分や家族の死という大きなテーマ、言ってみれば人間としての根源的なテーマに向き合わざるを得ないことが挙げられるでしょう。問題に直面したことによる精神的な負担は大きく、これはどんなに医療が進歩しても、容易に解決することが困難な問題です。

しかしプラスの面としては、自分の生命や人生について、十二分に考える時間がある疾患だということもできます。言葉に表してしまうと少し過激に見えてしまうかもしれませんが、個々人が考えるべき「生き方」があるのと同様、「死に方」があるはずだ、と思っています。
 

死ぬことをタブー視しないことから見えてくるもの

死生観は人の数だけあると思いますが、医師としての私の考えでは、死ぬという概念そのものは、生きると言うことと同様、生きとし生けるもの全てにとって自然なことだと思います。もちろん、その過程に事故や過失があってはいけませんが、ある一定の年齢が来れば生命の炎は消えるものです。

戦後、高度成長期の時代に医学・科学技術の進歩があり、死ぬということはいつしかタブーとなり、こと医療においては死ぬことはあってはならない、もしくは、敗北というマイナスのイメージの概念となってしまったように思います。しかし、当然のことですが、死ぬことは全ての人にとって当然な、自然なことなのです。
 

これからの医療を受ける上で求められることは?

これからの医療においては、自分の死生観について明らかにしておくことが重要だと思います。そして、同じ死生観をもった医療人とのコラボレーションが満足行く医療には欠かせないのではないかと思います。

これからの医療においては、自分の死生観について明らかにしておくことが重要だと思います。そして、同じ死生観をもった医療人とのコラボレーションが満足行く医療には欠かせないのではないでしょうか

私は、これからの医療において、医療を受ける側も提供する側も、ともに「死生観」を持つことが大切ではないかと思います。もちろん、これは特定の宗教・宗派によるものではなく、「生きることとは何?」「死ぬこととは何?」と一人一人が深く自分なりに考えることです。この死生観には、人によって様々でどれが正しく、どれが誤りということはないと思います。

そして、本当に満足行く医療とは、医療を受ける側と提供する側とでこの死生観が合致している場合に生まれるのではないかと思います。

例えば、とことんまで治療をするのか、QOLを重視しながら緩やかな治療をするのか、というのはどちらが良いという結論は出せない問題でしょう。しかし、この価値観、すなわち死生観が医師と患者さんとで合致・共有することが、満足行く治療のためには不可欠だと思います。

私も、まだまだ答えは出ていません。しかし、考え続けること、思索を深めていくことが、医療人としても社会人としても大切ではないかと考えているのです。

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